#14 異世界観光に行こう!

 あ、今度の旅行だけど、電車で行けるとこでいい?

 オレ、まだ免許持ってないからさ!


————


 ある日。


「そういえば、ヒカルのいた世界と、こっちの世界って、どう違うんだろー?」

 レナに聞かれた。


「うーん、『神殿』にずっと引きこもってたから、正直よくわからないんだよね」

「そっかー。あ! じゃあ、観光に行こう!」

「おー、さんせーい!」

「まあ、明日から3連休だし、ちょうどいいかもしれませんね」

「外に出るの……ひさしぶり……」


 異世界観光をすることになった。


「ま、観光だけど、アタシたち荷物の準備いらないよね!」

「ヒカルの召喚魔法も、うまくなったし、大丈夫なんじゃないですか」


 まあ、結局あれからも、だいぶシゴカれたからな……


「あ、でもレナ、どこにいこっか?」

「うーん。あ、そうだ! アーソーポスさんのとこいこ!」


 アーソーポスさん? 誰だろう。


「あー、林とか草原ばっかりで何もないけど、アーソーポスさんの家から見える川、綺麗だもんね」

「でも、アイの意見も聞いたほうがいいんじゃないですか」

「お父さんに会うの……久しぶり……」


 え、お父さん?


「あ、ヒカルは知らなかったよね! アイのお父さんだよ!」

「そりゃあ知らないでしょう」

「でもさ、ゼウスとアーソーポスさん、ちょっと仲悪かったし、大丈夫かなー?」

「まあ、大丈夫っしょ!」


 そうなのか。なんか不安だ……


「うふふ、まあ、たまには、ね」


 こうして、アーソーポスさんのところへ行くことになった。



 翌日の朝。


「よーし! 出発!」


 神殿の外にでた。朝日がちょっと眩しい。

 しかし……


 綺麗に整列された石畳。

 細道を作る、ちょっと色褪いろあせた石材でできた建物。


 うーん、どう見てもローマだよなあ。


「じゃあ移動は車ね! イオの運転で!」

「えー!」


 えっ、車?

 この世界、車もあるのか……


「ヒカルはこれ見るのはじめてだよね!」

「いや、これ……」


 とあるイタリアの高級メーカーの自動車にそっくりだった。


「レナ、でもこれ、5人乗りだよ?」

「あー、そっか。まあ、ヒカルの上にアイ乗せればいいっしょ!」

「大丈夫ですよ。14,500歳以下は、3人で大人2人扱いですから」


 へー、そうなんだ。異世界豆知識だ。


「みんな、忘れ物はないかしら?」


「いや、アタシ持ち物ないし!」

「あはは!」


 イオが一応確認した。


「みんな、シートベルトつけた?」

「オッケーオッケー!」

「イオの運転なら、ちゃんと付けますよ」

「まあ、そうね……」

「ちょっと……怖い……」


 嫌な予感しかしないな。


「じゃあ、しゅっぱーつ!」


 イオがありあまる元気な声で発車した。


 あれ?

 エンジンの音が妙に静かだな。


 えっ。


 浮いてる。

 この車、空飛ぶのか。



 イオの運転は荒かった。


 空を飛んでいるから、他の車はいなくて事故の心配は(たぶん)ないのだけれど、左右にふらふらと揺れるようにして走る飛ぶものだから、景色を眺めるどころではなかった。


 アイとかエリーはちょっと青ざめている感じだな……


 正直、僕の運転のほうがよかったかもしれない。

 空を飛ぶ車の免許持ってないけど。


 しばらくは澄んだ青空の方をみんな見ていたのだけれど、やがてイオの運転が安定してきたから、ちょっと下を見たりした。


 そこには石畳とか建物はもうほとんどなかった。


 代わりに、広い草原に太陽の光が反射していて、それに彩りを加えるように、マツのような高木こうぼくが茂っている様子を見下ろした。


 遠くの方を見ると、マツの木とはちょっと違う針葉樹が広がっていた。


 車の窓を開けてみた。


 さっという澄んだ空気を浴びて、そのあと少しだけ青っぽさのある匂いを感じ取ったが、やがてそこに瑞々みずみずしさが混ざったような、さわやかな香りがしてきた。


 すっと気分がよくなってきて、皆も体調がよくなってきたようだった。


「イオー? あとどのくらい?」

「あと10分くらいかなー!」

「オッケーオッケー!」


 やがて、草原に針葉樹が並んでいるあたりの空を飛んでいくと、少し遠くの方に川が流れていることに気づいた。


 もっと近づくと、それはエメラルドグリーンに輝く鮮やかな川だった。


 空からこういう景色を見るのは、はじめてだったから、思わず息を飲んでしまった。


 そんな景色をコトミも一緒に見ていて、ふと話しはじめた。


「綺麗な景色でしょう?」

「うん、そうだね」

「でも、実はこのあたりは昔、争いごとが絶えなかったの」

「えっ……そうなんだ」

「そうなの。でも、もう平和になったから、こういう綺麗な風景も見られるのよ。まあ、ただの昔話なんだけどね」


 そういえば、彼女たちは、昔はどうやって暮らしていたのだろう。


 でも、あんまり詮索せんさくすることはしたくないな、と思った。

 なんとなく、彼女たちは過去を明らかにしたくないような、そういう性格なのだと思った。

 いまは、観光を楽しんで、そういった話はもっと大事なときにしよう、と思った。


「あ! アタシ思い出した! 確かこのへんだよね!」

「そうですね。まあ、広い河原で『ギター』を弾いてるの、あの人くらいだし、空から見ればすぐわかるんじゃないですか?」

「あー、そうだね! アーソーポスさん、いつもあのへんで弾いてたよね!」


 ギター? アーソーポスさんの趣味かな。


「あ、あそこにアーソーポスさんいるね! じゃあ今から車とめる着陸するよ!」


 たしかに、河原で一人の男性がギターを弾いているように見えた。


 イオ、頼むからゆっくり降りてくれ……


 ——ヒューッ、バァーン!


 着陸というよりむしろ墜落して、河原の小石が水しぶきのように、大量に散って、砂埃が舞った。


 空を飛ぶ車は無事だったのだけれど、だいぶ腰を痛めてしまった……。


 エリーとアイも苦痛に歪んだ表情をしていた。骨折とかしてないといいけど……


「……仕方ないわね。ヘスペリデスの林檎世界よ、安息に戻れ


 コトミがそう唱えると、腰の痛みはほぐれるようにスーッと消えていった。


 イオの運転の荒さは帳消しにされた。


 そして砂埃とかも消えていくと、その向こうのエメラルドグリーンの川の方から、ギターを抱えた男性が笑みを浮かべながら歩いてくるのに気づいた。


「お、アーソーポスさん元気そうじゃん! アタシ先に挨拶してくる!」


 そういってレナは車から飛び降りると、アーソーポスさんのところに走っていった。

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5人のアブない女神たちと、僕の日常〜異世界転生したら神々の王になったんだけど、こいつらクセが強すぎる! 奇崎有理 @kisakiyuri

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