DASADA season.2

@smile_cheese

DASADA season.2

『ねえ、DASADAって知ってる?』


茉穂から送られてきたメッセージをじっと見つめる里穂。


『DASADA?知らない。』


『高校生たちが立ち上げたブランドでね。活動休止してたんだけど、近々再開するらしいのよ。』


里穂「DASADA…変な名前」


『で、そのDASADASAがどうしたの?』


『DASADAね。私、その子達に誘われちゃった。』


『何?パーティーのお誘いでも受けたの?』


『違うわよ。DASADAに入らないかって。』


里穂「は?なにそれ」


『茉穂、なめられてるんじゃないの?』


『そんな子達じゃないわよ。里穂はロンドンにいるから知らないだろうけど、日本じゃ結構有名なブランドなのよ』


『まさか、入る気じゃないでしょ?』


『面白そうだからやってみようかなって』


『私たちの約束はどうなるの?』


『分かってる。だけど、そのためには私たちもっと力をつけないと』


里穂「ばっかみたい…」


里穂は持っていたスマートフォンを壁に投げつけた。

壁には茉穂と楽しげに笑っているツーショット写真が飾られていた。


里穂「DASADA…」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


ゆりあ「私って、3年経ってますます可愛くなったよね?ね?ねえ!沙織、聞いてる?」


沙織「ちょっと黙ってて!もうすぐデザイン画が描き終わるんだから」


ゆりあ「え!見せて、見せて!」


篠原「あー!ちょっと、まだ完成してないって」


ゆりあ「いいから、いいから。おー!かっけー!」


沙織のデザイン画を見て興奮した様子のゆりあ。

今日はDASADA再開に向けての打合せをするために、ゆりあの家に集合することになっているのだ。


沙織「まだまだだよ。これじゃあ本物とは呼べない。だって、この服をマホぽよさんが着るかもしれないんだから」


ゆりあ「まさか本当にマホぽよさんがDASADAに入ってくれるなんてね!セレナーデぱいせん、まじ億千万リスペクト!」


せれなはDASADAの活動休止から3年の間にマホぽよと肩を並べるほどのトップモデルへと成長していた。

そして、DASADAを再開させることが決まったこのタイミングでマホぽよに加入の話を持ちかけたのだった。


ゆりこ「今日、会えるんだよね?私、サインもらっちゃおうかな」


菜々緒「もう、立花ちゃんはしゃぎすぎ!サインは1人3枚まででーす!」


ゆりあの親友であるゆりこと菜々緒もこの3年間でメイクとヘアアレンジの腕を磨き、DASADA再開に向けてはりきっていた。


ゆりこ「そういえばさ、マホぽよさんってモデルになる前に誰かとユニット組んでなかったっけ?」


菜々緒「あったあった!えーと、誰だったかな…」


いちご「浅田里穂。ロンドン在住のトップモデル。当時はリホぽよっていう名前で活動しているわね。マホぽよさんとは『ぽよぽよ』っていう名前のユニットを組んでいたみたいよ」


ゆりこ「そうだ!『ぽよぽよ』だ!懐かしいー!」


いちご「リホぽよさん、日本に帰ってきているみたい。今から記者会見を開くらしいわ」


ゆりあ「それって今見れるの?」


いちご「生配信されるみたいだから見てみる?」


ゆりあ「マホぽよさんとの共通の話題になるかもしれないし見てみようよ!」


いちご「いいわよ。あ、もう始まってるわね」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


『…里穂さんは以前、マホぽよさんとユニットを組まれていたんですよね?』


里穂「お恥ずかしいです。あの頃はまだ私も子供でしたから。昔のことです。忘れてください」


『マホぽよさんとは今でも親交があるんですか?』


里穂「それを聞いてどうするんですか?」


『え、あの…』


里穂「今日、記者会見を開いたのは重大な発表があるからです。それ以外のことには答えません」


『大変失礼しました。それでは、発表の方をお願いします』


里穂「私、浅田里穂は…新ブランド『ADASAD(アダサッド)』を立ち上げます」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


篠原「ADASAD…これって…」


いちご「なんで?どういうこと…」


ゆりあ「ん?みんな、どうしたの?暗い顔して」


篠原「ゆりあ、気づいてないの?」


ゆりあ「何が?」


いちご「ADASAD…逆にすると?」


ゆりあ「D、A、S…あ、DASADA!?」


篠原「これは偶然じゃないよね」


ゆりあ「と、言いますと?」


篠原「私たち、喧嘩売られたってことだよ」


ゆりあ「な、なんで!?」


篠原「分からないよ。マホぽよさんなら何か知ってるのかも」


茉穂「私がどうかした?」


茉穂が不思議そうな顔で現れる。


篠原「マホぽよさん!あの、これ見てください」


里穂の配信の様子を見せられ、茉穂は驚きを隠せなかった。


茉穂「里穂…いつの間に日本に」


篠原「連絡とか取ってなかったんですか?」


茉穂「私がDASADAに入るっていう話をしてから一切連絡しても返事が来なかったのよ」


篠原「それって、もしかして…」


いちご「マホぽよさんを私たちに取られたって思ったのかな」


茉穂「全く…いつまでも子供なんだから」


篠原「どうしよう…」


茉穂「変なことに巻き込んじゃってごめんね。きっと、あの子のことだから徹底的にDASADAとやり合うつもりだと思うの。私がDASADAを抜ければ…」


ゆりあ「駄目です!」


茉穂「ゆりあちゃん?」


ゆりあ「マホぽよさんはもうDASADAのメンバーですから。大事な大事な心友ですから!」


茉穂「…ありがとう。じゃあ、私はなんとか里穂に止めるよう説得する方向で動いてみる」


いちご「あ、ちょっと待って!まだ発表には続きがあるみたい」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


