第10話:死んだふり

 俺は色々考えたが、自由を選ぶことにした。

 ライオス辺境伯家の後継者に未練がないとは言わない。

 前世の事を考えれば、身分や権力は喉から手が出るほど欲しい。

 でも同時に、自分の心の弱さも痛いほど知っている。

 今生でまで良心の呵責で狂うのは絶対に嫌だ。

 領主の地位に付帯する責任に俺の心が絶えられるかといえば、まず間違いなく耐えられないと分かっている。


 今回のモーリス第4王子の愚行は渡りに船だ。

 ここで火を放って全員が焼死すれば、俺も死んだと思われる可能性が高い。

 問題は焼け残るだろう骨だが、骨まで焼き尽くせば問題ない。

 あるいはスライムに全部消化させればすむ。

 そうだな、私が死んだことで、従魔だったスライムが暴走した事にすればいい。

 まずは今の悲鳴を聞いた教職員や生徒が助けに来れないようにする。


「ヒィイィィィィ、スライム、なんでこんな所にヒュージスライムがいるんだ!」


「ガイラムだ、ガイラムがスライム使いだったはずだ」


 俺の事はある程度調べていたのだな。

 とはいえ、一万匹近いスライムを飼ってるとは思っていなかっただろう。

 しかもそれが合体統合してヒュージに成長するとは想像もしていなかっただろう。

 こいつらが大声で泣き叫んでいる言葉は、全て学園中に流れている。

 俺やモーリス第4王子達が、ヒュージスライムに取り込まれて学園内で見られたら、その後で行方不明になってもスライムに喰われたことになるだろう。


 俺は内心で全てのスライムに命令を下した。

 俺を除いた生徒会室にいる全員を喰ってしまえと。

 同時に、俺は食べないようにして体内に取り込めと命じた。

 スライム達は俺の命令通り、俺まで食べているように見せかけて、学園中を走り回ってくれたので、骨まで残らなくても大丈夫だ。


 生徒の中には俺や王子を助けようと攻撃してきたモノもいたが、体重5トンのビッグスライムと体重50トンのヒュージスライムを相手に、生徒ごときの攻撃が通用するわけがないのだ。

 俺はスライム達に学園付属の魔境に逃げ込むように命じた。

 生徒や並の騎士にビッグスライムやヒュージスライムが負けるとは思わないが、強力な冒険者が駆けつけてきたら怖い。


 王子を助けようとして、王家が本当に強い騎士を派遣する可能性もある。

 一旦魔境に入ってから見つからないように魔境から出て、他の魔境か未開地に逃げこめば、俺は本当の意味で自由になれる。

 王家にも辺境伯家にも気を使うことなく、スライムと一緒に静か暮らせれば、それが俺にとっては何より一番なのかもしれない。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生者はスライム研究に没頭して辺境伯家を廃嫡追放されそうです。 克全 @dokatu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説