4.彼女

 更に時は流れ、僕らが家族になって初めての春がやって来た。

 その頃には、僕と翔二はすっかり兄弟らしくなり、時に軽口も叩き合うような仲になっていた。

 そんなある日のこと――。


「実はさ、太一。彼女を家に呼ぼうと思うんだけど、太一も会ってくれないか?」

「……へぇ? なんで?」

「なんでって……将来家族になるかもしれないんだから、今の内に紹介しておきたいなって」


 言いながら、赤面する翔二。

 普通、彼女を家に呼ぶのなら「家を空けておいてくれないか」とか「両親を外へ連れ出してくれないか」とか言って、二人っきりになるのに協力してくれと頼んでくるものだと思うが、翔二はかなりの初心らしい。

 いや、単に真面目なだけなのか……。


 ――そんな訳で、週末に翔二の彼女が我が家へやって来た。

 初対面の印象は、「すごい可愛い人だな」だった。イケメン高身長の翔二のことだから、もっと美人系だと思っていたのに、意外だった。

 髪はサラサラのセミロングだけれども、服装はちょっとラフで白いパーカーとダメージジーンズという組み合わせ。初めて彼氏の家に来たにしてはちょっと「攻め過ぎ」じゃないかとも思ったけど、それが逆に様になっている、そんな女の子だった。


「あ、君が太一くんね? あたしは果林かりんって言うの。よろしくね」

「よ、よろしくお願いします……」


 翔二に輪をかけた圧倒的な「陽」キャラ振りに、少し圧倒される。僕の手を一方的に握ってブンブンと握手するものだから、余計に緊張してしまった。

 というか、女の子と手を繋いだこともない陰キャには、これは眩しすぎる……。

 ――等と思っていたけれども。


「へぇ、太一くんあのゲームもやってるの? 結構『通』だねぇ」

「果林さんこそ、お目が高い……もしや、兄さんに『ツシマ・オンライン』を勧めたのって」

「何を隠そう、このあたしよ!」


 ――果林さんは生粋のゲーマー、というかオタクだった。陽キャにしてオタクだったのだ。

 特にネットゲームには造詣が深くて、そのお陰で話が合う合う。翔二が少し拗ねてしまうくらい、話が弾んでしまった。

 もちろん、僕に他意はない。果林さんは可愛い人だとは思うが、どちらかというと「姉さんがいたらこんな感じだろうな」という感情が湧いていた。


「じゃあ、果林さんも『ツシマ・オンライン』は、かなりやり込んでるんですか?」

「もう五年くらいやってるかな? 太一くんも同じくらい?」

「はい、それはもう!」


 「ツシマ・オンライン」は比較的マニアックなゲームなので、現実リアルで同好の士と出会える機会はとても少ない。

 だから僕は、いつになくハイテンションになっていたのだが――。


「……そっか。やっぱり、そうなのかぁ」


 果林さんの方は、何故か複雑そうな顔をしていた。


「あのね、太一くん。違ったらごめんなんだけど……太一くんのキャラって、第一サーバーでサムライやってない?」

「ええっ!? どうして分かるんですか?」

「分かるというか、分かっちゃったというか……」

「っ?」


 なんだろうか、果林さんはとても歯切れが悪い。苦笑いしながら、何かを迷っているようだった。

 そして――。


「う~ん、いずれ分かることだろうから、いいか。あのね、太一くん。驚かないで聞いてほしいんだけど、あたしが『ツシマ・オンライン』で使ってるプレイヤー名って――」


 続く果林さんの言葉に、僕が「えええええっ!?」と、今までに出したことがないような大声で驚いたことは、言うまでもないかもしれない。


 この数年後、僕が「ツシマ・オンライン」で兄のように慕っていた「親友」が、「義理の姉」へとクラスチェンジし、僕は再び「弟」になるのだが……そこに至るまでの顛末は、機会があれば、またいずれどこかで。



(TO BE CONTINUED?)

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弟になった日 澤田慎梧 @sumigoro

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