実力派作家がアイデアの限りを尽くして描く、異世界の戦場

近世~近代レベルの文明水準の異世界を舞台に、『スーサイド・スクワッド』みたいな「刑罰としての異能の特殊部隊」ものの物語を展開する作品なんですが、これを「鉄砲玉としての勇者」という発想と接続してまとめ上げたのがタイトルに冠された「勇者刑」「懲罰勇者9004隊」というアイデアです。
それぞれの発想もなかなか気が利いてるですが、その組み合わせ方があまりにも上手い。

ひとつの作品の中に、古代の人型決戦兵器、神秘的な紋様を媒介とする魔術とそれを即物的・工業的に応用した魔術兵器、おとぎ話でもないと許されないような泥棒の名人、異世界転生主人公のパロディめいた異邦人のなれはて等、それぞれに異なるテイストのファンタジー性をもつガジェットが贅沢に放り込んであるのは作品の大きな美点ですが、なまなかな作者が同じことをやろうとしても作品の見せるべき物が拡散してしまうでしょう。

この作品と作者のなにより凄いのは、各回を作戦名で統一している点に良く表れていますが、この作品のどこをどう見せるのがいちばん面白いのかの要点を常に押さえ、開示する情報を統制し、雰囲気を統一し、作品を制御している事ですね。

作者の手のひらの上で転がされながら、戦場の匂いを感じ、人間世界の外縁から魔物の軍勢が現れる黙示録的光景を眺め、順番に作品に登場してくる皆してどうかしている異能の懲罰勇者たちの活躍を待ちましょう。