ぬくもり

猫 ジャラミ

第1話 その手が好きでした。

「私達はお見合い結婚だったんだよ」

私が21歳の時でおじいさんが25歳の時。


「お見合いなんて嫌っ!!」って行ったんだけどね、当時両親には反抗できなくて、特に父は厳しい人だったからね。

おじいさんの第一印象は最悪なもので、下町育ちで口の利き方は悪いし、私は大嫌いだった。


ある日、両親に連れられて両国にある小料理屋に連れられて行った。

そこの料理は一つ一つが繊細で愛情さえも感じされられた。

この料理を作ってる人はどんな人なんだろうっと思って厨房を覗くと男性の姿が見えた。

その人は、食材一つ一つに話しかけるように調理をしていた、私はその手に釘付けになっていた。


その、男性こそがあの時お見合いしたおじいさんでね。

今思えば、両親の作戦にまんまと騙されたんだろうけど、私たちはとんとん拍子に結婚まで話が進んだ。


結婚したのは、出会ってから半年のこと口の利き方は相変わらずだったけど、とても優しい人だったよ。

食材が余った時には、家でも料理を作ってくれた、私も一緒にお勝手に立ちながら、傍で料理をしてる手を見るのが好きだった。

人参を蝶々の形に切ったり、大根の桂剥きも上手だった。

料理人ならそんなの朝飯前なんだろうけどね。

おじいさんも満足気に「すごいだろう?」なんて自慢げに話していたな。


結婚してから10年くらい経った時かな?

夜中になっても帰って来ない日が続いた。

おじいさんは「接待だ、絶対だ!」って言ってたけど、その不安は的中した。

おじいさんは浮気してたんだよ。


でも、私は攻めもせず帰りを待ってた。

おじいさんは、私にとって1番大切な人で、おじいさんも同じように思ってるって信じたくてね。

いつか元に戻ってくると信じて…


結局、3ヶ月戻って来なかった。

ぽっかり穴が空いた私を励まそうと、妹が食事に誘ってくれた。

そこは、海の近くにある小さなお店で新鮮な魚料理が食べれる店だった。

魚の煮付け・刺身どれも美味しかった。


近くで食事をしてた子供が言った。

「人参さんの蝶々の形!可愛いね♡」


この、蝶々…………………

厨房から一人の男性が姿を現した。

その男性は私達の前でいきなり土下座をした。

「ごめん!悪かった!」

「しばらく家を空けて悪かった!」と何度も何度も謝っていた。


おじいさんだった…


「おじいさん、もういいですよ…一緒に帰りましょ?」

私は、土下座してまま頭をあげない、おじいさんの手を握り…

「また、この手で料理を作ってくれますか?」

おじいさんは小さくうなづいた。


それから、50年の月日が経ちおじいさんが病に倒れた。

医師からもうそんなに長くはないと聞いていた。

私は衰弱していくおじいさんの手を握りながら、思い出話を毎日のようにした。


「おじいさんが作った(魚)煮付け美味しかったです」

「おじいさんが捌いてお皿いっぱいの刺身美味しかったですね」

「おじいさん、また料理作ってくださいよ。」


か細い声でおじいさんは言った。

「いろいろありがとうな。お前と出逢えて良かった。


数日後、おじいさんは息を引き取った」

私は、シワシワになったおじいさんの手を握りながら…

「この手に惚れて、この手で作る料理が好きでした。」

「こちらこそ、あなたに出逢えて良かったありがとうございました。」


その時、おじいさんの目から1粒の涙が落ちた。


”おじいさん この手の温もり ずっと忘れませんよ”













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぬくもり 猫 ジャラミ @Chiguneko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