2.親友
『――という訳なんだけどさ』
ある日の夜。僕は「親友」に「新しい家族」への愚痴をこぼしていた。
とにかく誰かに、このモヤモヤした気持ちを分かってもらいたかったのだ。
けれども――。
『なるほどねぇ。でもさ、それってお兄さんの方も同じなんじゃない? 話聞いてると、お互いに距離を詰めようって気持ちと遠慮が、悪い具合に重なってる感じがするよ』
「親友」はなんとも手痛い、僕が心のどこかで感じていた気持ちを代弁してきた。
流石、四年以上の付き合いともなると、僕のことをよく分かってくれている。
「親友」の名前は「ジョン」という。
と言っても、本名やあだ名ではない。ネットゲームのプレイヤー名が「ジョン」なのだ。
僕らが会話しているのも、電話やメッセージアプリではなく、ネットゲーム上のチャットルームの中だ。
「ツシマ・オンライン」、それが僕らがプレイしているネットゲームの名前だ。
所謂MNO系のゲームで、蒙古襲来時の対馬を舞台にした、アクション要素の強いRPGだ。
コマンド入力を取り入れた格闘ゲームチックな戦闘システムや、「蒙古襲来時の対馬」が舞台なのに、何故か西洋風の剣士や魔法使いや狩人もプレイヤーキャラクターとして選択出来るというバカバカしさが一部の好事家に受けて、細々と十年近く続いている。
僕がこのゲームを始めたのは小学生の頃。ジョンと出会ったのも、ちょうど同じ頃だ。
お互いに何故か馬が合って、この四年以上、毎日のように「ツシマ・オンライン」の中で一緒に遊んだり、日常生活の愚痴をこぼしあったりする仲だ。
『ウノはちょっと、気を遣い過ぎなんじゃない? 未だにお兄さんのこと、名前とさん付けで呼んでるんでしょ? そりゃ、相手も距離を感じるよ』
『それを言ったら、向こうも僕のことを「くん」付けで呼んでるぞ』
――「ウノ」というのは僕のプレイヤー名だ。
キャラクターの
それぞれ前衛と後衛の職業なので、コンビを組んで戦いに出ることも多い――。
『うん。だからさ、お互いに気を遣い過ぎて、かえって距離が開いちゃってるんじゃない? 無理にでも一歩踏み込まないとさぁ』
ジョンは、結構ズケズケと物を言うタイプだ。けれども、彼のアドバイスが的外れだったことはあまりない。
何となくだけど、ジョンは僕よりも年上なんだと感じている。「親友」ではあるけど、どこか「お兄ちゃん」という感じもあるのだ。
(どうせ兄が出来るなら、ジョンみたいな人が良かったな……)
口には出さず、チャットにも打ち込まず、僕は心の中でだけ、そんな勝手な願望をつぶやいた。
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