第1章 process あの屋上、聖女の君
process Ⅰ
僕にとって、人なんてものはどうでもよくて家族すら他人、ただそこにいる存在だった。
そんなの中、学友もいない学園生活はとてもつまらなかった。
暇、退屈という名の苦痛に痛めつけられる日々。
1度僕は考えたことがある。
もし、僕はどこかの選択でもし、別の選択をしていたら今とは違う環境だったのだろうか?はたまた別人のような人格に育ったのか?それを観測できないのだろうか、と。
何を言っている?頭がおかしいのか?キチガイなのか?とでも言いたいだろう。
あながち間違いではない。
人間過去になんて戻れない。
垂直の滝を生身の人間が登っていくようなものだ。
だが観測はどうだろう、と僕は思った。
見ることはできるのではないか?と。
結論から言おう。
無理だった。
ある一説にラプラスの悪魔というものがある。
世界にあるもの量子力学的に数値化し計算することが出来たら未来を予測できるというものだ。
他にも、ノストラダムスの大予言、2012年人類滅亡説。
時間に関する説は大量に存在する。
しかし、過去に関する記述は極端に少ない。
何故だかは僕もわからない。
しかし、ひとつ言えることがある。
きっと無理なのだろうと。
人間とは真っ暗な世界を歩く生き物だ。
答えがなく、ただ広すぎる膨大な暗闇、それを寿命、または殺人、あるいは病によって命を失うまで歩き続ける。
人生を美しく彩りたい人間たちは、そこにも光があると言うだろう。
そんなものはない。
それは光じゃないのだから。
ただ、暗闇を歩く"仲間"が増えたから、自分と同じ道を歩く"道連れ"を見つけたから。
ただ、安心しているだけなのだ。
そんな現実を認めたくない。
それが僕の見解だ。
グダグダこんなことを考えていると、強い日差しが僕を照らす。
眼に日差しが入り、反射で自分の顔を腕で隠す。
そういえば、今いるのは屋上だったな...
こんな所に1秒でもいたくないと思い僕はすぐさま立ち上がる。
立ち上がると手元から何かが落ちる音がする。
なんだろうと、落ちたであろう位置に目を向ける。
そこには1冊の本があり、僕はそれを手に取る。
「そういえば、英語の授業がつまらなくて赤ずきん読んでたっけな」
学園で習う程度の英語は既に個人的な学習で単位が取れる程度には理解しているからその授業に割く時間が無駄だと思って休み時間の時からここで隠れてたんだったな。
「はぁ」とため息をつき、日陰に移動し本を開く。
まだチャイムは鳴っていない。
教師に見つかると面倒なので、鳴るまでこの本の続きを読むとしよう。
10分ほど読んでいるとわからない文章が出てきてしまった。
どこの国のものか忘れたがこれは赤ずきんの原本だ。
中途半端な僕の知識ではこのくらいを読むのが限界だったらしい。
あと30ページくらいで読み終わるところだったのに、と物足りなさというか力不足というか、自分の実力不足を痛感してしまう。
再びため息をつき空を見上げる。
すると上から黒い存在が落ちてきた。
「ガフっ」
顔に衝突したが、固いものではなかったので特に外傷はなかった。
顔に綺麗に何かが乗っかっているらしい。
何故だろう、不思議と息苦しさを感じない。
感覚が消えていく。
意識も朦朧としだしてくる。
あぁ、落ちると思った。
その時、屋上の扉が開く音がした。
その音と同時に僕の顔からその存在はジャンプして、音がした方へ飛んで行った。
その時になにか鋭いものが頬をかまいたちのように切り傷を残していく。
僕はそれと同時に意識が完全に戻り、『何があった!?』と今さら驚き、手に持っていた本を落としキョロキョロしてしまう。
途中で落ち着き、僕は冷静に扉の方を見る。
そこには、猫とそれを撫でる1人の女の子がいた。
誰だ?と無粋なことは言わない。
一方的にだが、僕は彼女のことを知っている。
容姿端麗、成績優秀。
彼女を見た男たちは一目で心を奪われるとまで言われている。
しかし、あることにより周りから人を寄せつけない学園一の有名人。
秋津教教祖の一人娘、秋津春だ。
「あなたは誰、みゃ〜ちゃんと遊んでくれていたの?」
問いが2つ僕に飛んでくる。
本音を言うと心底面倒臭い。
そもそも僕は人と話すのはどちらかと言うと嫌いな方だし、親とすら会話も最低限しかしないから会話、というものがよく分からない。
そんなものに思考を割くのは嫌なのだが、今回は簡単な問いだ。
あなたは誰?
