土生

 その後、俺は初めて人を殺した。

 それは俺の意志など微塵みじんもない、ただの事故だったのだが。

 それから『神々の邂逅』が始まり、俺たちは何度も戦い、何人も殺した。

 戦争が終わり、折と出会い、俺たちは変わりなく人を殺す。

 喜びも怒りも哀しみも楽しみもなく、殺す。


 これが俺の人生。


 一般的な視点から見れば、幼い頃の不遇な体験が俺の価値感を歪め、先生と出会ったことで魔道にちたという風に見えるだろう。

 しかしそれは違う。

 俺は疎外されず、迫害されず、殺害されそうにならずとも、脱線していた。

 たとえ先生に出会わずとも、破綻していた。

 そういうことだ。

 遅かれ早かれ、俺はがまん出来ず、俺の人生はゲームオーバーになっていた。

 それは誰のせいでもない。俺のせいですらない。

 しかし終わっても続くのが人生だ。

 俺は終わっている人生を、続けるしかない。


 記憶にかすかに残る、白い男は言っていた。


「私は人を殺すことができません」


 記憶にくっきりと残る、太陽のような女は言っていた。


「人を殺しちゃいけません」


 戦争の最中にあって、あの女は最後までそう言っていた。

 そういえば、先生もあの女の前だけでは、人を殺さなかったな。


            ◆


「おい……刃。刃!!」


 大声で呼ばれ、はっと目を覚ます。

 気付くと俺の横には先生が立っていた。


「先生、何ですか?」

「仕事を頼みたいんだが……大丈夫かい?」

「……大丈夫です」


 俺は身支度を整え終えると、最後に薙刀なぎなたを持ち、指定された茶屋へ向かう。


 『なぜ?』とは聞かない。


 答えは明白。


 『それが仕事だからだ』。

 『これが俺の生きる世界だからだ』。


「ここからが殺人だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君が世 ―君が創り出す三千世界― 外伝 @susumu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