オフィス・ピリオド
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オフィス・ピリオド
「おはようございます。」
だれもいないオフィスの一室で囁くようにそう呟いた女性がいた。
始業までまだ三十分ほども早い。その時間に来るのが彼女の日課だった。
横分けの前髪に短いポニーテールを揺らしながら自分の席に座った彼女は二十も半ばだろうか。
女性の名前は篠宮つくも。
彼女が父を亡くしてからもう十年が経過していた。
あの日のことはいまだ忘れない。
青ざめた母は取り乱しながら上着を羽織り車へ向かう。
急いで妹の手を引きながら母に置いていかれないよう走った。
そして辿り着いた場所は、アシュラ収容施設リスタ。
あの日、入院病棟に向かったはずの父が発見されたのは彼が働いていたオフィス・ピリオドの最寄り駅付近だった。
聞いた話によるとなんらかの理由で完成形アシュラになった彼は街や人を襲ったらしい。
そこに黒いフードを被った謎の男が現れた。
持っていた銃でアシュラになった孝明を何度も狙撃。そして息の根を止めた。
アシュラは殺しても罪には問われないが、基本一般人がアシュラを見つけた場合速やかにピリオドやリスタに通報しなければならない。
ピリオドの職員も基本はアシュラを殺さないのがルールだった。
謎の男は未だ正体がつかめていない。
あれ以来男はアシュラやピリオドの前に姿を現すことがないからだ。
死んだのではとも噂が立つようになった。
しかし、つくもはそうは思えなかった。
どこかでのうのうと生きていて、何の罪悪感もなく暮らしているのだろうと。
そう思うとハラワタが煮えくり返る思いがした。
ダンッと拳を机に叩きつける。
「うおっ」
その声で我に返る。
「部長」
気づけば自分の上司が部屋に入ってきていた。
「なんだお前、朝からなにキレてんだ。人の挨拶も無視しやがって。」
「す、すみません。」
つくもは立ち上がり謝罪する。
どうやら考えごとをしている間に彼は挨拶をしていたらしい。
眉間に刻まれた皺はいつもと同じ数なので別段怒っているわけではなさそうだ。
切れ長の目はつくもを捉えると改めて彼はおはよう。と言って部長席に着いた。
つくもも改めてあいさつを返し席に着く。
彼の名は望月彰。
ピリオドの戦闘部隊、対アシュラ対策実行部部長だ。
年齢は三十代後半から四十代前半くらいだったはずだ。つくもには年齢より上に見えたが。
「部長、私たち今日は駅前での見回り任務でしたよね。チームはいつものメンバーですか?」
「ああ。俺と篠宮、それと大原課長の三人だ。」
望月が頷きながらそう言うと部屋の入り口のドアが開いた。
「おっはよーさん。相変わらず早いね二人とも。」
「大原課長、おはようございます。今日もよろしくお願いしますね。」
大原課長と呼ばれた人物はツーブロックの髪をかき上げて強面の顔に白い歯をのぞかせニッと笑う。
「おう、よろしくな。駅前だからいい居酒屋もたくさんあんぜ。」
親指と人差し指をおちょこを持つポーズでクイッと傾ける。
苦笑したつくもの横目に映るのはため息をついた望月だった。
「朝っぱらから何言ってんだ。まずは任務だろうが。」
「かてぇこと言うなよ望月部長!お前さんも好きだろ?」
望月は言い返せない。
役職は違えど同期の二人はなんだかんだ仲がいい。つくもは楽しそうに二人を眺めていた。
始業十五分前にはだいたいの職員が揃っていた。つくもはストレッチをしながら任務に備えていた。
バディ~アシュラ対策防衛組織ピリオド~ やまいぬ @yamainu888
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