正しい戦争の起こし方

曲 重寸 (まがり しげき)

Ep.1

 銃か何かが甲高い159dBの轟音で"ほろびのうた"を唄ったのがマインズには聞こえた。敵襲だ。マインズは秒速500センチメートルで起き上がり、体感その16倍の速度で床に落ちていた45口径拳銃のM1911を拾い、伏せながら構えて臨戦態勢を取る。


 暗闇の中、マインズは月明かりを頼りにあたりを確認すると、目覚まし時計がおそらくは”ほろびのうた”によって見るに堪えない無残な姿にへと変貌を遂げていた。自分もあの様になっていたかもしれなったと思ったのか、マインズのは縮み込まって震えていた。


 しかしこんな夜遅くに、しかも自宅にまでファンが押しかけて来るなんて熱心な奴もいたものだ。というか、俺ってそんなに有名人になってたのか。それならそれで鼻が高いとマインズは招かれざる客人に対して感心しつつ自分を自画自賛してしまった。そうして彼は30秒ほど、折角だからどのようなもてなしを自身のファンに対してするべきだろうかと考えてから、彼のファンもとい、招かれざる客人を十分に大歓迎する為の準備を始めた。


 まずはカーテンだ。そげきなどというマインズファンの一人としてはあるまじき行為であるこれを未然に防ぐために、カーテンは一番最初に、超スピードで、髪の毛一本すら外の不届き者に見せないように気を付けつつ閉める。


 それが終わったら、次にこの部屋の要塞化、もといパーティー会場の飾り付けだ。生憎にも今日は簡単なものしか用意出来なかったから、マインズファンの皆にはこれで我慢してもらうしかない。本当はもっと豪華で本格的な飾りトラップを用意したかったと思っているからなのだろう。マインズは本当に悔しそうだ。だがそうも言ってられない。彼のファンにはあり合わせで満足してもらうしかない。それなら、どの様な飾りトラップにするかと暫くの間考えた後に、マインズは少し張り切って電飾を作る事に決めた。


 作るものを決めたら、まずはドアに向かって小便をする。この時、小便がドアの向こう側にも行き渡るように気を付けながら用を足す。


 次に、コードに縦筋が入っているタイプの延長コードを見つける。そして、それのコードの部分の出力側をコンバットナイフで切ってからコードを縦筋に沿って二つに裂き、それぞれの被覆を剥がす。そうしたら、一方は小便の方に接続させ、もう一つの方は金属でできたドアノブの方に巻き付ける。


 最後に、延長コードの入力側をOutletコンセントと繋ぐ。これで客人がドアノブに触れた時にドアノブと小便が電極になって感電するようになる。これで電飾の完成だ。


 まだ時間がある、折角だから家具を使って現代アートバリケードを作ろうとマインズはベッドやタンス、楽器等を扉の前に積み上げてゆく。そうして出来た現代アートバリケードはかなり良い出来をしていた。特に、木製の家具が小便を吸って黄色くなっているのがアクセントとなって良い味を出している。もっとも、これの作者は何故かそれが気に食わないようだが。


 飾り付けが終わったら最後にショーの準備をする。演目はマインズ・キャンベル主演で”ジョン・ウィック”だ。キアヌ・リーヴスじゃないからと言って文句を垂れないでほしい。なぜなら今回は、友情出演でマインズファンの皆様が全力で殺陣のやられ役を演じてくれるからだ。その上、全編1テイク・ノーカット・ノーCGだ。それだけではない。全編において実弾を使ったアクションシーン!これは大ヒット間違いない。


 ショーの演目が決まったら次は小道具だ。マインズはいつの日にかベッドの収納にしまっておいたMk14セミオートライフル一丁と10発弾倉4本を取り出すと、四つのうちの一つをライフルに挿し、チャージングハンドルを引く。すると、ジャキーンという音がしてから薬室に弾丸が送られた。招かれざる客や、現代アートのアクセントに不機嫌なのは変わらなくとも、あいも変わらず良い音だとマインズは思った。


 マインズは最後にお友達警察を呼ぶ事にした。やはりパーティーはみんなで楽しむべきだと、マインズは電話で…電話……


 マインズは彼の手元に携帯電話がない事に気がついた。


 (マズイ、非常にマズイ。詰んだ。終わった。いや、まだ正確にはそうなっていないが、非常にマズイ。この部屋は楽器を置く為に防音にしてあるから、ここから大声で助けを求めても外に伝わらない。ヤバイヤバイ、本当にヤバイ。)


 こんな感じでマインズは一瞬焦って取り乱しそうになったが、マインドフルネスで心を落ち着かせる。




 マインドフルネスで心を落ち着かせたマインズは、夜が明けるまでこの部屋に引きこもって敵を待ち構える事にした。


 (ここは住宅街だから、夜さえ開ければ敵も撤収せざるを得ないだろう。そうしたらこっちのものだ。警察を呼んで事態を早急に収束させよう。そして、静かなる休暇を満喫するんだ!)

 そうして、マインズが自身を鼓舞してから2時間が経過した。


 誰も扉の前に来ないどころか、他に誰かがいる気配すらしない。今のマインズはまるで1984年3月4日産まれ、広島県江田島市出身のオフ会0人を達成した某超大物YouTuberの様。ウイースッ↑とか言う声も聞こえてきそうだ。こんなに時間が経っても誰も来ないから、マインズは更に冷静になった。更に冷静になれたマインズはよく見て、考えた。そして一つの結論にたどり着いた。


 (あ〜ぁ。バーゲン価格だったからって安い1911なんて買うんじゃなかった。お陰で死にかけた。まあ、不幸中の幸いってところか…。)


 彼は暴発した銃から放たれた弾丸が自分の頭を貫き、脳漿や血を部屋に撒き散らすのを想像してから少しぶるっと震えた。


 1つ目の理由は、マインズが自分は外から狙撃されかけた訳では無いという事に気がついたからだ。マインズの今いる部屋は楽器を置く為に防音になっていた。だからもし発砲が外で行われていたのなら、そもそも音は聞こえないだろう。そこから、発砲は室内で行われたと仮定し、M1911拳銃に取り付けられたフラッシュライトで薬莢を探した所、マインズは45ACP弾薬の薬莢を見つけた。これは恐らくマインズのM1911から放たれたものだろう。


 2つ目の理由は、マインズの持っているM1911という銃は、型によっては地面に落とす等の強い衝撃を与えた時に非常に暴発しやすいという性質を持っているからだ。勿論、全てのM1911がそうと言うわけでは無いが、特に古いものや、安いコピー品ではこれが起こりやすい。マインズのM1911は後者だから暴発が起こってもおかしくは無い。だからなんらかの拍子に床に落ちて暴発したそれが目覚まし時計を壊し、今に至るというわけだろう。その様にマインズは理解した。


 敵は居ないと理解したマインズは寝ることにした。だがそこにベッドの姿はない。何故ならマインズがそれを現代アートバリケードにへと変えてしまったからだ。しかも現代アートのふもとには黄色いアクセントが付いている。そしてなによりも、そこから漂って来るにおいがかなり臭い。だからマインズは床で寝るか、ベッドで寝るかを考えてから最後に寝ない事にした。


「コーケコッコー!!!」


 どこからとも無く鶏が、銃声ほどにうるさく鳴いた。


 そしてマインズは黙って来場者0人のパーティー会場を片付け始めた。彼の耳に、ただ鶏の鳴き声だけがが染み入った。

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正しい戦争の起こし方 曲 重寸 (まがり しげき) @musukataisa

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