里穂「さらに、ADASADはあの世界的アーティスト『FACTORY』とコラボします」


『それは素晴らしい!FACTORYといえば、先月、脱退されたサカズキさんに代わり、新メンバーのちろりさんが加入されたばかりですよね』


里穂「新たなスタートを切ったFACTORYを全力でサポートさせていただくつもりです。発表は以上です、ありがとうございました。ばいころまる~」


『ありがとうござました!浅田里穂さんでした!』


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


その場にいた全員が言葉を失った。


篠原「駄目だ…勝てないよ」


いちご「まさか、FACTORYまで登場するなんて」


皆、黙りこんでしまい、暗い表情を見せる。

たった一人、佐田ゆりあを除いて。


ゆりあ「みんな、どうしてそんな暗い顔してるの?お通夜じゃないっつーの!」


沙織「だって、相手はトップモデルとFACTORYだよ?いくらマホぽよさんが来てくれたからって…」


ゆりあ「だったらさ、私たちもやっちゃえばいいじゃん!コラボってやつを!」


沙織「そんな…FACTORYに勝てるアーティストなんているわけないじゃない」


ゆりあ「実はね、もえ呼んでるんだ。もうすぐ到着すると思うんだけど」


??「ゆりあせんぱ~い!」


外からゆりあを呼ぶ声が聞こえる。


いちご「この声…まさか!」


ゆりあ「わー!五反田っち!古岡っち!」


ゆりあの後半の五反田すみれと古岡五月だ。


沙織「どうして二人が?」


ゆりあ「え?みんな『KYAO-OSHI』知らないの?」


いちご「きゃ、きゃお…おし?」


ゆりあ「顔だけで天下を取ろうと結成されたアイドルユニット、それが『KYAO-OSHI』なの!」


いちご「あー、顔推しってことね」


すみれ「世界が私の顔推しなんで!可愛いお顔担当のすみれです」


五月「宇宙が私の顔推しなんで!美しいお顔担当の五月です」


すみれ「私たち!」


すみれ&五月「『KYAO-OSHI』なんで!」


ゆりあ「きゃー!本物だー!あとでサインちょうだいね!」


すみれ「もちろんです。私はこれからもゆりあ先輩の顔推しなんで」


沙織「で、まさかコラボってこの子たちと?」


ゆりあ「え?そうだけど。だって2人とも可愛いじゃん?世界が、いや、宇宙がほっとかないじゃん?まあ、私には敵わないけど。私は銀河一可愛いから」


沙織「一瞬でも期待した私が馬鹿だったわ」


ゆりあ「そんな!せめて文句は2人のパフォーマンスを見てから言ってよ」


すみれ「そうですよ!私たち、本気です!」


沙織「分かったわよ。そこまで言うなら歌を聞かせて」


すみれ「私たち、歌はちょっと…」


沙織「え?じゃあ、ダンスを見せて」


五月「ダンスもちょっと…」


沙織「はあ?だったら他に何が出来るのよ!」


すみれ「私たち、顔だけでやってるんで!」


いちご「アイドルを…なめるなー!」


黙って見ていたいちごが突然怒りだす。


菜々緒「そういえば、いちごのお姉ちゃんって…」


ゆりこ「売れないグラビアアイドル…」


いちご「もうとっくに引退してるわよ!」


ゆりあ「え?そうなの!?」


いちご「今はアイドル辞めてお店を手伝ってるわ。自分のこと『ふぬけバイトのとろろさん』なんて言っちゃって。って、そんなのどうだっていいのよ!とにかく、アイドルの道はそんなに甘くはないんだからね!」


五月「なんか、すごく説得力ありますね」


すみれ「いちごさん!おかげで目が覚めました!私たち、これからは歌もダンスも頑張ります!」


いちご「私たちも全力でサポートするわ」


ゆりあ「え?それって…」


いちご「みんなも良いわよね?」


誰も反対する者は居なかった。

こうして、DASADAとKYAO-OSHIのコラボが決まった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


記者会見を黙って見ていた東郷みなみは堪らず立ち上がる。


みなみ「あの子、なに勝手なことを…」


会見が終わると、みなみはすぐに里穂を問い詰めた。


みなみ「さっきの会見どういうつもり?」


里穂「どうって?」


みなみ「FACTORYとのコラボなんて聞いてない!そんな大事なことどうして隠してたの?」


里穂「だって、あれ嘘だもん」


みなみ「え?」


里穂「FACTORYとは面識すらないわ。交渉はこれからよ」


みなみ「そんなの上手くいくはずないじゃない!」


里穂「大丈夫。向こうにとっても悪い話じゃないわ。それに、FACTORYは過去にDASADAのメンバーと揉めたことがあるみたいなのよ」


みなみ「DASADAを恨んでるってこと?」


里穂「どうかしらね。まあ、仮に恨んでいたとしてもあなたほどではないでしょうね」


みなみ「私は…私はDASADAを許さない」


里穂「素晴らしい。だからこそ、私はあなたを誘ったのよ」


みなみ「私は絶対に表舞台には出ない。そこに関してはあなたに全て任せるつもりだけど、あまり勝手なことはしないで欲しいわ」


里穂「それは約束できない。約束なんて簡単に破れるんだから…」


みなみ「とにかく、私が進めている計画の邪魔だけはしないでね」


里穂「あー、あの子たちのことね。好きにしてちょうだい。私、DASADASAには何の興味もないから。そんなことより、あなたいつもジャージ姿ね。もっとお洒落したら?そんなに可愛いのにもったいないわよ」


みなみ「ほっといて。私、ファッションには何の興味もないから」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


トックリン「大変っちゃ!大変っちゃ!」


慌てた様子で社長室の扉を開けるトックリンとぐいのみ。


おちょこ「ちょっと、ノックぐらいしなさいよ。どうしたの、そんなに慌てて」


トックリン「テレビ!テレビ見たっち?あだ…あだだ…?だー、だー、だー」


ぐいのみ「ADASADね」


トックリン「そう!それが言いたかったけ!おちょこも見とった?」


おちょこ「さっき本人から連絡がきたわ。今から会いに来るらしい」


トックリン「断るっちゃやろ?」


おちょこ「浅田里穂、彼女は『本物』よ」


ぐいのみ「本物…けど…」


おちょこ「やっぱり大田村さんがいないと不安?私じゃあ頼りない?」


トックリン「そんなことないけ!おちょこのことは信頼しちょるよ」


ぐいのみ「私も…」


おちょこ「2人ともありがとう」


大田村の言いなりだったFACTORYは沙織との一件があった数年後、事務所からの独立を決意した。

そして、そのタイミングで沙織の替え玉であったサカヅキを解雇し、新たにちろりという新メンバーを加入させたのだった。


コンコンッ

社長室をノックする音が聞こえる。


おちょこ「どうぞ」


ちろり「失礼します。社長、お客様がお見えです」


おちょこ「ちろり、社長は止めて。おちょこでいいのよ」


ちろりは深々とお辞儀をする。

社長室に案内されたのは里穂だった。


里穂「初めまして。FACTORYのみなさん」


おちょこ「浅田里穂さんね。これは一体どういうつもり?私たち、コラボの話なんて聞かされてないんだけど」


里穂「だったら今から言うわね。私たちADASADにFACTORYの衣装を作らせて欲しいの。デザインも持ってきたわ」


そう言うと、里穂はあらかじめ用意していたデザイン画をおちょこたちに手渡した。


おちょこ(すごい…さすが『本物』ね。これなら…)


