もしかして鬼ヶ島にお供っていらなくね

ちびまるフォイ

悪いなのびた、この舟3人乗りなんだ

さあ、いざ鬼ヶ島というところで桃太郎は切り出した。


「みんな大事な話がある。ここにいる全員を鬼ヶ島へは連れていけない」


「ワン!?」

「ピエ!?」

「ウキ!?」


「このボロ舟では3匹を乗せると沈んでしまうんだよ」


「それならキジが空を飛べば良いワン!

 1匹分軽くなるから舟は沈まないワン!」


「バカ言うなッピ!! お前、鬼ヶ島がどれだけ遠いか知ってるのか!?

 それに風も強い。ひとっ飛びで行けるわけないピエ!」


「そう。だからここで鬼ヶ島に行く前に誰が一番弱いかを決める必要があるんだ」


お供3匹は顔を見合わせた。

もしもここでリストラなんかされれば、この先に待つ栄光にありつけない。


「ボクはただのそこらへんの犬じゃないワン!! きっと役に立つワン!」


「そうなのか?」


「実はボクは怒ると本当の姿になるワン!

 口から火を吹き、背中からは羽が生えて、その気になれば地球をも滅ぼせるワン!!」


「なんだと……! それはすごそうだ! ようし犬は確保だな」

「ありがとうワン!」


桃太郎の視線は次にサルとキジへ注がれる。


「待つピエ。そんな脳筋ワンコなんかよりも私のほうがずっと有能ピエ」


「そうは見えないが? 足は細いし、爪も鋭くないじゃないか」


「実は時間を自由自在に操ることができるピエ。

 時間を停止し、巻き戻し、スキップし、切り取ることすらできるピエ」


「それが本当に強いのか? いまひとつピンと来ないが」


「私が本気を出せば、時間を停止させて傷一つ追うことなく鬼を全員倒せますよ」


「な、なにぃ!? それはすごい!! キジも確保だな!」

「当然ピエ」


どんなに犬が強くても不意打ちで命を落とす可能性がある。

けれどキジの時間停止能力を使えば、誰一人失うことなくノーリスクで勝利できる。

さらにいいことに、キジが入ればますます犬の力も発揮できるだろう。


時間停止空間で一方的に絶大な力を発揮できればもはや敵なし。


「となると、もうお供はこれで決まりだな。サルはいらないな」


「ま、まつウッキ! 俺もお役にたてるッキ!!」


「お前はなんの能力もないじゃないか。犬のように強くもないし、キジのように優れた能力もない。鬼ヶ島に連れて行くには価値が臼い」


「桃太郎さん。力や能力だけが強さの象徴だと思ってるッキ?」


「どういうことだ?」


「鬼ヶ島に行って、鬼を全部倒したとしてそのあとはどうするッキ?

 人間からうばった財宝をそんじょそこらにほっぽってるわけないウッキ」


「それはそうだが……探せばいいだろう」


「俺は鬼ヶ島の鬼どもにもコネクションがあるウッキ。

 事前にたくさんの情報を仕入れているウッキ。

 現地に行けば確実に桃太郎さんをナビすることができるッキよ」


「その程度なら別に……」


「おやおや。本当にいいウッキ? もしも勢い余って宝物庫を破壊して、

 大事な金銀財宝がガレキの山に埋もれてしまったら?

 鬼ヶ島に囚われている美しい姫様にも気づかずに去ってしまったら?」


「ぐっ……それは見過ごせない……!」


「鬼を一掃しただだっ広い島の中でアテもなく探すウッキ?

 どれだけの財宝が奪われて鬼ヶ島に眠っているかも把握してないのに?」


「むぐぐ……!」


夜通し鬼が島に穴を彫りまくって、埋蔵金でも探しているような自分のイメージが頭をよぎった。

勝つことはたやすくても別の部分が鬼を倒すよりも大変だ。


「俺がいないと鬼ヶ島で延々穴掘りの毎日ウッキよ」


「ああもう! いったいどれをリストラすればいいんだーー!!!」


桃太郎は頭を悩ませた。

そして全員でもっとも不要な1匹を選んでから舟で鬼ヶ島へ向かった。




案の定、鬼ヶ島を焼け野原と帰るのに1日もかからなかった。


鬼ヶ島から戻ってきた舟を見た村の人達は拍手を送った。


「舟が戻ってきたぞ! 英雄たちの凱旋だ!!」


舟には大量の金銀財宝が詰め込まれ、鬼ヶ島へ囚われていた人間たちも解放された。

村の人達はいたく感謝した。


「ありがとう存じます! ありがとう存じます!!」


ペコペコと下げた頭を上げると感謝ついでに尋ねた。


「あの、どうしてこの中に桃太郎さんの姿がないんでしょうか?」


3匹のお供は口をそろえて答えた。




「桃から生まれただけの人間なんて、いったいなんの役に立つんです?」

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