第78話 エピローグ

 あれからどれくらいの月日が経ったのだろうか。俺は今、追手から逃げている最中だ。俺は常に追われている。一体俺が何をしたと言うのだ。


「旦那様、何処ですか? お風呂の時間ですよ」

 やばい、追手が直ぐそこまで来ている。


「王様、今日もかくれんぼしてるの?」

 俺が路地に隠れていると小さな女の子に声とかけられた。

「しー。頼む。見逃してくれ」

「王様、むだなていこうは止めたほうがいいよ」


「旦那様、隠れても無駄ですよ。私から一生逃げられないのですから、大人しく出て来てください」

 ライカの大声が聞こえてくる。あいつの嗅覚からは逃げられないが俺もバカでは無い。既に体臭をごまかすための魔法具で身を包んでいる。見つかるはずない。これは次女のカナメに頼んで作ってもらった逸品だ。カナメは魔法具製作において謙虚な能力をみせており、数々の魔法具を作り、国の発展に協力してくれている。


「旦那様、見つけましたよ」

 な、なんだと。

「何故、ここが分かった!」

「カナメの作った魔法具で体臭を隠すとはなかなか考えられておりましたが、私にはエレクが作ったこれがあるのですよ」

 四男のエレクは機械という技術を用いた道具作りを得意としている。俺の右手にも義手を作ってくれた。単純な握ったり、殴ったりは問題なくできる。そして、レーザーとショットガンという武器も内蔵しているらしいがどちらも使用したことは無い。何処からこれらの技術を学んで来たのか不明なのだが、エレク曰く、勝手に頭に浮かんでくるらしい。

 ライカはエレクが作った機械で俺の居場所を探した様だ。

「これは旦那様の義手の場所を把握することができるのですよ」

 なるほど、明日はそこの対策をして臨まねばならんな。

「大人しくお縄についてくださいね」

 ライカが投げた手錠が俺の両手にかかる。


 ビーーーーーーーー。

 俺の手に手錠がかかった瞬間に街中に大きな音が鳴り響いた。

「おおっと、たった今、王様がライカ王妃に捕えられました。本日の逃亡距離は第3区27番地まで逃亡できましたので、本日のオッズは7.5倍で確定いたします」

「よっしゃ。当たったぜ。今日はごちそうだな」

「くそ、今日は思ったよりも逃げられなかった。外れちまったぜ。流石ライカ様ってところか」

「王様、逃げすぎだよ。もっと早く捕まってよ」

「ライカ様、流石です」

 街中から、俺達に声をかけられる。

「明日はトウカ様の番だろ、王様頑張ってくれよ」

「分かったよ。明日こそ王都を脱出してみせるから」

 俺は、街の人々に挨拶をしながら、ライカに牽かれ王城へ戻る。

 なんか、毎日こいつ等から逃げてたら、いつの間にか街の人々が賭けを始めていた。今では王国主導で賭けの主催をしている。やらせはしていないから安心してくれ。俺は常に全力で逃げている。未だに一度も王都から脱出出来ていないが……。


「お父様、今日はお早いお帰りですね」

 冒険の旅に出て戻っていないレイ君に代わり、国の宰相として国政を担ってくれている長女のモニカが声をかけてくれた。モニカも既に成人し、先日、他国より婿を貰った。

 結婚式も盛大に行い。俺は不覚にも大号泣してしまった。婿入りして貰う形なのだから、何も変わらないのだがな。あれは不覚をとった。記録用の魔道具を持ったレッドにしっかりと映像として保管されてしまったので、必ず見つけ出して廃棄する所存だ。

「モニカ、何か用事か?」

「お兄様からお手紙です」

 おお、レイ君からのお手紙か。久々だな。レイ君はあの日旅立ってから一度も帰って来ていない。今は海を渡り、別の大陸でS級冒険者として活躍中だと数年前にもらった手紙で知った。

 今日は何の報告だろうか?