里穂「篠原沙織…」


おちょこ「え?」


里穂「本当ならサカヅキは彼女のはずだった。けど、お披露目する直前でまさかの逃亡。彼女はトップアーティストであるFACTORYよりもDASADAを選んだ」


おちょこ「あなた…どうしてそれを」


里穂「別にバラすつもりはないわ。けど、このまま負けたままでいいの?」


おちょこ「負け?」


里穂「彼女、FACTORYのファンだったんでしょ?ファンに背中を向けられたら、それはもう完全なる敗北よ。だから勝つの、DASADAに…」


ちろり「篠原さんが…サカヅキ?」


おちょこ「ちろり?」


ちろりは驚きを隠せないといった表情だった。


里穂「あれ?どうしたのかな?キラリさん」


ちろり「え?」


里穂「あなた、篠原沙織と面識あるわよね」


おちょこ「なんですって?ちろり、どういうこと?」


ちろり「1度だけ…FACTORYのファン数人で集まるオフ会があって。まだDASADAができる前だったと思います」


おちょこ「そんなことまで調べたの?」


里穂「どう?私の本気度伝わった?」


おちょこ「ちろり、あなたはどうしたい?」


ちろり「『本物』以外はいらないんで…」


おちょこ「え?」


ちろり「これは、篠原さんが私に言い放った言葉です。私、悔しくて。けど、篠原さんが羨ましくもあって。だから、今回の新メンバーオーディションを受けたんです。『本物』になりたくて」


里穂「泣ける~。ぴえんだよ、ぴえん。で、どうするの?社長さん」


おちょこ「この衣装…あと3日で用意できる?」


里穂「交渉成立ね。もう出来てるわ」


こうして、ADASADとFACTORYのコラボが決まった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


せれな「どう?新しいホームページの反響は」


いちご「あまり良いとは言えないわね。やっぱり3年のブランクは大きいわ。世間の注目はADASADに集まっているから、私たちの方がパクリだっていう声もあるくらい」


DASADAを再開するにあたり、ホームページを一新したいちごだったが、世間からの反応はいまいちだった。


せれな「KYAO-OSHIだっけ?あれはどうなのよ」


いちご「誰だよ!って声ばっかりね。そりゃあそうよ。私たちだって知らなかったんだから」


せれな「やっぱりマホぽよさんが加入したことも発表した方がいいんじゃないの?」


いちご「ADASADを刺激しかねないから今は止めといた方がいいってマホぽよさん本人が」


せれな「まあ、そうよね。ところで、私についての反応はどうなのよ?あのトップモデルのセレナーデが所属するDASADAが再始動!?すごーい!みたいなことが書いてあるんでしょ?」


いちご「なになに…せれなもパクリ集団の仲間だったのか。これじゃあガセレナーデだな。だってさ」


せれな「がーん!!!」


ショックを受けてゆりあのベッドにダイブするせれな。

そんなせれなのことはお構い無しといった感じで、いちごは次の策を考えるので頭がいっぱいだった。


??「佐田ーーーーーっ!!!」


外から聞き覚えのある怒鳴り声が聞こえてくる。


ゆりあ「ま、真琴先輩!?どうしたんですか、一体?」


真琴「どうしたもこうしたもないだろ!なんで私に何の相談もなしにDASADAが再開してるんだ?」


ゆりあ「いやー、だって、先輩はバレーボールの指導で忙しいのかなと思って…」


真琴は大学に通う傍ら、地元の小学生たちにバレーボールを教えている。


真琴「水くさいじゃねえか!そりゃあ、途中で抜けたりはしたけどさ。私にも何か手伝わせてくれよ」


ゆりあ「真琴先輩…まじ嬉しさ東MAXです!」


真琴「相変わらず変な言葉使ってんだな、佐田は。そうそう!お前たちにお客さんだぞ。道に迷ってたみたいだから連れてきたんだった。おーい!」


真琴に呼ばれ、恐る恐るやって来た3人の少女たち。


真琴「こいつら、DASADAに入りたいんだと」


??「は、はい。そうなんです」


ゆりあ「なぬっ?本当に!?嬉しいー!」


真琴「おいおい、いいのか?どこの誰かも知らないのに」


ゆりあ「ありありの大ありっすよ!だって、3人ともめっかわじゃないですか!」


真琴「良かったな!ほら、ちゃんと挨拶しときな」


雫「月城雫。マロニエ女学院の1年です」

りりか「同じく1年の幸村りりかです」

セナ「菊地セナです」


ゆりあ「へえ!後輩ちゃんか。しくよろしくよろ!」


真琴「じゃあ、後は頼んだぞ」


ゆりあ「え?パイセン、手伝ってくれないんすか?」


真琴「それはまた今度な。今日はこれから直島とお茶する約束があるから。じゃあな!」


ゆりあ「真琴先輩!ちょ、ちょっと待っ…あー、行っちゃった。とりあえず、3人も中に入って!」


こうしてDASADAに新メンバーが加わった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


里穂「そういえば、3人は上手くやってるかしら」


みなみ「さっき雫から連絡が入ったわ。あっさりDASADAに加入出来たみたいよ」


里穂「そう。彼女たちをどう使うかはあなたに任せるわ」


みなみ「もちろんそのつもりよ」


雫、りりか、セナの3人は里穂の熱狂的なファンであり、いわゆる信者と呼ばれる部類である。

その熱狂ぶりから里穂も3人のことを認知していた。

そこを利用しようと考えたみなみは、3人をDASADAに加入させて仲間割れを起こさせるよう指示したのだった。

上手くいけば正式にADASADのメンバーとして活動出来ると嘘をついて。

当然、里穂もそのことを承知の上で3人のことはみなみに任せていた。


みなみ「まずは、高頭せれなと岡田いちご。あなたたちから壊していく」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


