第44話



あれから随分日が経って指導者を失ったラナディスの残党は降伏をした。帝国側の被害はあったもののカベロが死んだ事もあって事態の終息は早く済み復興が始まる。


争いは本当に終わってようやく平和な日々がやってきた。



だけど良かった事だけじゃない。

ミシェルカが死んでジゼルは魔女として生きている。

ミシェルカの死は城の子供達がとても悲しんでいたがブレイクは気丈で顔色すら変わらなかった。最初からミシェルカは死ぬつもりだったらしくミシェルカとカベロは燃えてしまって骨も残らなかったけど二人とビレアの墓を作った。ブレイクは家族を忘れないように強く生きようと言っていて、涙を流さなくても彼女の愛が感じられた。


カベロを想うと皆苦しんでいたのかなと思う。

愛しているがゆえにこういう終わりを迎えた。残ったブレイクは一番辛いはずなのにカベロと一緒にいてくれてありがとうと言って、三人を覚えていてあげてとも言っていた。だから死んでしまったけれど、私はずっと三人を忘れない。

想っていれば終わる事はないと思うから。


一方ジゼルは変わらずに医術師会の長として活動を続けていた。魔女であるのは隠しながら彼女は医者として生きているが医術師会の長を退こうと考えているようでカーラやファドムに話をしたという。

しかし、二人に猛反対をされたジゼルはまだまだ長としての役目を勤めるだろう。特にファドムは断固反対の姿勢でジゼルが医術師会を去るのはまだまだ先の話になりそうだった。

それに他にも医者としてやる事があるみたいで、彼女は人狼病を克服したフィナの精神的な治療と内乱で苦しんだ人々を助けなければと使命感を強く持っていた。


「ローレン。遅かったわね。怪我はしてないでしょうね?」


「ブレイク。ただいま」


そして私はブレイク達の城で暮らしている。

ジゼルとの契約で不老不死となった私は魔女ではないがこれから生きていくのに生きにくいだろうからとブレイクに言われて一緒に暮らしている。勿論ジゼルもそう言われてこちらで暮らしてはいるが彼女は忙しい身なのであまりここにはいない。


「してないよ。それより皆の墓にちゃんとビレアを置いといたよ」


彼女に言われていた薬草を渡しながら言った。

あなたは人のために生きて貢献しなさいとブレイクに言われてから、私は彼女の医者としての仕事を手伝っては薬草を取るついでにビレアを頼まれて皆の墓に手向けさせられる。今までの行いを改めて私は精一杯取り組んでいるが、花の手向けは彼女の優しさで思いやりなのだろう。


「そう。ありがとう。それよりジゼルが帰ってきてるわ。顔を見せてあげたら?私はあなたの義手についてジゼルと改善点を話し合ったから新しい義手を作るわ」


「え?また?これでもういいよ。本物の手みたいで使いやすいし」


私は左手を動かして見せながら言った。

金属で作られた無機質な手はブレイクがジゼルと話し合って作ってくれた。温度は感じられないし痛みもないけど本物の手のように動くこれに不満は全くない。

なのに、彼女は意外に凝り性で完璧主義らしく満足していなかった。


「だめよ。まだ改善しなきゃならない点が山程あるのよ。何かあった時に動かなくなったら困るだろうし、あなたはそれでなくても危なっかしいのだからもっとちゃんとしたものを作るわ」


「……うん。ありがとうブレイク」


ブレイクは何時も険しい顔をしているが一緒に暮らしていると彼女の優しさをひしひしと感じる。

ブレイクはなにか資料を見ながら当然のように言った。


「家族なのだから当たり前でしょう。あなたはさっさとジゼルに顔を見せてあげなさい。あの子もあなたを心配していたわ」


「うん。分かった。じゃあ、あとでねブレイク」


「ええ」


私はブレイクの部屋を後にするとジゼルの部屋に向かった。ジゼルに会うのは数週間ぶりになる。彼女は医者として各地に出向いては治療をして技術を教えたりしているようで最近はディータから離れていた。