「レイ君も大変そうだな」

 手紙を読んで出た感想はこれにつきた。

 手紙には結婚した事と、子供が生まれた事。そして、助けてほしい事が書いてあった。ハーレム怖いとも書いてあった。数年前の俺とほぼ同じ境遇になっているそうだ。

 だが、俺はレイ君を助けることはできない。

 なぜなら、俺の方がもっと助けて貰いたいんだからな。

「お父様、お兄様はなんと? 戻って来られるのですか?」

「いや、駄目そうだな。あっちの大陸で一国の王になった様だぞ」

「それは無理そうですね。次の王はツヴァイにお願いすることになりそうですね」

「まあ、次男だからな。可哀そうだが、いけにえになって貰うほか無いわな」

「もう暫くはお父様はご在任できそうですので、ゆっくり考えればいいでしょう。それよりもこっちの方が急ぎの案件ですよ。お父様にさらに輿入れの依頼が届いております」

「断ってくれ。もう無理だ」

「50人も51人も変わらないと思いますが……」

「もう無理だ。俺は奥さんの顔と名前が一致しないんだ。それに子供だって名前すら知らない子が一杯いるんだぞ」

「それは、まあ、仕方のないことだと。私も下の子達の名前覚えておりませんし」

 頑張ったんだよ。30人目くらいまでは覚えてたんだよ。でも50人を超えたあたりで諦めたんだよ。今では100人超えているんだから、無理ってもんだ。

「俺は子供たちの中に、俺の子じゃない子が混じっていても絶対に気付かない自信がある」

「そうですね。私も分からないでしょうね……。分かりました取りあえずお断りの連絡をしておきます。ツヴァイあたりに回しておきますよ」

 ツヴァイ。すまん。後は頼んだぞ。

「そうしておいてくれ」


 モニカと別れ、王城の中をライカに牽かれて歩く。

「なあ、今日はもう逃げないから、これ解いてくれよ」

「駄目です。今日は久々に私の番が回ってきたんですから、いっぱいサービスして貰いますよ」

「分かってるよ。でもまだ昼前だぞ」

「もう、昼前ですよ。やりたいことは一杯あるんですから。まずは稽古でしょ。次にお風呂でしょ。次にエッチして、お風呂でしょ。それで手合せして貰って、お風呂入って……」

「風呂多いな!」

「だって、義手ができてから一緒に入らせてくれないから……」

「仕方ねえな。今日はそれでいいぞ。稽古からだったな」

「やった。そうと決まれば早く行きましょう」

「待て待て、俺は今は普通の人間と変わらないんだから、お手柔らかに頼むぞ」

「そうでした。失礼しました」

 ここ数年で、俺の体はほとんど人間と変わらないくらいの強さに戻った。レッド曰く、魔神の魂とともに力も分散されていき、俺にはもはや出涸らししか残っていないそうだ。生えていた角ももうほとんど残っていない。恐らく寿命も人間のそれと同じくらいに戻っていることだろう。

 こいつ等が先に死んで俺だけ残されるなんてまっぴらだ。同じ時を生きて、死んでいける。これ程満たされるものは無いだろう。


「師匠、何をされているのですか、稽古を始めましょう」

「懐かしいな、その呼び方」

「師匠は旦那様になったけど、ずっと師匠ですよ」

「そうだな。では本日の稽古を始める」


「待ってー。私も参加する」

「私もですわ」

「僕も」

 トウカ、セツナ、ミリアも稽古に参加するらしい。

「勿論、いいぞ」

 俺の生涯で得た弟子4人。皆俺よりも強くなった。師匠としてこれほど嬉しい事はない。今も4人で組み手をしているが、俺が入れるような動きではない。


「皆、すごく強くなりましたね」

「そうだな。こんな素晴らしい弟子を持てて、俺は幸せ者だ」

「その弟子たちはアルが育てたのよ。アルは伝説の師匠ね」

 その伝説の師匠は毎日の賭けの対象にされてるけどな。

「子供達も成人して、私たちはお互いに歳をとったわね」

「アイシャは全然変わってないよ。俺が愛したままのアイシャだ」

「私、アルと一緒になれて今でもずっと幸せよ」

「それは俺もだ」


「あーーー。師匠、駄目よ。今日は私の番なんだから。奥様、ズルいですよ」

「何の事かしら。何もしていないわよ」

「むーーーー」


「皆さん、喧嘩などなさらずに皆さんですればよろしいではないですか」

 レッドーーー。要らん事を言うんじゃない。恐ろしい事になるだろうが。

「「「「それは良いわね」」」」

「駄目だよ。今日は私の番だって」

 そうだぞ、今日はライカの番だから諦めろ。5人相手なんて無理だから。

「私の時に一緒にしていいから」

 あっ。それは不味い。

「だったらいいです」

 おい、意見を変えるんじゃない。


 さて、逃げるかな。

「逃がしませんよ。師匠」

 逃げ出す前に、ガシッと肩を掴まれた。

 止めろ、離してくれ。5人は無理だって。俺もうとっくの昔に40過ぎてるんだよ。

 いやーーーーーー。




 路地裏で汚い子供を3人拾ったことで俺の人生は変わった。俺は今とても幸せ――うん、若干幸せだ。多くの家族に囲まれて毎日楽しく過ごしている。人生何処に転機があるか分からないものだな。

 これからも騒がしくも楽しい毎日を過ごしていきたいものだ。


 完


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

こんにちは。

作者です。本日遂に完結を向えることができました。

最後まで読んでくださった皆さん、ありがとうございました。


拙い文章にて読むに堪えない点等、多々あったことと思います。

コロナ禍で退屈な日々の癒しに少しでもなっておりましたら、幸いです。


これからも執筆は続けてまいりますので、

引き続き、応援くだされば嬉しい限りです。

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世話係として弟子にした獣人は美少女に進化した。頼みますから出ていってください。 間宮翔(Mamiya Kakeru) @KUMORINOTIAME

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