せれな「どう?ここにはもう慣れた?」


雫「はい。みなさんとても良い方なので」


せれな「あなたは背も高いんだから、きっと素敵なモデルになれるわ」


雫「ありがとうございます」


雫たちがDASADAに加入してから1週間が経った。

雫はモデル、りりかはデザイン、セナはメイクを学びたいということもあり、それぞれを得意とするメンバーが仕事を教えることになったのだ。


雫「せれなさん、ガセレナーデってなんですか?」


せれな「…あんた、どこでその言葉を?」


せれなの表情が一気に強張った。


雫「あ、あの、お気を悪くさせてしまってすみません!偶然、目にしちゃったもので」


せれな「だから、どこでよ!」


雫「いちごさんが…SNSに書き込んでいるのを見ちゃって」


せれな「いちごが!?」


雫「きっと私の見間違いですよね!いちごさんがそんな陰口みたいなことするわけないですもん」


せれな「いや、いちごならやりかねない…」


せれなといちごが出会うきっかけも陰口が始まりだった。


せれな「人間、そんなに簡単には変わらないってことね」


雫「せれなさん?どこに行くんですか?」


せれな「売られた喧嘩、買ってくるわ」


雫「せれなさん!せれっ…」


雫が止める間もなく、せれなは部屋を飛び出していった。

それを見て、にやりと微笑む雫。


雫「いちご狩り大成功~♪あとはよろしくね、ガセレナーデさん」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


せれなが怒りながら部屋を飛び出していった頃、セナはゆりこにメイクを教わっていた。


ゆりこ「なんだか騒がしいね。あ、そこはあまり塗りすぎないように」


セナ「こうですか?」


ゆりこ「そうそう!セナちゃん上手だね」


セナ「ゆりこさんの教え方がお上手なんですよ。ご丁寧にありがとうございます」


ゆりこ「セナちゃん飲み込みが早いから教えるのも楽しいの。人懐っこいしみんなに好かれるタイプだよね」


セナ「そんなことないですよ。あの、この後って時間ありますか?ご相談したいことがあって」


ゆりこ「うん。全然大丈夫だよ!ちょうど菜々緒ちゃんとカフェ行こうって約束してるからさ、セナちゃんも一緒にどうかな?」


セナ「菜々緒さんはちょっと…」


ゆりこ「どうしたの?菜々緒ちゃんには言えないこと?」


セナ「実は…私、菜々緒さんに嫌われてるんじゃないかと思って」


ゆりこ「菜々緒ちゃんが?セナちゃんを?どうしてそう思うの?」


セナ「前に私がゆりあさんと楽しくお話ししていたら、菜々緒さんに遠くからすごく怖い顔で睨まれてしまって。菜々緒さん、ゆりあさんのことが大好きだって聞いていたので、もしかしたら怒らせてしまったのかもしれません」


菜々緒の嫉妬心にはゆりこも身に覚えがあった。

ゆりあがDASADAを立ち上げたときも、菜々緒はその嫉妬心からゆりあを突き放すような態度を取っていた。


菜々緒「おっ疲れ~!立花ちゃん、そろそろ時間だよ~」


菜々緒がゆりこのことを迎えにやって来たので、セナは慌てて話すのを止めた。


菜々緒「なんの話してたの?私にも教えてよ」


気まずそうに目を反らすセナ。


ゆりこ「別に大した話じゃないよ。それより今日の予定キャンセルにしてくれないかな?どうしても外せない用事が出来ちゃって」


菜々緒「えー!そんなー!今日楽しみにしてたのに」


ゆりこ「ごめんね!絶対に別の日に埋め合わせするから。じゃあね!」


そういうと、ゆりこは大慌てで帰っていった。


セナ「あ、あの…じゃあ、私も今日はそろそろ…」


菜々緒「あ、セナちゃんは今日予定空いてない?」


セナ「私も今日はこのあと予定が…失礼します!」


そう言うと、セナも慌てて外に飛び出していった。


菜々緒「うーん、あの二人なんか怪しいな」


その後、ゆりこはセナと近くの公園で話をすることにした。

遠くから菜々緒が見ているとも知らずに。


菜々緒「立花ちゃんの嘘つき…」


セナ(やっぱり菜々緒はこっそり付いてきたわね。これで二人の関係は壊れたも同然…ふふふ)


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


雫とセナが計画を遂行する中、りりかは少し苦戦していた。

デザインについて教えてくれる沙織がりりかに心を開こうとしないのだ。

おしゃべりが好きなりりかが積極的に話しかければかけるほど沙織は距離を取ろうとする。

沙織自信、本当はりりかたちと仲良くなりたいと思ってはいるが、性格が邪魔をして上手く接することが出来ずにいた。


りりか(うーん、このままやと計画が進まんなあ。なんか話題は…ん?)


りりかの目に飛び込んできたのは1つのネットニュースだった。


りりか「沙織さん。FACTORYのニュース知ってますか?」


FACTORYという名前に思わず反応する沙織。


沙織「知らないけど…FACTORYがどうかしたの?」


りりか「新メンバーのちろりさんの姿がついに解禁されたらしいですよ」


公には姿を現していなかったちろりが公式ホームページにて公開されたことがネットニュースになっていたのだ。

FACTORYとは微妙な関係にある沙織もなんだかんだでその後の活動は気にしていたため、独立と新メンバーについては非常に関心があった。


沙織「ちょっと見せて」


沙織はりりかのスマホを覗きこんだ。

そして、ちろりの顔を見て思わず言葉を失った。


沙織「キラリさん…?」


りりか「お知り合いなんですか?」


沙織「う、うん。ちょっとね」


りりか「沙織さんがFACTORYにいたときに知り合ったんですか?」


沙織「え?あなた、どうしてそのこと知ってるの?」


りりか「ゆりあさんから聞きました。サカズキっていう名前やったって」


沙織「まったく…おしゃべりなんだから。一時的によ。私は公になる前にその場から逃げたの」


りりか「もう一度、FACTORYに戻りたいとは思わないんですか?うちやったら土下座してでも戻りたいですけどね」


沙織「私にはDASADAがあるから」


沙織はFACTORYを抜けたことを全く後悔していなかった。


りりか「ここが好きなんですね。せやったら、ゆりあさんのあの発言は冗談にしてもまずいよなあ」


沙織「ゆりあが何か言ってたの?」


りりか「いや、忘れてください。変な誤解が生まれても嫌なんで」


沙織「いいから教えてよ」


りりか「ええんですか?知りませんよ。さっき、ゆりあさんと話してたんですけど、DASADA再開についての反響がいまいちなんですよね?それで、どうにか話題になるようなことがしたいって言うてはったんですよ」