これと遊んでいたのか?
の2つだ。
僕は自分の感情を表に出さないよう気を配りながら口を開く。
「僕は有海夕陽、そこの猫との関係は一方的に殺されそうになり、一方的に傷を負わされたりと慰謝料を請求することができる関係だ。」
彼女は僕の返答を聞くと、何故かニコニコしている。
本心を言うととても不気味だ。
ただニコニコしているのだ。
質問して答えたのに彼女は何も言わない。
さすがの僕でも彼女の方が会話のキャッチボールが投げれてないことぐらいわかる。
きっと彼女にはわかっているのだろう。
顔には出てないが僕が戸惑っていること、相手がこの反応をしたら困るという結果が。
「え、後半どうゆうこと?」
彼女が表情が突然真顔になり素っ頓狂な声でそんなことを言ってきた。
僕が考えていた感じとは全く違う人格の持ち主のようだ。
「あの、ごめんなさい。その頬の怪我みゃ〜ちゃんのせいだったのね」
「いや、大丈夫だ。特に気にするほどの怪我でもない」
不気味だと思っていた彼女は僕が思っている人格像とは違いフレンドリーなタイプな人間だった。
宗教の教祖の娘だというからきっと一味二味なにかあるタイプの人だと思っていたが僕が思うにそこら辺の娘たちと変わらない一般的な女の子だ。
「怪我のことより僕は、ニコニコして僕を見つめていたあの沈黙の時の方が気になるのだが?」
ぼくがそう問うと、彼女ははにかみ笑いをして「後半言っていたことを理解するのに時間かかっちゃったんだ」と言ってきた。
僕はそれを聞くと吹きだしてしまう。
秋津教教祖の娘というイメージが強すぎたせいか思っていた人物像と異なりすぎて腹から笑いが込み上げてくる。
彼女は「なんで笑うの〜」と頬を膨らませ僕に言う。
「いや、悪いな。宗教に染まりきってる感じの人だと思っていたら全然そんなことない感じで、そう思うと笑いが込み上げてきて」
「ああ、私の父の話ですか…。そうですね、よく父と同じ頭のおかしい考えを持ったおかしいな子だとよく言われます」
「その感じだと親のせいでレッテル貼られてる感じだけど、親のこととか恨んだりとかしないの?」
「いえ、育ててくれていることには一応感謝していますから」
彼女は微笑みながらそんなことを言う。
その笑顔を見て、自分は少し踏み込んではいけないところに話を振ってしまったなと後悔のようなものを抱いてしまう。
微笑んでいるのに眼の中は真っ暗で、質問の答えに対して一応感謝していると彼女は言った。
親に対してどのくらいか分からないが負の感情を持っているのだろう。
この先は家族絡みの話だ。
僕は別に彼女の婚約者でもなければ彼氏でもない。
僕という存在が踏み込んではいけない領域だ。
悪いことを聞いたなとため息をついてしまう。
「あの、私なにかわる…」
キーンコーンカーンコーン
低いチャイムの音が学校で木霊する。
あぁ、やっと授業が終わったかと思いながら空を見上げてしまう。
先程秋津さんがなにか言おうとしていたが聞き取れなかったことをふと考える。
相手が再度何も告げないないのならそこまで重要なことでは無いのだろう。
授業時間が終わったので秋津さんは教室へ帰るだろうと思い僕は彼女の方を振り向き別れの挨拶でもしようとすると。
「私は教室に戻りますね、みゃ〜ちゃんの相手をしてくれてありがとうございました」
先手を打たれてしまった。
僕はそれに呼応するように「あぁ、問題ない。変かもしれないが楽しい時間だったよ」と言い返した。
彼女はそれを聞くと笑顔になり、そのまま屋上から去っていった。
それから僕は持ってきていた本を握りしめ、自分の教室へと帰った。
授業は最後の時限だったらしくSHRが終わると僕はいつもより早い足取りで下校した。
幾千の彼方より、 星宮 穹 @hosisora
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