Ⅺ 夢の続き
「――とまあ、俺がフラガラッハを手に入れた経緯はまあ、そんなところだ。もう一本、こっちの光って危険を知らせてくれる短剣〝スティング〟の方はまた別の遺跡で手に入れたんだが……話が長くなるんで、そっちについてはまた別の機会にすることとしよう」
自らが体験した古代異教の魔法剣を巡る物語の話を、ハーソンはそう最後に締めくくった。
彼がそう言って昔語りを終えると、船長室の中は妙にしん…と静まり返っている。
初めてこの話を聞いたメデイアはもちろん、すでに聞いたことのあるアウグストも、その奇想天外で不思議な内容にすっかり聞き入ってしまっていたのである。
普通に聞けば、こんな俄には信じがたいあり得ない話、体現妄語の大法螺吹きと一笑に付されてもおかしくないようなものであるが、アウグストもメデイアも、ハーソンが嘘や冗談を言うような人間でないことは…というか、むしろ、おもしろいジョークを口にできない、悪い言い方をすると
体験した本人以外には確かめようもないが、きっと紛れもない本当のことだったのだろう。
だが、それよりもメデイアには、もっと気になることがある……。
「あ、あの……団長はそのウオフェさんと……」
「……ん? ウオフェがどうかしたか?」
「い、いえ、なんでもありません! なんでも……」
意を決してそのことを尋ねようとしたメデイアであるが、ハーブティーで話し疲れた喉を潤し、怪訝そうに聞き返すハーソンの顔を見ると、彼女はそれ以上追及するのをやっぱりやめにした。
密かにハーソンのことを慕っているメデイアは、その古代遺跡で出会った美しい巫女との関係が非常に気になる反面、彼の気持ちを知ることがとても恐ろしかったりもするのだ。
そんな特別な出会い方をした女性(しかも超絶美人…)である。もしも、今でも彼の中にその
トン、トン、トン…!
顔に着けた
「入れ。どうした?」
「失礼します……団長、エルドラーニャ島が見えてきたっすよ!」
ドアの方へと視線を移してハーソンがそれに答えると、続けて入って来た騎士団の伝令役を務める体育会系の青年アイタ・イーデスが、今日は一段と弾んだ声でハキハキとそう報告をする。
「おお、ようやく見えたか。よし、我らも見に行こう」
「ええ。そういたしましょう!」
その知らせに〝フラガラッハ〟を手に取るとハーソンは立ち上がり、そのまま船長室の外へ向かう彼に同じくアウグストとメデイアも付き従う。
「……あ、ハーソン団長! 見えてきやしたぜ。いよいよ〝新天地〟でさあ!」
上甲板へ出ると、総舵輪を握るティヴィアスが彼に気づき、進行方向を指さすと野太い声でそう告げる。
その指先を追えば、手の空いてる騎士団員達も船首の方へと集まり、なにやらわいわいと騒いでいるのが見える。
「あれがエルドラーニャ島……俺達の新たな家か……」
「まだ小さくて、ぜんぜんわかいませんな」
「いったいどんな所なんでしょうね」
ハーソン達も船首へ歩み寄ると、船が向かう遥かその先には水平線に黒い島影が小さく覗いている。
ここからでは黒い点のようにしか見えないそれであるが、その〝新天地〟の入り口の海に浮かぶ大きな島には、エルドラニアが最初に築いた植民都市〝サント・ミゲル〟があり、その街を守るためのオクサマ要塞が彼ら羊角騎士団の駐屯基地ともなる予定だ。
また、そのエルドラーニャ島の北方には海賊達の巣窟と化しているトリニティーガー島という小島もあり、占拠した海賊達が要塞化していて、エルドラニアの艦隊でもなかなか手が出せないのが現状である。
さらにこの海域はエルドラニア本国と〝新天地〟を結ぶ貿易船の航路でもあり、まさにこれからハーソン達羊角騎士団が任される、海賊討伐が必要とされる場所なのである。
「フラガラッハ、またおまえにも存分に働いてもらうことになるな……さて、新たな我らの冒険のはじまりだ」
まだ小さなその島影を遠く見つめ、腰に下げた魔法剣の柄を人知れず静かに握りしめると、ハーソンはその愛剣に話しかけるかのように、独りそう呟いた。
(An Aisling Rás Draíochta ~魔法の民の夢~ 了)
An Aisling Rás Draíochta ~魔法の民の夢~ 平中なごん @HiranakaNagon
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