沙織「それで?何か良いアイデアは浮かんだの?」


りりかはにやりと微笑んだ。


りりか「沙織さんをFACTORYに戻すんです」


沙織「え?」


思ってもみなかった発言に沙織は戸惑った。


りりか「FACTORYに頼み込んで沙織さんがサカズキとして復活すれば話題になる。それが直接、DASADAの宣伝にも繋がるっちゅうことらしいです」


確かに宣伝としては効果が高いのは事実だ。

けれど、FACTORYが許してくれるはずもない。

何より沙織自信がそれを望んではいないのだ。

そんな提案がゆりあの口から出たと知って沙織はひどく傷ついた。


りりか(あともう一押しって感じやな…)


りりか「あと、これも冗談やと思うんですけど、新作のデザインをうちに任せたいって。今のデザインだと勝てないからって」


沙織「私のデザインが気に入らない?だから、追い出そうとしてFACTORYに?」


りりか(…これでDASADAは終わりやな)


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


雫たちの歓迎会を開く準備をするために買い出しに出ていたゆりあが家に帰る途中、公園で言い争いしているゆりこと菜々緒に出くわした。


ゆりあ「ちょっと!どうしたの、2人とも!」


菜々緒「ゆりあ…立花ちゃんが私との約束を破ったのよ」


ゆりこ「だから、ちゃんと断ったじゃない」


菜々緒「公園で話すだけなんだったらセナちゃんもカフェに誘えばよかったよね?2人で隠れてこそこそしてさ。どうせ私の悪口言ってたんでしょ!」


ゆりこ「そんなわけないじゃない!なんでそうなるの?」


菜々緒「だって、セナちゃん。私と全く目を合わそうとしないじゃない」


ゆりこ「そ、それは…」


セナが菜々緒と目を合わせないのはもちろんわざとだ。

しかし、そんなこととは知るよしもないゆりこはセナを庇おうと何も話そうとはしなかった。


菜々緒「もういい…帰る」


そう言うと、菜々緒は怒って帰ってしまった。


ゆりあ「立花ちゃん、一体どうしたの?」


ゆりこ「…」


セナ「ゆりこさんは私を庇ってくれたんです」


ゆりあ「庇う?どういうこと?」


そのとき、遠くの方から慌てた様子で走り寄ってくるの2人組が現れた。

せれなの親友のみきとくるみだった。


ゆりあ「みき先輩?それに、くるみ先輩?そんなに慌ててどうしたんすか?」


みき「せれなが大変なのよ!」


ゆりあ「セレナーデ先輩が?」


くるみ「説明はあと!今すぐ家に戻って!早く!」


2人に手を引かれて家へと戻ったゆりあが目にしたのは取っ組み合いの喧嘩を始めていたせれなといちごだった。


ゆりあ「ちょっと!ちょっと!2人とも何やってるの!?」


みき「ど、ど、ど、どうしよう!」


くるみ「とにかく、せれなを止めるのよ!」


3人は一斉に暴れるせれなを押さえ込んだ。


せれな「あんたたち離しなさいよ!こいつだけは許せないのよ!」


いちご「だから、私は知らないって言ってんでしょうが!本当のことだからって八つ当たりしないでよね。この、ガセレナーデ!」


せれな「むきーーーーー!!!!!離して!一発殴らないと気が済まない!」


ゆりあ「みんなどうしちゃったって言うの!?」


そのとき、2階からゆっくりと沙織が現れた。


ゆりあ「沙織!お願い、2人を止めるの手伝って!」


しかし、沙織はそれを無視して帰ろうとする。


ゆりあ「沙織?」


沙織「私の力なんて必要ないでしょ?それじゃあ」


ゆりあ「沙織!」


ゆりあは沙織を追いかけたかったが、せれなの暴れる力が強く、押さえ込むのに必死で動けなかった。

ゆりあは自分たちの周りに何が起こっているのか未だ理解できずにいた。

その様子を少し離れた場所で隠れて見ていた雫とりりかは内心とても焦っていた。


雫「なんかとんでもないことになってるけど…」


りりか「本当にこんなことして大丈夫なんか?」


雫「けど、ここまでやったんだから里穂さんも私たちのこと認めてくれるはずだよね」


りりか「セナの方も上手くいったみたいやし、とりあえずみなみさんに報告しとくか」


『DASADAは崩壊しました』


雫(どうする?佐田ゆりあ…)


