彼岸駅話
夏山 月
事実と事実のお話
(ガタン、ガタン)
今日も列車の音が鳴っている。
多くの人が電車から降りるとほとんどの人が虚ろな顔をしながら電車のホームに降りてホームから繋がる階段を降りていく。
先ほどの人だかりが嘘のようになくなり駅員以外は誰一人としていなくなってしまった。
ここはあの世とこの世の堺にあり現世の終着点である彼岸駅だ。
そこに古臭い駅員の服を着た女性が一人。
その服には赤井霊子と駅長兼管理人と書かれた社員証を首にかけており鼻歌混じりで駅の掃除をしている。
「あの、すいません。ここはどこなのでしょう?」
電車から最後の一人と言わんばかりに女性が青い顔をしながら出てくる。
一番近くに居た駅員の霊子には息切れをしながら近づいた
「全員が電車を出たと思ったらまだいたのですね。
ここは、あの世とこの世の繋ぎ所、通称彼岸駅といいます。」
霊子はニコニコしながら答える。
「おやおや、まだあなたは生きているのですね。」
「どうしてそれがわかるのですか?」
「あなたは電車から降りて走ってきたため息切れをしているでしょう。死者は息切れをしないんですよそれどころか生者としての営みを忘れてしまう。ありとあらゆる欲がなくなり肉体的疲労も感じなくなってしまう。だからあなたがまだ生きているとわかったのです。」
「どうすれば現世へと帰れるんですか?」
「こちらからはどうしようもないですね。もう、完全なる運です。それまで暇ですしこちらへ」
霊子はそういうと彼女を連れて駅のホームにあるベンチへ座らせ缶コーヒーを手渡す。
「ジュースとかの方が良かったですかね」
「ありがとうございます」
「いえいえ、これも仕事の一環ですので......そういえばあなのお名前は」
「富川舞といいます」
「そうですか。では富川さん、あなたはどうしてお若いのこちらへ来られたですか?」
「それを話すと長くなってしまうのですが、簡潔に言えば私の周りの人が私のことを理解してくれなかったための痴情のもつれのようなものです」
「というと、思春期に親が自分のことをわかってくれないみたいなことでしょうか?」
「そうではなく、私の言葉が理解できないみたいでした。挙句、私は狂人扱いされて彼氏に見ていられないと言われて別れを告げられました。」
「それでも彼のことを諦めきれない私は彼に復縁を何度も持ちかけたんです。でもだめでした。そしたらしつこいからかなんなのか、私を彼の家に連れ込み彼に殺されかけて今ここに居るということだったと思います」
彼女は今に涙でも流してしまいそうな震えた声で語った。
するとひとつの電車が反対側の路線に到着した。
「次の駅は現世ー、現世ー、生者専用車両でございますので他のお客様はご利用いただけません。ご注意ください」
突然渋い男性のアナウンスが鳴り響く。
「それは、、、また、災難でしたね。おっと、おめでとうございます。あなたは現世でまだ生きられるようです。この電車に乗れば現世に帰ることができます」
「本当ですか!!やった、本当にありがとうございます」
彼女は涙を流しながらお礼をそそくさと電車に乗る。
すると直ぐに扉は閉まり先ほど来た電車と同じ方向へ進みだした。
「あれ?なんであの電車は進まないんだ?」
他の駅員がざわざわと騒ぎ始める。
舞子は一番近くの駅員に近づき尋ねた。
「どうしました?何かトラブルでもありましたか?」
「はい、現世から常世への電車は人が降り次第出発するはずなのですがいつまで経っても進まないのです」
「それは問題ですね。早急に電車の点検と大至急、駅員と車掌全員にこのことを伝えなさい」
「了解いたしました」
「駅長、大変です!」
別の駅員が駆け寄ってくる。
「どうしました?」
「それが、車内で人が倒れていまして、現在数名の駅員で対応しているのですが......」
「すぐに行きます」
その騒動が起こっている現場へと行くとそこには一人の男性が倒れていた。
彼岸駅話 夏山 月 @tukinatuyamano
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