『翠の傘の君』に逢いたくて

年中雨の絶えない国の田舎の小さな街、少女の雨の日の楽しみは古アパート4階の自分の部屋の窓から道行く人を観察することだった。
今日もアンニュイな気分で階下の道を行き交う人々の個性豊かな傘を眺めていたとき、落ちる雨粒の軌跡を視線で追い、それが目に飛び込んでくる。
――翠の傘だ。


雨音のノイズ、モノクロームに染まる街並み、その中で瑞々しく咲く翠の傘の鮮やかさ、そこに落ち、弾け、光と散る雨の雫の一粒一粒が……
映画のワンシーンのような光景が目に浮かぶとともにその音まで聞こえそうなほど美しく丁寧に描写される世界の中、アンニュイな少女が『翠の傘の君』と出会い、別れ、成長する姿が活き活きと魅力的に描かれた作品です。