Interlude.2
第35話 最愛に報いるために、少女は……。
わたしは卑怯者だ。大罪人だ。
――――死んでしまえばいい。
何度そう思ったか分からない。
この世界の残酷さに、理不尽さに屈したわたしには世界を憎む権利すらないのだろう。わが身可愛さに、大切だったはずの彼を蹴落としたわたしなんて消えてなくなってしまえばいい。
しかし、わたしには死ぬことさえ許されない。
途方もない罪悪感が、わたしを生かしていた。
死んだら救われてしまう。痛みも感じなくなってしまう。だとしたら、死が償いになるはずがない。死ぬことこそが、逃げ道なんだ。
わたしは彼がいない残酷な世界で、生きたまま苦しみ続ける。
彼に、二度目の告白をした。彼女たちの命令。でも今度は、自分の意志でもある。もし彼が私を受け入れてくれるなら、そうしたら今度こそわたしは彼と共にこの世界と戦おう。そして二人で、二人だけの世界で、ずっと――――。
歪んだ夢を見た。
彼の隣には幼馴染の女の子がいて。大切な人たちがいて。
裏切者であるわたしを、彼が受け入れてくれるはずないのに。
目の前には、とある教室の扉があった。いつもの場所。息の詰まる場所。空気の淀んだ場所。悪魔の住処。
これからすることを思うと、心臓が跳ねた。
弱い自分が顔を覗かせる。
また、裏切るのか?
また、間違えるのか?
また、罪を重ねるのか?
また、また、また、また……わたしは……。
ここに来る途中で、彼女にすれ違った。わたしは何を言ったっけ。彼女に何かを言う資格も、あるはずないのに。でも、言ってしまった。
今一度、扉を見つめる。扉に手をかける。
進もう。
世界はとても残酷で。生きるのは辛いことばかりで。寂しさは降り積もるばかりで。いつも、消えてなくなることばかりを考えていた。消えてしまってもいいと、思っていた。
でも、彼のためなら。今度こそ、わたしは変わって見せる。
だからこの降りしきる雨のように冷たくて、出口の見えないトンネルのように暗いこの場所から一歩を踏み出そう。
これは、世界への反逆だ。
「あーくそ! なんでどれもこれも上手くいかないんだよ! クソクソクソ!」
教室に入ると、まずはそんな怒鳴り声が聞こえた。それだけで身がすくみそうになる。わたしのことなんて、目にも入っていないらしい。
「あれてんねぇリサちん」
「あったりまえだろ! ほんとウザい! なんなんだよ!」
「てかあの人たちサツに捕まったんしょ? あたしらもやばくね?」
「ああ? そんなんセイジたちがバラすわけないっしょ!? てーか、あたしらは一切、直接かかわってないしぃ!?」
「そ、そうだよね! ほっ……よかったぁ」
「あーもうイライラする! 授業なんか受けてられっかよ! カラオケいこカラオケ」
「お、いいね~いこいこ~」
「よっしゃ決まり。てことで~黒木ぃ」
視線が向けられる。いつもこうだ。都合のいい時だけ、わたしは彼女たちの世界に現れる。
「お金、貸してくんない? あたしら今手持ちなくてさ~」
にやにやと迫ってくる。
片手が、こちらに差し出される。わたしが従うことを疑っていない。
その手をわたしは――――払いのけた。
「……あ? 黒木ぃ? あんた、何してんの?」
すぐさま、イラついた表情でわたしの胸ぐらが掴まれる。それもまた、振り払った。
「汚い手で……わたしに触らないで!」
「はあ? 何言ってんの? 言いなりになることしか出来ない女が今更になってさあ」
「違う! 違う違う違う! わたしは! わたしはもうあなたたちの言いなりじゃない!」
「あーウザ。なにこいつ。調子乗ってね? あんさ、あたし今イラついてんだよね。ただじゃ済まさないけど。いいよね?」
苛立ち交じりに、彼女が歪んだ笑みを深めるく。いいサンドバッグを見つけたとでも思っているのだろう。わたしはこれから彼女たちに殴られ蹴られ、きっと酷い目に遭う。
でも、大丈夫だよ、甘党君。わたし、もう迷わないから。
これくらいでは何も変わらないことくらい、本当は知っている。わたしの命を懸けるくらいでないと。この身体に染みついた罪が消えることはない。いや、それでも、消えないのかもしれない。消えることなんて、決してないのだろう。
それでも。それでも。
他でもないあなたが、再会を願ってくれたから。
あなたに出逢うために。わたしは――――
「――――あああああああああああああああああああああああああ!!!!」
この世界と戦うよ。
そのための祈りを、勇気を、叫んだ。
わたしはこの世界が大嫌いで。きっともう、好きになれることなんてなくて。一生、権利などなくとも世界を憎み続けるだろう。
こんな世界、大嫌いだ。何度だってそう言うんだ。
でも、あなたのことが好きになれたから。ウソで塗り固められていたはずのあの時間に。悪夢のようだったはずのあの時間に。わたしは真実を見つけた気がしたのだ。
もう絶対に逃げない。そんなものはわたしの辞書から消してやる。
たとえ勝ち目がなくとも。奇跡など存在しなくとも。
あなただけを、わたしの世界にしたいから。
たとえ届かなくても。届ける資格などあるはずがなくとも。届かない愛を、この世界でたった一人のあなたへ。
叫べ。叫べ。叫べ。叫べ――――!
一生消えない罪咎に染め上げられたこの身体で。それでも叫び続けるんだ。
それが、それだけが、わたしの生きる意味だから。
カノジョに裏切られた引きこもりの俺を甘々の美少女たちは優しく迎えてくれました。〜幼馴染と始めるコイビト探し〜 ゆきゆめ @mochizuki_3314
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