第3話(最終話)
先輩と共に学校を出たサクラは、警察署へと歩を進めていた。
「僕は死んだんだ。ジタバタしても仕方ないさ」
一時間ほど前のことになる。胸の糸がなくった先輩は冷静な声でそう言った。
「なんでそんなに落ち着いてるんですか。死んだのわかってます?」
「もちろんわかっているさ。人は遅かれ早かれいつかは死ぬものだ。僕は少し早かっただけにすぎない」
「どこの高僧なんですか。高校生のくせに悟りすぎですって。それに、先輩が死んじゃったら、犯人が判明しても、誰にも伝えられませんよ」
「問題はそこだね。死ぬのは仕方ないとしても、あの先生を野放しにはできない。そこでね、君にアレを指南しようと思う」
アレとは憑依のことだった。先輩はこう考えていたのだ。サクラとふたりでイケメン先生と女子生徒に憑依する。そして、警察ですべてを自白する。
問題はサクラが憑依をマスターできるかだったが、一時間も練習すればコツを掴めた。予定どおりにふたりで先生と女子生徒に憑依し、身体を乗っ取ったまま警察暑に向かっているのだった。
サクラは歩を進めながら言った。
「でも、まさかこっちが黒幕とは……この子、ちょっと怖いですね」
イケメンになった先輩は「うむ」と頷いた。
「女性は怖いものだ」
憑依して判明したのだが、黒幕は女子生徒のほうだった。女子生徒は先輩に説教されて本気でこう思ったのだ。
あんなやつ、死ねばいい。
そして、先生を利用して先輩の命を奪おうとした。ふたりの交際が校長に告げ口される。先生の性格が激情型と知ったうえで、そんな嘘をついて先輩を襲わせたのだ。
「説教されたくらいで殺意を持つなんて信じられないです」
「人の心は計り知れないよ」
先輩はそう言ってから「ところで」と話題を変えた。
「憑依はどうだい? なかなかいいもんだろ」
それはそのとおりだった。
「はい、憑依ってこんなに気持ちがいいんですね」
「君には久しく身体がなかった。そのぶんひとしおだろうね」
久しぶりの肉体は本当に素晴らしかった。頬を撫でる風が心地よく、地を踏みしめる感覚も
「まるで生き返ったみたいです」
言ってからサクラは「あれ?」と首を傾げた。
「先輩、このふたりに自白させる必要あります? 身体を奪うだけのほうがよくないですか。ふたりは先輩の命を奪ったんです。代わりに身体を奪ってやればいいんですよ。先輩も私もこのままふたりとして生きていきましょうよ」
そうすれば生き返ったも同然だ。しかし、身体を奪うというのは『目には目を』的な過激な理屈だ。真面目な先輩に不道徳だと説教され兼ねない。
サクラは前言を撤回した。
「冗談ですって。言ってみただけですから忘れてください」
ところが、先輩は「うむ、なるほど」とまんざらでもない顔をした。
「サクサクさんにしてはいいアイデアだね」
〔書籍化〕サクサクさんのいいアイデア 烏目浩輔 @WATERES
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