破壊学習で求められる才能

ちびまるフォイ

求められるのは冷静な判断力

『破壊学習。テスト開始』


目の前に広がるのは古いテレビや、等身大の銅像。

ツボにぬいぐるみ、机に椅子など統一感はまるでない。


これすべてを制限時間内に破壊しなければならない。


「うおおお!!!」


金属バットを振り回して目に映るあらゆるものを破壊した。

試験が終わると破壊できた量に応じてスコアが貼り出される。


「また最下位……」


クラスでは国語数学英語理科社会体育。

どの教科も1位なのに破壊学に関してだけは最下位だった。


なんでも優秀な鼻につくエリートの唯一の弱点。

普段、他の教科で勝てないクラスメートがいじってくる。


「お前、なんでいつも破壊学だけ最下位なわけ?」

「あ、お前あれだろ。モノ壊すのができないんだ」

「優しい心を持ってますアピールか。さすがエリート」


「こんなの壊せたからって何がいいんだ!!」


いたたまれなくなって教室を出た。

すぐに校内放送が流れて担任に職員室に呼び出される。


「うーーん……どうして破壊学だけこんなに極端に成績が悪いんだ?

 体力もある。数学的や物理もできる。なにをどうすれば効率的に壊せるかなんてすぐわかるだろう」


「それより、ボクの志望校は? 模擬試験の判定は出たんですよね?」


「ああ、だが……」

「見せてください!」


結果はE判定だった。

昔から憧れてた獣医になるためにはこの学校に入らなくちゃいけない。


「E判定……」


「他の教科は余裕で合格ラインを突破しているんだ。

 でも、破壊学だけが満たしていないからダメなんだよ」


「なんでたった1つの欠点があるだけで、他にたくさんある長所まで認められないんですか!?」


「しかし受験というのはだな……総合的な評価をする場であって……」


「納得できません! ものを徹底的に壊せるのがそんなに偉いんですか!!」


それはまるで「生きるために数学なんていらない」という言い訳と同じような気がした。

破壊学ではモノを効率的に破壊する論理的な思考能力だけでなく、イレギュラーな事態に陥ったときの柔軟性などを学ぶ総合学習。

この教科でいい点数が取れないと、頭でっかちのガリ勉としか扱われない。


「ただいま……」


重い足取りで家に変えると、父が不機嫌そうに待ち構えていた。


「お前の破壊学のスコアがスマホに転送されたぞ。なんだあの点数は」


「ごめんなさい……」


「お前、本当に西園寺家の息子なのか!! この恥さらしが!!

 人を統べる人間には暴力的な決断力が必要なんだ!

 破壊学でこんな点数しか取れないお前には失望したぞ!!」


父は地面にうずくまるボクの腹を何度も蹴った。

止めに入った母にも暴力をふるい、本当に自分の子なのかと何度も問い詰めていた。


ボクが破壊学をできないばっかりに。


ズキズキと鈍痛が続く腹を抑えながら、布団で固く誓った。

もうこんな目にあってたまるものかと。



それからは破壊学で悩むことはなくなった。

どうすればうまく壊せるだとか、自分に何が足りないのかとか。


破壊才能のないボクが考えてもわからないことは明白。

ひたすらに体を鍛え、力技だけで解決する方法へと心をくだいた。


期末に行われる破壊学テストの前日、ボクは自分の部屋をデモンストレーションがてらに破壊した。


「ぼ、ぼっちゃま!? いったい何を……!?」


「なんでもないよ……ただの練習さ」


部屋に置いていた大切な写真立ても、会えなくなった友達から最後に渡された思い出の品も。

何もかも破壊してガレキの山になった部屋にひとり立ち尽くしていた。


「うん……いい。何も感じない。これなら明日はばっちりだ……」


形あるものを壊す際に感じていたためらいはもうなくなっていた。

鍛え上げられた体にある力を全力で振るうのが楽しみになるほど。


そして、自分の未来を確定させる最後の破壊学テストが始まった。


いつものように目を開けた。

この部屋にあらゆるものを徹底的に破壊してやると思った。


「……あ」


部屋には壊すべきものがなかった。

人間がひとりだけいた。


あれだけ抵抗なくものを壊せていたのに、相手が人間となったとき一瞬で手が止まった。

きっとこの間にも時間が過ぎているだろう。

制限時間内に目に映るすべてを壊さなければスコアに反映されない。


いつものように躊躇はできない。


「お……おい、待て! 何も聞いてないのか!?」


人間はゴキブリのように部屋の壁づたいを逃げ回った。

逃げる背中に蹴りを入れてふっとばした。


倒れたところを馬乗りになって、意識を飛ばすため顔面を何度も強打した。


「これはモノ。ただのモノ。破壊しなくちゃ」


顔はベコベコに変形し、歯はふっとび、眼球はかたっぽが抜けてしまった。

砕かれた頭蓋骨が内側から額の皮膚を破いて見えている。ドロドロと変な色の液が流れている。


「破壊しなくちゃ」


立ち上がって、腕や足を何度も踏み潰してやわらかくしていく。

ふにゃふにゃになった足先を掴んで壁に向かって何度も打ち付ける。


何十回目かもわからなくなったとき。

バンと大きい水風船が割れるような音とともに体は破裂した。


粉々になった体を見て、達成感がこみ上げた。


「やった……。これだけ破壊すればきっと高スコアだ」


疲れがどっと襲ってきたとき、壁がせり上がって別の部屋への道が開かれた。





『ペアで行う破壊学習テスト。開始してください』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

破壊学習で求められる才能 ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