3.転機
相変わらず翔二との距離感を掴めずにいた、冬のある日のこと。
学校から帰ってくると、翔二がリビングに置いてある父のパソコンの前に陣取って、「あー!」とか「うー!」とか奇声を発していた。
一体何事かと、こっそりパソコンの画面をのぞいてみて――思わず絶句する。そこに映っていたのは「ツシマ・オンライン」のプレイ画面だった。
「あ、太一くんお帰り。ごめんね、うるさくして」
「いや、別に……というか、どうしたんですか? ゲームとか、あんまりやらないと思ってましたけど……」
翔二は根っからのアウトドア派で、テレビゲームの類もほとんど遊ばない人だった。
そんな人が「ツシマ・オンライン」のような玄人向けのゲームをプレイしているのだから、嫌でも興味を引かれてしまう。
「ん? ああ、知り合いがこのゲームやってるらしくって、俺もプレイしてみたんだけど……難しすぎてさぁ」
「ああ、これ結構マニア向けなので、普段からアクションゲームとかやってない人には、厳しいと思いますよ」
「マジか~! 『教えてあげようか?』って言ってくれたの、断っちゃったよ。今から泣きつくのも恰好悪いしなぁ……」
いつもリア充でイケメンオーラを放っている翔二の、なんだか子供っぽい言動に自然と笑みがこぼれる。
「この人も、こういう顔をするのだな」等と、今更になって知った。
だからだろうか、僕の口からはこんな言葉が自然に出ていた。
「良かったら、僕が教えましょうか? 実はこのゲーム、かなりやり込んでるんです」
――このことが直接のきっかけになったのか、その日から少しずつではあるが、僕と翔二の距離は縮まっていった。
お互いの趣味の話をしたり、学校の話をしたり。友達の話をしたり、部活の話をしたり。
そのお陰で、翔二には幼馴染の女の子がいて、最近ようやく告白して付き合えた、なんて微笑ましい話を聞くことも出来た。てっきり、もっとお盛んなのだと思っていたが、彼も案外と初心で純真な人だったらしい。
もちろん、お互いの価値観とか見えている世界が違い過ぎて、話が噛み合わないことも沢山あった。けれども、話が合う部分も決して少なくなくて……。
いつしか翔二は僕の名前を呼び捨てするようになり、僕は彼のことを「兄さん」と呼ぶようになっていた。
もちろん、ジョンにもそのことは報告していた。
『へぇ、まさか「ツシマ・オンライン」が兄弟の仲を繋ぐとはねぇ……。このジョンの目をもってしても見抜けなかったわ!』
『あはは。きっかけは確かに「ツシマ・オンライン」だったけど、僕の背中を押してくれたのは、やっぱりジョンだよ』
『僕?』
『うん。ほら、前に言ってくれたじゃないか。「無理にでも一歩踏み込め」って。あの言葉があったから、兄さんにゲームを教えるなんて発想が出てきたんだと思う。本当にありがとう』
『あはは、よせやい。照れるじゃないか! ……しっかし、「ツシマ・オンライン」で兄弟の仲が深まった、かぁ。世の中、似たような話はあるんだなぁ』
『何の話?』
『いや、ごめん。こっちの話――』
その後のジョンは、何故か少し歯切れが悪かった。
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