第9話:演技

 脅迫なのか本気で殺そうとしたのか、モーリス第4王子が長剣を抜いて大きく振りかぶったので、そのチャンスを逃さないようにしました。

 縮小化しているヒュージポイズンスライムを、誰にも分からないようにモーリス第4王子の足元に放ち、俺の方に剣が落ちてくるように仕向けました。

 そしてその剣をわざと顔で受けたのです。


「ウギャアアアアアア」


 生徒会室どころか、学園中に響き渡るくらい大きな悲鳴を上げてやりました。

 こんな時のために拡声の魔道具を隠し持っているのです。

 攻撃してきた敵を威嚇し、助けを求めるための拡声魔道具ですが、今回はモーリス第4王子の暴挙を学園中に知らせるために使いました。

 ただ、本当に自分の身体を傷つける心算などありません。

 剣を受けた顔には、縮小化させたヒュージスライムを張り付けて、負傷しないようにしてあります。


「違う、私ではない、こいつが勝手に私の剣に当たって来たのだ」


 俺の持っていた拡声魔道具は、ちゃんとモーリス第4王子の言い訳も拾って学園中に広めてくれています。

 これでどう生徒会役員で口裏を合わせても、貴族派が真実を広めてくれます。

 もう絶対に王家は貴族派の心を掴む事はできないでしょう。

 貴族派も大手を振って王家から離反することができます。

 ですが、もう少し演技をした方がいいですね。


「殺される、モーリス第4王子にころされるぅううう。

 わずか7歳の私を、王家のために一人王都に人質に来た私を。

 辱めて嬲り殺しにする!」


「黙れ、黙れ、黙れ、嘘をつくな!」


 私は、生徒会議題の質問で辱められたのだが、今の言葉を聞いた多くの者は、モーリス第4王子が幼児性愛者で、私を襲ったと思うだろう。

 私を襲おうとして激しく抵抗されて、逆上して斬りつけたと思うだろう。

 全ての生徒会役員が、モーリス第4王子の悪業を黙認した恥知らずな腐れ貴族という、拭い難いレッテルをはられるだろう。

 そうなるだろうと計算して、俺はこういう事をやったのだ。


「ウギャアアアアアア」


 慌て騒いでいるモーリス第4王子に止めを刺してやった。

 縮小化しているとはいっても、2134匹のポイズンスライムが合体統合したヒュージポイズンスライムの力は凄く強い。

 モーリス第4王子を突き飛ばして俺の方に押しやる事くらい簡単だ。

 生徒会役員達に、ぶつかった拍子に俺が激しく斬られたように見せかけるのも、難しい事ではない。


 スライムの粘液に赤い色素を含ませて、大量出血のように見せかけるのも、とても簡単な事だ。

 ヒュージポイズンスライムに、遅効性だが解毒不可能なキノコ毒を、モーリス第4王子に身体に注入する事もね。

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