第一章 #3

めんどくさいことになった。

今、私の目で母親に怒鳴りつけられてる男。

この男は私と同じ。

今日という日をループしている。

できれば会いたくなかった。

そんな後出しな願いは叶わない。

私と同じループをしている男。

あーあ、なんで私、逃げなかったんだろう?。

警察と話すのを断ってもよかった。

そのまま逃げていれば…

明日には戻る。

この男からさえ逃げ切れていれば…

また私の非日常が始まる。

ただまだ落ち込みすぎるのは早い。

この男は私と同じかもしれない。

私と同じこと考えているかもしれない。

ただ毎日同じ世界に孤独を感じただけ。

それだけかもしれない。

それだけであって欲しい。

私も孤独は感じていた。

いやずっと前から孤独だった。

それならちょうど良い。

もし同じなら、

この男とは仲良くやっていけるかもしれない。

気がすむまで永遠に。



「ごめん、待たせちゃったね…」

母さんが怒鳴られたのはいつぶりだろう。

「別に…気にしてない」

「にしても君、足早いね」

ループが始まってからも運動を続けていたのだろうか?

「あんたが遅いだけ」

なんか女子に言われると傷つくな…

「いやぁ、ループが始まってからは運動してなくてさ」

まあ実際、半年以上まともに走ってもなかったしな、しょうがない。

「……リセットしてるよ」

「…なにが?」

リセット?何がだ?

「毎日、体もリセットしてるよ」

「………ん?」

えっ体もリセット?じゃあ……

「体力は今もループが始まった時と同じまま」

…つまり俺は元から遅い?

「元からあなたの体力がないだけ」

あーーーー確かに今思い返してみると俺、高校に入ってからまともに長距離走ってないわ…

「いや、でも君が速いからじゃ?…」

頼むそうであってくれ!でなきゃ、なんかめっちゃ恥ずかしい!俺の男のプライドが…

「別に」

「運動部だった?運動部だよね?」

「違う」

「スポーツやってた?」

「やってない」

「運動得意?」

「別に」

あーーーーーーーーーーーー終わった。

俺のプライド、ズタボロ。

俺、普通の女子より体力なかったわ…

「でっあんた名前は?」

「ごめん今はちょっと一人にして…」

「あーそう、じゃあさようなら」

俺は慌てて彼女の腕をつかむ」

「ごめん待ってごめん、南己、大塚南己です」

この状況をさっきの警察もしくは母さんに見られたらやばいな…

「痛い、帰らないから手放して!」

「あっごめん、また逃げちゃうかと思ったから」

良かった、ひとまず彼女は逃げないでいてくれるらしい。

「私は|文月心結≪ふみづきみう≫」

「へーじゃあ『心結ちゃん』って呼ぶよ」

どうだ!このコミュ力。

初対面の女子を下の名前で呼ぶと宣言。

カースト上位の化け物コミュ力の持ち主だけが使える技。

ループが始まってからいろんな女子に声をかけ続けることによって取得した技。

下の名前で呼ぶことにより一日でも充分仲良くなれる。

「俺のことも南己でいいy」

「やめて、気持ち悪い」

「へっ?…」

嘘だろ?何故だ?何故なんだ!

俺の何処が気持ち悪い?

俺が何をした?

なんで俺をそんな目で見る?

………あっ

「俺、ストーカー野郎だったわ…」

「知ってる」

あー俺の第一印象最悪だったわ。

終わったー。

「いやっでもあれは、文月さんが逃げるから…仕方なく」

「誰だって逃げるでしょ」

それもそうか…

「まぁ、もういいわ」

あれ、冷たいけど案外優しい?

「次、私に触ったり、馴れ馴れしく名前で呼んだら殺すから」

うん、全然優しく無かったわ。

ただただ冷たい眼差しを向ける暗殺者のような奴だったわ。

「こっ怖いよ」

はたして俺は彼女と仲良くなれるのだろうか?



「っで、私に話しかけて何がしたいの?」

ここからが重要な話。

この南己という男は何がしたい?

