ヴィラン

にゃ者丸

ある日の夜に

 俺は悪党。


 誰かの不幸を喜びとし、自らの悪事を何よりも己を満たす行為だと考えている。


 そう、俺は心底から思っている。


 もし、こんな不自由な世界というものがならば――――――






「その〝当たり前セカイ〟を破壊しよう」






◆◇◆◇






 この世界は不自由だ。超常的な存在は空想のものとして容赦なく迫害し、何のチカラも持たない大多数を絶対の〝正義〟としている。


 異能、魔法、超能力――――――人間がだったら、彼ら大多数の人間は、彼らを一切の容赦なく、彼らを〝人間〟と認めず〝化け物〟として殺戮してきた。


 良い例が【魔女狩り】だ。疑わしきは罰せよを是とし、〝魔女〟となした者を裁判にかけ、私利私欲のままに嬲り、大衆の面前で神罰と称して殺す。


 実際のところ、その殆どは何のチカラも持たない人間だったが、彼らは恐れるままに殺す。

 例え、それが間違いだとしても。


物語に出てくる怪異、魔物、魔獣――――――そう呼ばれる幻想の生き物もまた、現代まで生きてきた大多数の人間によって排除された。


 今ではひっそりと隠れ潜み、人間の世界に紛れるか、はたまたチカラで創造した異界に避難したか。


 ともかく、この世界には大多数のチカラを持たず、〝科学〟こそ絶対なる人間のチカラと称して、この世界は幻想とされるものが存在しない事が〝普通〟であり〝当たり前〟になっている。



 俺は、それがどうしようもなく不快であり、不愉快だった。


 チカラを持つ者の一人として、チカラを自由に振るえず、むしろ自ら超常を操る者だと言えない、または信じてもらえない、証明できない事へのストレス。


 普通を強要され、社会という枠組みに捕らわれる気分は、まさに飼われているという気分になる。


 俺達は何もしていない。何も、ただ生きていただけ。


 やつらが勝手に恐れて、勝手に迫害し、勝手にこの世界から存在を消し去ろうとしたのだ。



 往々にして、世の中の悪意や善意を目の当たりにしてきた俺は思った。




――――――なぜ、俺達は無かった事にされた。




 人間の勝手なエゴによって生まれた、虚無とでも言えばいいのか。


 この世界が歪んで見えるのは、俺が彼らのように〝普通〟でないからか。



 脈々と受け継がれてきた、とある魔法使いと呼ばれる男が残した遺産。


 単に、歴史の中で本当に起こった事実を書き記すだけの、本を読んだ時。



 俺は決意………なんて奇麗ごとは言わない。



 そう、言うなれば〝堕ちた〟のだ。


 これまで、身の内に溜まってきたドロドロとした悪意。



 それが、まるで花開くように目覚めただけなのだ。



 もしかしたら、俺は最初からだったのかもしれない。



 自分の心が暗くなるのを、身の内から悪意が込み上げるのを自覚した時。



 俺は、自らに掛けていた呪い――――――〝普通の人間〟の演技を、止める事にした。






「俺は、






◆◇◆◇







 一面の夜景。ネオンの輝きが闇を払い、ここまでの文明を築き上げた〝科学〟の光……………ああ、やはり何度見ても変わらない。



 俺の心は揺れ動かない。



 どれほど飾った所で、そこに俺達のような少数の〝存在しないもの達〟がいない時点で、ここは檻にしか見えない。



 俺を縛る、自分達でさえ縛る。



 〝当たり前〟という、虚構まみれの〝正義〟と〝平和〟。



 とてもちぐはぐで、これから直そうにも、もう手遅れだ。


 だったら、一度やり直すしかない。



 全てを破壊し、全てをリセットする――――――それからだ。




 世界を作り替える。この俺が〝自由〟を掲げる為に、邪魔なものは全て壊す。




 その後に混沌を迎えようが、それでもいい。



 大事なのは、この〝俺〟という存在が、この世界にいる事を分からせるため。




 煙草を咥えて火を点ける。



 肺に煙を送る。そして吐き出す。



 これだけでも、多少はましになる。



 こうしている今も、飢えた俺の悪意は騒ぎ、駆り立てる。



 ああ、そう焦らずとも、もうすぐ始めるよ。




 横に置いてた仮面を被る。



 俺という存在を隠し、悪党ヴィランという存在になり替わる。



 スイッチを入れるイメージで、



――――――カチッ




 俺は、裏返る。




 恐怖を掻き立てるような満面の笑みを浮かべて、〝私〟は口を開いた。




「さて、準備は良いかな?諸君――――――悪党の御時間だ」




 何もない空中を歩く。いや、足場はあるが、すぐに消えているだけだ。


 無論、透明な足場だが。




「はっはっはっはっは!!こんばんわ、市民の皆さん!!」



「今日もはりきって行こうか!――――――殺戮ってやつを、ね♪」





 私の姿を見た者は悲鳴を上げる。地上はいまや阿鼻叫喚。



 それだけで私は実感する。私が紛れもない悪党ヴィランという事を。




「存分に楽しんでくれ、私のお遊戯を!」




 悪意に満ちた笑い声を上げながら、



 ドロドロとした感情を吐き出す。



 爆弾が落ちる。建物が壊れる、道が割れる。


 たくさんの人が死ぬ。



 指を鳴らす、そうすれば地上に怪物モンスターが沸いてくる。



 ああ、楽しくて、楽しくて堪らない!



 やはり俺は悪だ。最悪の人間だ。



 だが、だからこそ――――――良い。





「早くしろよ〝正義の味方ヒーロー〟、でないとたくさんの人が不幸になっちゃうぞ♪」




 待ち焦がれてもいる、忌々しい存在。



 俺とは逆の道を選んだ者。



 歪んだ笑みが止まらない。




 この光景を見た時、あいつはどんな顔をするのだろう。



 それを考えただけでも、俺の心は期待と悪意に溢れていく。




 呼吸をするように悪事を考え、食事をするように悪意を為す。




 今でも、振り返って思う。




 ああ、自由とは最高だ。



 委ねるだけで、これほど生きている事を実感する事はない。




 重ね重ね思うよ。




 俺は、真正の悪だ。





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ヴィラン にゃ者丸 @Nyashamaru2

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