Subliminal

暇崎ルア

Subliminal(読み切り)

朝目覚める。トーストにこれでもかというほどピーナッツバターをつけて齧る。こういうのをジャンクな味というのだろう。

マルキドサド、クオレ、トレヴァーホーン。

 テレビをつけると情報番組をやっていた。話題のグルメだの今年のトレンドだのくだらないことばかり。辟易する。

マルキドサド、クオレ、トレヴァーホーン。

 毎日毎日が平凡でつまらない。日常を壊す異端でも現れないだろうか。オリオン座から侵略者がそろそろきても良いころだと思う。

マルキドサド、クオレ、トレヴァーホーン。

 プレスリーのレコードをかける。軽快なオールディーズロックも、ノイズが混ざりすぎてもはや雑音でしかない。残念ながら踊る気にはなれない。

マルキドサド、クオレ、トレヴァーホーン。

 本を開く。もう何百回も呼んだものだから文に目は通さない。ただページをめくる。何も考えずめくる。ぱらぱらぱらぱら。音が心地よい。

マルキドサド、クオレ、トレヴァーホーン。

 何か自分にはすべきことがあるような気がしてならないが、それが何かわからない。わからなくても平気なのかもしれない。案外こういうことはよくあることなのかもしれない。

マルキドサド、クオレ、トレヴァーホーン。

 誰かに呼ばれているような気がする。部屋の隅で自分の名を呼ばれているような気がして落ち着かない。もちろん声がしたと思った場所には誰もいない。

マルキドサド、クオレ、トレヴァーホーン。

 何となく外に出てみる。粘っこい空気が素肌にまとわりつくような感覚を覚えて不快になる。散歩でもしようかと思っていたけど、たまらず自室に戻る。

マルキドサド、クオレ、トレヴァーホーン。

 正午になると、外の世界は騒がしくなる。人間が動いているのだ。群れになって動いているのだ。彼らは意思を持たないひとつの大きな塊でしかないのだ。

マルキドサド、クオレ、トレヴァーホーン。

 これは現実なのだろうか。夢を見ているのかもしれないじゃないか。自分の身体をたたくと痛いと感じる、鋭利な刃物で血管を刺せば血が流れて自分の手を実際に汚すようなリアルな夢かもしれないじゃないか。

マルキドサド、クオレ、トレヴァーホーン。

 誰が言ったか、世界は回っている。らしい。地面は全く動いていないのにも関わらず。なのに世界は回っている。不思議なことだ。

マルキドサド、クオレ、トレヴァーホーン。

 日暮れの時刻、郵便受けの方で物音がしたので見に行くと自分あての手紙が届いていた。どうやらあいつからだ。


「また戻ってくるよ。孤独が耐えられない君はさみしが

 るだろうから。僕の方こそ

 きっぱりと君を忘れさるなんてことはできないからね。

 どうしたって君を思い出すだろうさ。

 さいきんは苦しい時代だから生きるのも大層辛いと思う。

 どんな生き方が正しいのかわからないのがさらに辛いね。

 くれぐれも健康を害さないでほしい。君に病まれたら

 おちおち心配で眠れなくなってしまうから。約束しておく

 れ。

 とやかく言ってるが君のことが本当に心配なんだ。前に君

 レバーが嫌いと言ってたが、好き嫌いはしないように。

 ヴァイオリンばかり弾いてるのもいいが、たまにはスポ

 ーツのひとつでもやった方がいい。

 ホッケーとかどうだい。平地でもできるフィ

 ールドホッケーとか。僕が言いたいのは大体こ 

 んなものかな」


































































マルキドサド、クオレ、トレヴァーホーン。














 

 

 


 


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Subliminal 暇崎ルア @kashiwagi612

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