「何がしたいってそれは…」

「ループから抜け出すつもりは無い」

「えっ、」

「私はこのループから抜け出すつもりは無い…当分は」

そう私はループから抜け出すかなんてさらさら無い。

この男がどう思っているかは知らないが、少なくとも私はこのループを楽しんでいる。

そして何より戻りたくない。

もうあの生活には戻りたく無い。

毎日毎日同じこと繰り返し。

もうあの日常は嫌だ。

だから気が済むまで、いや永遠にループしていたい。

「だから君がこのループから抜け出したいなら、一人で解決策をみつけて。私は止めはしない、けど手伝うつもりも無い。そして今後も君ともう会う必要はない」

「ふっふっはぁっはっは!」

なにこいつの笑い方気持ち悪。

「キモい」

「そうだろうと思ってたさ!」

「気持ち悪いって自覚あるなら治した方が良いと思うよ」

「いやそこじゃなくて、ループから抜け出すつもり無いって話」

ああ、そっちね

「驚かないのか?」

「いや、別に」

「反応薄いな…君が『知ってる』って言ってからずっと考えてたのに」

「ちょっと考えればわかるでしょ」

そう考えればわかる。

もし私がループから抜け出したいなら、同じくループをしてるコイツから逃げたりなんてしない。

「てか、何で俺がループしてるって知ってたの?ねえ、なんでーなんでー」

でも、私がループから抜け出すつもりが無いことをわかっているなら何故私を追いかける?

私を説得したいのか?

それともコイツもループから抜け出すつもりは無いのか?

「もしかして、お前もループから抜け出すつもりは無いのか?」

「まさかの俺の質問無視?更に質問で返してくるのかよ!あとお前呼び」

えっあーどんな質問してたっけ?

まあ、いいや。

「っで、抜け出すつもりは無いわけ?」

「あっ俺の質問は無かったことになったんすね………俺はさ、今の生活に飽き飽きしてるだけなんだよね」

それはそうだ。

もう九ヶ月以上も今日を繰り返している。

「だから、新しい刺激を感じたいだけ」

「私と出会ったからといって刺激が増えるわけじゃない。いずれ私と過ごすことも日常に変わる」

そう、もし今後コイツと過ごすとしてもいずれ飽きは来る。

何より私たちには出来ることが限られ過ぎている。

何をするにしてもお金は必要だが、その金の入った財布はリセットの対象。

毎日家の財布が置いてある場所に戻ってしまう。

つまり出来ることは1日できることのみ。

しかも家の近くに限る。

私も初めは行く宛の無い旅するのも良いと思っていたが無理だった。

「たしかにそうかもしれない。でも俺は君ともっと話したい!文月さんとまた会いたい!」

「どうして?ただ刺激が欲しいから?」

「たしかに刺激も欲しい、もうつまらない日常を送りたくない、でもそんなことより何より文月さんが寂しそうな目をしてるから」

体温が高くなっていく。

鼓動が速くなる。

心臓が締め付けられてる気がする。

おかしい。

まるで自分の弱点をつつかれたようだ。

「っっ、私は寂しくなんてない!」

気づいたときには大声で言い返していた。

「孤独なんて感じてない!」

それは嘘。

私は孤独だ。

今も昔も家でも学校でも。

「いや嘘だ、だってなにより同じくループをしているこの俺が孤独だから、寂しいと思うから」

「そんなの関係ない!アンタが孤独でも私は孤独じゃない!」

私は孤独だとわかっている。

でもなぜか認めることができない。

いつの間にか視界がぼやけてきた。

「えっあっごめん言い過ぎた…」

まさかこの程度で自分が泣いてしまうとは…

ループをしていたこの九か月、それまでの人生とは別物った。

まるで別人になったような気さえした。

自分はリフレッシュできたと思っていた。

変わることができたと思っていた。

でも、やっぱりあの日常は戻りたくない。

もうあの孤独を味わいたくない。

そう思えば思うほど涙が止まらなくなる。

「俺、文月さんのこと嫌いじゃいよ」

っえ、今なんて言った?

「というかどちらかというと好きだよ」

………何言ってるんだ?

「文月さん可愛いし、めっちゃいい匂いするし、性格は…まだよくわかんないけど、とにかく好きだよ」

「なにそれ、慰めのつもり?気持ち悪い」

「だから前言撤回。文月さんは孤独じゃない。一人じゃない。だからそんな寂しい目を、顔をしないで。文月さんは笑顔が一番合うから」

「……私の笑顔なんて見たことないくせに」

「えっいやえっと多分だよ、多分」

「…多分ってなんだよ」

「だから俺がいるから、俺と友達になってよ」

…友達。

友達なんて呼べる人はいなかった。

別に友達なんていらないと思ってた。

でもいざ、できるチャンスが来ると欲しくてたまらないものになる。

「…わっわかった」

「よっしゃーーーーー!」

 


今、私の前で奇声を上げている男。

この男は私と違う。

この男は一体にを考えているのだろうか?

ヘラヘラしているかと思えば、冷静な一面もある、かと思えば急に強気な口調でせめて来たり。

情緒不安定?多重人格?

そんなことを思わせるような感じ。

一見行動が矛盾ているように見えてしていないようにも見える。

この男はただ刺激が欲しいだけなのだろうか?

本当は何を欲しているのだろうか?

まあ、どうでもいいか。

私は気が済むまでこの友達とループを楽しもうと思う。















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止まった歯車の中で おつおつみ @otsumi023

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