君がこれに気付くまで

あーりー

-・

 俺は目を奪われていた。冷え切った空気の中でただただ立ちすくみ、真っ直ぐ自分のことを見ている、目の前の少女に。しかし、その眼はどことなく焦点が合っていない印象で、顔が偶然こちらを向いているだけのようにも見える。

 世間はクリスマスが近づいた12月。浮き足立つ男女に溢れた街は、彼らを守るように沢山の光で包まれている。

 俺――加藤要は、自分が持っていないものを持っている人で溢れかえる駅前で、一人寂しく花壇の囲いに腰かけていた。だから、何をしていたわけでもない。ただぼぅっとしていただけ。なんとなく目を開けていて、でもどこかには焦点が合っている。そんな状態。

 だから。だから気が付けなかった。ふと横から見ていた少女に。いや、見ているような見ていないような不思議な感覚。ただこっちを向いているだけという感じ。

 違和感はすぐに解決された。少女の手には白杖が握られていたから。

 お互いにお互いを瞬時に認識したわけではない。むしろ認識したことが奇跡であるかのような関係。

 それでもなぜか俺は動いていた。別に倒れそうだったとか、危なっかしく見えたとか、そんなことではなく、引きつけられるように目の前の少女に足が向かっていた。

「大丈夫ですか?」

 自分でも「何が?」と思ってしまうほど脈絡のない言葉が出てしまった。案の定きょとん顔が返ってくる。見えにくい相手にいきなり声を掛けられればそうなるだろうが、その顔を可愛いと一瞬思ってしまった自分はどこかネジが外れていたのだと思う。

「あ、えっと、すみません。場所がわからないのかと思ってしまって…。」

 急いで言い訳をすると、目の前の少女はふふっと小さく笑った。

 あ、かわいい。

「ありがとうございます。ここの場所は分かっているのですが、この先どうしようかと思いまして。」

 彼女はみや せおりさんと言った。失礼ながら年下だと思っていたが、同い年なのだという。家が居づらくなって出てきたのだとか。よく行く場所はなんとなく覚えがあるが、やはり限界があるようで、イルミネーションの強い光を頼りに歩こうかと思案していたらしい。

 さすがにそんな事情を聴いて置いて行けるほど薄情ではない。送っていこうかとも思ったが、この年で逃げ出してくるというのは少し家庭環境が気になった。人の家の事情に口を出すつもりは毛頭ないが、親切だと自己暗示をかけることにした。

 大学3年生。そこまで心配されるものでもないだろう。一晩話を聞くついでに泊めることになった。

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君がこれに気付くまで あーりー @arli6ki

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