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


騒動の翌日。

歓迎会に姿を現したのは主役の3人とゆりあだけだった。


ゆりあ「ごめんね。せっかく来てもらったのに、みんな急にドタキャンしちゃって」


雫「いえ、大丈夫です。事情はなんとなく把握してるんで」


ゆりあ「本当にごめん!絶対またやるから今日のところは中止ということで」


雫「分かりました。今日はお先に失礼します」


雫たちはゆりあと別れるとみなみと会うために喫茶店へと移動した。


みなみ「それで?DASADAはどうだった?」


りりか「あれはもう終わりですね。今日なんてゆりあ以外は誰も来とらんかったし」


みなみ「そう。あなたたちよくやったわ。もう少しあの場に居てちょうだい。そうしたら浅田里穂にも会わせてあげる」


セナ「本当ですか!?やったー。嬉しい」


そんな雫たちの会話を盗み聞きしている者がいたことに4人は全く気がついていなかった。


??「DASADAが終わり?どういうことかしら。それにあれって…」


次の日。


真琴「佐田ー!おい!佐田ー!」


外から大声で叫ぶ真琴に堪らず寝巻き姿で飛び出すゆりあ。


ゆりあ「真琴先輩、どうしたんすか?まだ8時っすよ」


真琴「なに呑気に寝てるんだ?DASADAが再開したかと思ったら解散しそうな勢いだって聞いたからこうして来てやったんだろ?」


ゆりあ「解散…とまではいかないんですけど、まあ色々とありまして」


真琴「それ、全部私が連れてきたあの3人の仕業かもしれないぞ。正子、あの写真見せてやってくれ」


真琴に呼ばれて現れたのはマロ女で真琴と同じバレー部の後輩だった直島正子だった。


ゆりあ「直島さん!写真って?」


正子はゆりあスマートフォンを差し出した。

写真に写っていたのは喫茶店で話をしていた雫たちだった。


ゆりあ「雫ちゃんたちと…もう1人は誰なの?」


正子「東郷みなみさん。彼女もマロ女の卒業生で同じクラスだったことがあるの。彼女、DASADAの服が上手く着こなせなかったみたいで、周りの友達からからかわれて『ダサみ』って呼ばれていたのよ」


真琴「そうか。それであいつらを使って佐田たちにこんな嫌がらせを」


ちょうどその時、雫たちが現れた。

すぐさま真琴が3人に詰め寄った。


真琴「ちょうど良かった。お前たちに話がある」


りりか「うちら最悪なタイミングで来てしもうたんとちゃうか?」


真琴「昨日、東郷ってやつと会ってただろ?何の話してたんだ?」


雫「別に何も…ただのお友達です」


真琴「はあ?しらばっくれてんじゃねえぞ!」


ゆりあ「そうよ!あなたたちがやったことは全部まるっとシースルーよ!」


真琴「お前は黙ってろ!」


ゆりあ「はーい。すみませーん」


セナ「なんなんですか?私たちには何がなんだか」


??「あなたたち、里穂のファンの子たちよね?」


3人が振り返るとそこには茉穂が立っていた。


雫「え?マホぽよさん?」


茉穂「あなたたち里穂から何も聞かされてないのね。私はDASADAのメンバーなの」


りりか「はあ!?そんなこと一言も…」


茉穂「なるほど。良いように利用されてたってわけね。あなたたち、今すぐその東郷っていう子に会わせてくれない?じゃないと、あなたたちの失態を里穂が知ることになるわよ」


相手が茉穂では断ることも出来ず雫たちは従うしかなかった。

そして、ゆりあの家にみなみを呼び出した。


みなみ「あなたたち、これは一体どういうこと?」


茉穂「あなたが東郷さん?」


みなみ「マホぽよ?なるほどね。あなたにはこの3人の素性がバレてたってわけか」


茉穂「かなり熱狂的なファンでサイン会とかでもよく見かけてたからね」


みなみ「で?私をこんなところに呼び出してどうしようっていうの?この件に関しては浅田里穂は無関係…いや無関心よ。報告したところで彼女は止まらない」


茉穂「そうでしょうね。里穂の標的は私だから。けど、こんなことされてそのまま帰すわけにはいかないわ」


すると、その様子を黙って見ていたゆりあがみなみの元に詰め寄った。


みなみ「佐田ゆりあ。私の人生はDASADAに狂わされた。絶対にゆる…」


ゆりあ「きゃわいい~!」


みなみ「え?」


ゆりあはみなみの手を取ると目を輝かせて空を見上げた。


ゆりあ「みなみちゃんだっけ?超きゃわいいじゃん!めっきゃわちゃんだよ~」


みなみ「は?あんた、何言ってるのよ」


ゆりあ「まあ、私の方がきゃわいいけど、みなみちゃんも十分きゃわいいよ?DASADAの服だって着こなし方が悪かっただけだよ。きっと似合うから、こっちに来て!」


みなみ「ちょ、ちょっと!なんなのよー!」


ゆりあの強引さに戸惑いながらも、みなみはされるがまま家に連れ込まれてしまった。


しばらくすると、ゆりあが小走りで戻ってきた。


ゆりあ「それでは登場していただきましょう!モデルの東郷みなみさんでーす!」


そう紹介され、恥ずかしそうに現れたのは可愛らしい衣装を身に纏ったみなみだった。


真琴「へえ。似合ってるじゃん」


正子「すっごく可愛いですね」


みなみ「そ、そんなことないわよ。私は『ダサみ』なんだから…」


ゆりあ「うんうん、違うよ。みなみちゃんはみなみちゃんだよ!誰にも真似できないめっきゃわなみなみちゃん!」


服装を褒められたことがなかったみなみは動揺を隠しきれなかった。

そんなことよりも、雫たちのことを利用するだけ利用しておいて、自分がゆりあたちに好き勝手されていることに対する恥ずかしさがあった。


みなみ「もう…最悪」


その場から逃げ出したかったみなみの元に雫たちが駆け寄ってきた。


みなみ「な、何よ。笑いたければ笑いなさいよ!私はあなたたちをただ利用して…」


セナ「可愛いです!」


みなみ「え?」


セナ「みなみさん、本物のモデルみたいです」


りりか「利用されてたんは腹立つけど、うちらも同罪やしな。それに、こんな可愛い人のこと怒る気にもなれんわ」


みなみ「あなたたち…ごめんなさい。本当にごめんなさい」


予想だにしていなかった温かい言葉にみなみは思わず泣き崩れてしまった。


茉穂「あらあら。ゆりあちゃん、この子たちどうするの?」


ゆりあ「どうするもなにも、このままDASADAを続けてもらいますよ?みなみちゃんもうちのモデルとして」


みなみ「え?ちょっと、待ってよ。何を勝手なこと言ってるのよ」


ゆりあ「嫌かな?」


みなみ「嫌…ではないけど。けど、そんなことしたら浅田里穂が何をしでかすか分からないわ」


ゆりあ「関係ないよ!大事なのはみなみちゃんの気持ちだから。どうする?こんなにもきゃわいい自分をすぐに手放すなんてもったいなくない?」


茉穂「里穂のことは私が何とかするから。どうするかはあなたが決めなさい」


みなみはうつむいたままの顔を上げるとはっきりとこう言った。


みなみ「私をDASADAに入れてください」


ゆりあ「うん!もちのろんだよ!」


こうしてその場は丸く収まったかのように思えたが、ただ一人納得していない者がいた。


雫(みんな裏切り者だ…里穂さんに知らせないと)