私はジゼルの部屋につくと声をかけてから中に入った。



「ジゼル、おかえり」


「ええ。ただいまローレン」


数週間前と変わらないジゼルはにっこりと笑っていた。私は久しぶりに会えたジゼルをぎゅっと抱き締めた。安心する愛しい温もりだ。ジゼルは軽く抱き締め返してくれた。


「ふふふ。熱い出迎えねローレン」


「会いたかったからね。怪我はない?」


「ええ。あなたは?」


「私もないよ。レトも元気だったし」


私は肩に乗っていたレトに顔を向けるとレトはジゼルに跳び移って頬にすり寄っていた。レトは城の子供達には懐かないくせにブレイクには懐いていた。


「本当ね。元気そうで良かったわ」


指で可愛がるジゼルは以前と何ら変わらないが彼女の青い瞳を見ていると後ろめたい気持ちが溢れる。感じなくてはならないこの気持ちは私を蝕むが彼女への愛は変わらないどころか増している。



「ジゼル」


「え……もう…」



不意に彼女にキスをした。ちょっと困ったように笑うジゼルは笑いながら啄むように何度かキスをしてくれた。



「今日はあなたとゆっくり過ごしたいわ」


「うん。私も」


「きて?」


手を引いてきたジゼルと共にベッドに腰かける。彼女は私の胸に凭れてきたので腰に腕を回して手を握った。それに握り返してくれたジゼルは穏やかに微笑んでいた。


「ローレン。今日は一日そばにいてくれる?」


「勿論。ジゼルが望むならなんでもするよ」


「本当?」


「うん。なんでも言ってよジゼル」


と言ってもたかが私ではやれる事に限りがある。それにジゼルはこう言っても大層な事を言う人じゃない。


「じゃあ、抱き締めていて。私を離さないように。あなたにできる?」


笑う彼女はやはり大きな事は言わなかった。でもそれが前はできなかったから彼女にとっては重要なのだろう。私は笑ってキスをして答えた。


「うん。絶対に離さないよ」


「ふふ……ありがとうローレン」


片手では足りないと思って両手で彼女を抱き締めた。義手を撫でてくれる彼女の温もりは感じられないけれど触れてくれているのは分かる。


「ねぇ、またあの丘に馬で連れて行ってくれない?」


「ん?いいよ。でも、馬で行くよりジゼルの魔術で行った方が早くない?」


「そうだけど、たまにはあなたとの時間を楽しみたいの。それに、あそこはラナとよく行った思い出の場所だし、あなたと会った大切な場所でもあるからまた行きたいと思って」


「そっか。じゃあ、君の都合がいい時に必ず連れて行くよ。約束」


もう約束は破らない。その思いを込めて言うとジゼルはクスリと笑った。


「ええ。約束よ?……ローレン、愛してるわ。あなたを……」


私の義手の手の甲にキスをしてくれたジゼルは顔を向けると愛しげに唇にキスをしてくれた。それなのに瞳にはあの陰りが見える。それが切なく感じて私からもキスをした。最初は優しく、次第に激しく舌を絡ませて彼女をベッドに押し倒す。


お互いにずっと抱えなくてはならないけれど、それでも私達は愛しあって生きていく。失いたくないから永遠の時の中で償って、永遠に消せない想いを抱えて。



「ジゼル……愛してるよ。……君を愛してる」


私の全てであるジゼルは泣きそうな顔をして笑ってくれた。


「私も…愛してるわ。あなただけを……永遠に……死ぬその時まで愛してる」


「うん。私もだよ……。ジゼル……」


君の瞳すらも愛おしいのに、その瞳に罪悪感が沸く。

それでも逸らすなんてしたくなくて私は目を逸らさない彼女を見つめた。彼女は私の頭を優しく撫でてくれた。


「……あなたに罪の意識を感じるのに……今あなたがそばにいてくれて、私を愛してくれて……罪悪感よりも幸せを感じる。……自分のために奪ったくせに……私は愛される資格なんかあるのかしら……」


「……あるよ。君は私のために自分を差し出してくれた。だから私も君のために自分を差し出した。……罪の意識は失くならなくても死ぬまで私は君を愛してるよ。ずっと愛していく」


