第28話 覚醒

「起きた?」


 夜を思わせる黒髪が、目に映る。


「『  』、」


 見知った誰かに似ている声がする。その声が自分の名前を呼んでいると、何故か分かった。


「私のこと、分かる?」


 聞かれた問いかけに答えるのが難しかった。咄嗟に声が出なかった上、その顔が誰かと混同してしまい、うっかりその名で呼びかけたせいだ。


 だけど、間違えるわけ筈がない。


 彼女は、俺の、


「······『あずさ』?」


 すると、彼女は心底嬉しそうに笑い、俺の名前を呼んだ。


「そうよ。『ゆうと』」

「······『ゆうと』」

「ええ、そうよ。『勇人』。もしかして、自分の名前も忘れたの?」

「そんなわけないだろ」


 咄嗟に言い返して、はっと我に返る。


「······そうだよな?」

「私に聞かれても」


 少し呆れた顔で肩をすくめる彼女に、俺はようやく気がついた。


「······『あずさ』、」


 そうだ。彼女の名前は九条梓。


「何、『勇人』?」


 俺の名前は如月勇人。


「ここ、どこだ?」


 当たり前の光景がうまく結びつかず、当たり前の質問をした。彼女は一瞬沈黙した後、


「病院よ」

「病院?」

「そうよ、勇人。ここは病室で、勇人は患者」


 そう言った後、彼女は確かにこう言った。


「勇人はずっと眠り続けていたの」

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【pixiv版/改訂版】最弱の勇者は、最強の魔女に世界を壊される。 ぺんぎん @penguins_going_home

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