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


雫「里穂さん!落ち着いてください!」


里穂「うるさい!離して!」


雫はそれとなくみなみから里穂の居場所を聞き出すと、すぐさま里穂に会いに行き、みなみたちが裏切ったとの報告をした。

それだけではまだ想定の範囲内だったが、茉穂が正式にDASADAのメンバーになっていたことを知ると我を忘れて周囲にある書類や衣装を破り捨ててしまった。


雫「これ、FACTORYが着る予定の衣装ですよね。大丈夫なんですか?」


里穂「そんなもの、もうどうだっていい!もう誰も信じない!ADASADは解散よ。あなたも出ていって!」


強引に部屋から追い出された雫は、里穂の変わり果てた姿に震えが止まらなかった。


雫「どうしよう、このままじゃ里穂さんが…」


一方、その頃。

沙織はFACTORYの事務所の前をうろうろしていた。

ゆりあからFACTORYに再加入する計画を立てられていると思い込んでいる沙織は、直接FACTORYに話が来ているか確かめに来たのだ。


キラリ「あら?誰かと思えば篠原さんじゃありませんか。それとも、サカヅキ先輩とお呼びした方がよろしいですか?」


沙織「キラリさん…」


キラリ「その名前で呼ばないで。今の私はFACTORYのちろりなんだから。それに、今はそれどころじゃないの。あなたたちDASADAのせいでね」


沙織「DASADAの?どういうことですか?」


キラリ「あなたたちがADASADのメンバーを引き抜いたせいで、怒った浅田里穂が私たちの着るはずだった衣装を破り捨ててコラボ自体が無くなりそうなのよ」


沙織「ADASADのメンバーを引き抜いた?それっていつの話?」


キラリ「ついさっきよ。そのせいで、おちょこさんから緊急召集がかかったの。事によっては、あなたたちのこと許さないから!」


そう言い放つとキラリは急いで事務所へと入っていった。


沙織「一体、DASADAに何が起きてるっていうの?」


ゆりあの家には全てみなみたちの計画だったと聞かされて和解したせれなたちも集まっていた。


みなみ「本当に申し訳ありませんでした!」


りりか&セナ「申し訳ありませんでした!」


せれな「そういうことだったのね。まあ、最初からなんか怪しいなとは思ってたのよ」


いちご「よく言うわよ。掴みかかってきたくせに」


せれな「はあ?やろうっての?」


いちご「はあ?いつでもやってやるわよ!」


ゆりあ「ちょっと、二人とも何やってんすか!仲直りしたばっかりだっていうのに」


菜々緒「ごめんね、立花ちゃん…早とちりしちゃって」


ゆりこ「ううん、いいんだよ。こっちこそ約束破ってごめん」


セナ「菜々緒さん、ゆりこさん。本当にごめんなさい」


菜々緒「もういいよ。今度さ、セナちゃんも一緒に喫茶店行こうよ。立花ちゃんのおごりで」


ゆりこ「えー?でも、楽しそうだからいいよ~」


DASADAに再び笑顔が戻りつつあった。

しかし、ゆりあはまだ真実を知らない沙織のことが気になっていた。


ゆりあ「沙織…どこにいるんだろう」


すると、慌てた様子で誰かがゆりあの家にやって来た。


ゆりあ「沙織!?」


それは沙織ではなく、雫だった。


ゆりあ「雫ちゃん?急にどっか行っちゃったから心配してたんだよ」


雫「助けて…」


ゆりあ「え?」


雫「里穂さんを…助けてください」


雫は里穂が自暴自棄になっていることを伝えた。


雫「このままだとADASADは解散。FACTORYとのコラボも白紙になって、多額の損害が出ます。いくら里穂さんでも…背負いきれるかどうか」


雫はゆりあたちに頭を下げる。


雫「お願いします!私、何だってします!だから、里穂さんを救ってください!」


話を聞いていたりりかとセナ、そして、みなみも同じように頭を下げる。


??「どういうことか説明してくれる?」


その場にいた全員の視線が集まった先に立っていたのは沙織だった。


ゆりあ「沙織…戻ってきてくれたんだ」


ゆりあは沙織にこれまで起こっていたことを全て話した。


沙織「なるほどね。あなたたちがやったことを許した訳じゃないけど、FACTORYには迷惑をかけたこともある。分かった、なんとかする」


ゆりあ「なんとかって、どうやって?」


沙織「考えるの。やるんだよ、私たちみんなで」


そう言うと、沙織は手を差し出した。


沙織「あれ、やろうよ」


全員が手を重ねて円陣になる。


『ださださ、DASADA~!』


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


里穂が雫から報告を受けて一週間が経とうとしていた。

あれからずっと部屋にこもるようになっていた里穂は、仕事を全てキャンセルして食べて寝るだけの生活を送るようになっていた。

里穂は何もせずただ横になってぼーっとテレビを見ていた。

そんな里穂の目にあるニュースが飛び込んできた。


『FACTORY×ADASAD コラボ衣装のお披露目』


里穂は驚きのあまり立ち上がった。


里穂「どういうこと?衣装は全部捨てたはずなのに…」


その時、来客を知らせるインターホンの音が鳴った。


里穂「茉穂…」


里穂にはこれまでも茉穂から何度も連絡を受けていたが、ことごとく無視を貫いていた。

しかし、先程のニュースに茉穂が関わっているのではないかと思い、部屋に招き入れることを決めた。


茉穂「やっと会う気になってくれたのね」


里穂「FACTORYとのコラボ、あなたの仕業ね。私への当て付け?私のこと笑いに来たっていうの?」


茉穂「いい加減にしなよ!」


茉穂の怒鳴り声が部屋に響き渡る。


茉穂「一体どれだけの人たちを巻き込んでると思ってるのよ!勝手に全部投げ捨てて…約束したなら最後まで責任持ちなさいよ!」


里穂「約束?約束を破ったのはそっちでしょ!」


里穂の目からは大粒の涙が溢れていた。


里穂「私たちが一人前のモデルになったら一緒にブランド立ち上げようって約束したのに…それなのに、どこの誰かも分からないような子たちとブランドごっこなんか始めちゃってさ!」