「………ありがとうローレン。……ごめんなさい」


「謝らないでよジゼル。私を愛してるならもう謝らないで」


分かってる。もう全て受け入れている。

ジゼルは小さく笑うと私の首に抱き着いてきた。


「私もあなたをずっと愛していくわ。離れないように、離さないように……ずっと……」


「うん。……ジゼル?」


キスをしてから強く抱き締め返そうとしたら下になっていた彼女に強引にベッドに沈められた。私の上に乗ってくるジゼルは何時ものように笑っている。彼女の考えが今は読めなかった。



「ねぇ、ローレン?」


「ん、…えっと、なに?」


こんな事をされた記憶がなくてどぎまぎする。ジゼルはこんな事をする人じゃない。彼女は不意に私の手を握ると自分の胸に押し付けてきた。


「あなたも女性だけど、私も女よ?」


「え?……う、うん。分かってるよ?」


「本当に?前から思っていたけどあなたって本当に可愛らしいわね…」


「え?」


起き上がろうとしてキスをして止められる。何時も通りのジゼルなのに何時もと違う雰囲気を出す彼女に動揺する。彼女は綺麗だけれどこんなに色気のある顔をしていただろうか。そばにいるジゼルは美しく笑った。


「私は子供じゃないのよ?もっと愛情を示してくれないともう我慢も限界なの」


「え?我慢?ジゼル、えっと…」


「…白々しいわローレン。あなたが言ったのよ?医者じゃなくて私として接しろって。だからもう言いたいことは言うことにしたの。もう私達は一生を共にする仲なのだし……。だから、早くしてくれる?」


「え……?」


つまりこれは、そういう意味なのか?情けない反応をしてしまったけれどそういう事で間違いない気がする。彼女からそんな欲を今まで感じた事が無かったが、ジゼルも人の子だと言う訳だ。


「……まだ、分からない?」


余裕そうな表情をしていたジゼルは急に恥じらいだした。


「……私も余裕がないのよ?ここまでしてそういう態度をされると……少し、困るわ……」


「……いや、あの、ごめん……」


しおらしいジゼルに慌てて体を少し起こして彼女の手に触れる。こうなるのはジゼルを愛しているから分かっていたけど如何せん急すぎて緊張してしまう。

私は緊張を抑えながら言っておかないとならない事を言った。


「ちゃんと、その、分かってるよ。でも、その……私は義手だから……あの……」


「そんなの気にしてないわ」


「いや、うん。そうだよね。ごめん。分かってる……。あと、前に言ったけど私は顔だけじゃなくて……その、身体にも火傷の痕があって…」


「知っているわ。あなたの体を治療した時に見ているもの。私はそれに対して嫌悪感なんかないわ」


「あぁ……そっか。えっと、ありがとう……じゃ、じゃあ、えっと……」


ジゼルが素早く即答するから彼女が嫌がるかもしれない要素を探しているのに分からなくなる。あと確認しておかないとならない事はないか?ジゼルには嫌な思いはさせたくないし…。考えすぎて分からなくなっていたらジゼルが先に口を開いた。


「あなたがしたくないならいいわ……」


「え?」


驚いて違うよと言おうとしてジゼルに遮られる。彼女は切なげだった。


「こういう事はお互いに気持ちがないと意味がないもの。私にも魅力がないと言う事だし、私にも落ち度が…」


「いや、あの、ジゼル違うよ。君は魅力的だし私もしたいと思ってる」


兎に角遮って気持ちを伝える。ジゼルからここまで言われてるのに私はこんなんでどうするんだ。

私は恥ずかしそうなジゼルの目をしっかり見つめた。


「君がしたいなら私もしたいよ。君が好きだからもっと気持ちを伝えたいし愛したいんだ。だ、だから……あの、いいかな?…触れてもいい?」


緊張で喉が乾く。もっと言い方があったはずなのに言ってから後悔していた私にジゼルはクスッと笑って言った。


「ええ。私もあなたを愛したいわ……」


「うん。じゃあ、触るよ」


愛してるがゆえに緊張がなくならなくて、彼女の腰に腕を回してぎこちなくキスをする。唇を離すと彼女は笑いながら押し倒してきてキスをしてきた。私よりも情熱的な熱いキスだった。ジゼルは唇を離すと愛しげに美しい瞳で私を見つめる。


「好きよ。……愛しているわ」


彼女はそれからまたキスをしてくれた。

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