茉穂「ごっこなんかじゃないよ。彼女たちは本物なの」


里穂「本物とか偽物とかどうでもいい!私は茉穂と一緒にやりたかっただけなの!そのためにどんなに辛くても独りで乗り越えてきたのに」


茉穂「里穂…こんなことになったのは全部私のせいだよね、ごめん。何を言っても言い訳に聞こえちゃうかもしれないけど、約束を破ろうとしたわけじゃないの。里穂はロンドンで活躍してるトップモデルでデザインの才能もある。対して私は日本でしか活動したことがない。世界に出るのが怖いのよ。だから、せめて日本でもっと力を付けて、里穂に並んでからじゃないとって思ったの。里穂さえ良ければ今すぐにでも一緒にやりたいよ」


里穂「そんなの…信じられない」


茉穂「じゃあ、なんで私が今でもマホぽよの名前のまま活動してると思う?里穂と一緒に過ごした時間を何よりも大切に思ってるからなんだよ」


里穂「そんなこと言ったってもう遅いよ…私、取り返しのつかないことしちゃったんだもん」


茉穂の想いを知った里穂はようやく自分が犯してしまった過ちに気付き泣き崩れた。


茉穂「大丈夫だよ、里穂。今ならまだ間に合う」


里穂「え?」


再びインターホンの音が鳴った。


ゆりあ「マホぽよさーん!迎えに来たよー!」


里穂「佐田ゆりあ?」


茉穂「話はあとで。とにかく行くよ!ほら!」


茉穂に手を引かれて、里穂はゆりあたちと合流した。


ゆりあ「おっ、来た来た!わー!やっぱりモノホンのトップモデルはきゃわいいね~」


里穂「一体どこに連れていくつもりよ」


ゆりあ「どこって、コラボ衣装のお披露目会に決まってるじゃんよ。分かってるくせに~」


里穂「はあ?どういうことよ」


茉穂「ごめん、まだそこは説明してないの」


ゆりあ「なるへそ、なるへそ。そういうことなら説明しようじゃないか。白紙になりかけた今回のコラボ、DASADAが全て請け負いました!」


ゆりあたちはFACTORYの事務所へと足を運ぶと、今回の騒動の原因はDASADAにあると謝罪をした上で、ADASADとしてFACTORYの衣装を提供することを提案したのだ。

おちょこたちも最初は渋っていたが、沙織が誠意を込めて頭を下げている姿を見て最終的には合意した。


お披露目会の会場に到着した里穂は目の前に広がった光景に言葉を失った。

そこには着々と準備を進めるFACTORYとDASADAのメンバーが居たのだ。


里穂「衣装が出来てる。素敵…これを篠原沙織が?」


沙織「私じゃないわ」


声のする方を振り向くと沙織とおちょこが嬉しそうに里穂を見ていた。


沙織「この衣装をデザインしたのはりりかちゃんよ。」


里穂「りりか?あの子にこんな才能が…」


沙織「会って直接褒めてあげてね。あなたに憧れてデザインの勉強を始めたんだから」


りりかだけではなく、みなみ、雫、セナの3人も必死になって準備していた。

それも全ては里穂のためだった。

里穂は再び泣き崩れると何度も何度も謝った。


ゆりあ「さあ、泣くのはそこまで!みんな待ってるよ!お披露目会を始めましょう!」


こうして、DASADA全面協力の元、コラボ衣装のお披露目会は大成功に終わった。

里穂はその場にいた全員に一連の騒動を謝罪した。

そして、ADASADを解散すると宣言し、二度とDASADAやFACTORYに迷惑をかけないと誓ったのだった。


茉穂「ゆりあちゃん、やっぱり私、DASADAのメンバーになるの止めるね」


ゆりあ「えー?急にどうしたんすか?」


茉穂は里穂の肩に手を回して、ぐっと引き寄せた。


茉穂「2人で新しくブランドを立ち上げようと思ってさ。ね、リホぽよ?」


里穂「茉穂…マホぽよ~!」


こうして、茉穂と里穂は昔のようにマホぽよ、リホぽよとして活動していくことを決め、茉穂のDASADA加入の話は公になる前に無くなった。

みなみたちもまた、里穂のサポートがしたいと言い、DASADAを抜けることを決めた。


おちょこ「篠原さん。今日はありがとう」


沙織「いえ、ご迷惑をおかけしました」


おちょこ「今日の衣装も素晴らしかったけど、私はあなたのデザインした衣装が着てみたかったな。ねえ、もう一度、FACTORYに入らない?」


沙織「お言葉はとても嬉しいんですけど、すみません。私はDASADA専属のデザイナーですから」


おちょこ「そう残念ね。けど、いつでも戻ってきてくれていいから。サカヅキの名前はずっと残しておくから」


ゆりあ「ねえ、2人で何の話してたの?」


おちょこ「なんでもないわ。それじゃあ、私はこれで」


ゆりあ「あー、お疲れサマンサタバサ~。で?何の話してたん?」


沙織「内緒。けど、今回のことでよーく分かったわ」


ゆりあ「ん?何が?」


沙織「私はDASADAが大好きなんだってことがね」


ゆりあ「もー、あったりまえじゃん!ハグハグ~」


ゆりあは沙織のことを強く抱きしめた。


数日後。


沙織「なんか一気に注文増えてません?」


せれな「ようやくセレナーデ効果が出てきたってことね」


いちご「そんなわけないでしょ…ん?」


『KYAO-OSHIの2人めっきゃわ』

『私、五反田っちの顔推しなんで』

『古岡っちの顔を推すしかない』


真琴「へえ、あの2人のおかげってことか」


ゆりこ「歌やダンスの練習頑張ってたもんね」


ゆりあ「私もアイドル目指してみようかな」


菜々緒「ゆりあがまたバカなこと言ってるよ」


ゆりあ「だって私って…可愛いじゃん?」


DASADA season.2 完。

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DASADA season.2 @smile_cheese

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