第5話 いつのまにか俺のコミュ能力が向上しているようなんだが

「……よく受け入れてるよな。俺も、他の連中も」

 着の身着のままだった。だから俺達だけが、元の世界の格好をしている。

「……?」

 だが、何か違和感がある。いや、確かにこっちの世界に来る前に着ていた服ではある。それは間違いない。だけど、何かがひっかかる。それが何か……うーん、もうちょっと考えれば気づけそうではあるけれど……。

 コンコンコンッ

 と、その時ドアをノックする音が響いて、俺は考えを中断した。

「はいはいはーい」

 俺はのっそりとベッドから起き上がると、靴を履き、ふかふかの絨毯の上をぱたぱたと小走りする。なんというか、部屋の中で靴を履いたままというのもまた違和感がすごい。海外では普通なのかもしれないけど、さすがにベッドにあがるときは脱ぐもんだよね?

「よ、おにーさん」

 そこにいたのはギャル風の女の子だった。ギャルと言ってもゴリゴリのギャルってわけじゃなく、ちょっとおしゃれな茶髪の子ってとこだ。俺みたいなゴリッゴリの陰キャからすれば、化粧即ギャル即ビッチみたいな偏見がある。いけないことだとは思っています。

「ごめんごめん待たせちゃって……って、あれ?」

 おかしい。俺ともあろうものが初対面のギャル、それもとびきり可愛い子相手に噛まないで普通に話せてる……だと?

「ん、どうかした?」

「い、いや……何でもない」

 サイドアップにしている髪と同じ方向に首を傾げる彼女に、俺は慌てて手を振りながら愛想笑いを浮かべた。うーむ、こんな芸当できるのは陽キャだけだと思っていたが……案外やればできるもんだな。

「ふーん、ならいいけど」

「で、何か用?」

 あーそうそうっといった感じで彼女は続けた。

「これも何かの縁だからさ、みんなで居間に集まって自己紹介でもしようよ」

「ああ……それもそうだな。うん、わかった」

「そか。じゃ、うちは残りの子呼んでくるから、先行ってて」

「俺も手伝うよ」

「いいっていいって、これぐらい」

「でも……」

「あー、わかった」

 にやりと彼女が笑う。

「な、なんだよ?」

「さてはもう一人の女子ともう何かあったな~?さっきのもあの子が呼びにきたと思ったんだろ~?こりゃうちなんぞがしゃしゃりでて悪うござんした」

「ち、違うってそんなんじゃ!?」

 何かあるどころかまだ正面からよく見てないし!狙い目かどうかも判断してないし!

「本当か~?」

「本当だって、本当!」

「まだ呼んでないのあの子だけなんだけど、どうするお兄さん~?」

 なんという真正面から堂々とじろじろ見つめるチャンス!ではあるのだが……

「……先に行って待ってます」

 勿論そんなことをする根性などあるはずもなく、すごすごと諦める道を選ぶ俺。

「あはは!でもチャンスはまだまだあるだろうし、また後で頑張んな~」

 彼女は手を振りながらぱたぱたと去り行く彼女。俺は頭をぽりぽりと掻きながら階段を降り、一階へと向かう。

 居間に行くと、既に残りの男二人が待っていた。さっき俺の隣にいた方の男が手をあげてくる。もう一人は本を読んでいたが、ちらりとこちらを一瞥だけしてまた読書に戻った。

「……その本、持ってきたのか?」

 俺が話しかけるとそいつはこっちをまた見た、やっぱり眼鏡をクイッとあげながら。

「これはそこにあった本ですよ」

「読めるのか?」

「今のところは、まだ」

「そりゃそうだよな」

「ただアルファベットのような文字を使っていますが、文法は日本語に近いように思えます。ひょっとしたらローマ字のような使われ方をしているのかもしれません」

「すごいな、そんなことわかるのか」

「まだ確証はありませんが……」

 彼はそう言いながら読書へと戻っていった。うーむ、それにしても俺、こんなに積極的だったっけ?相手が男子とはいえ初対面には変わりないんだぞ?

「はいはい男子たち~?女子抜きで盛り上がらない~」

 と、声が。さっきのギャルが戻ってきた。ショートカット黒髪美女をつれて。

「女子抜きでどうやって盛り上がれっての?待ち遠しかったよ」

 眼鏡をかけてない方の男が冗談めかして言ってる。やっぱこいつ、陰キャじゃねーだろ。

「あはは、やっぱそうだよね。それじゃ自己紹介と行きましょーか。じゃあまず言い出しっぺのうちから。うちはリオ、オオハラリオ。十九歳で、フリーターやってまーす。あ、やってました、かな?特技はダンス。苦手なものはムシ。よろしくね~」

「ダンスって、社交ダンスですか?」

 メガネ男子が尋ねる。こいつも同年代の女子相手に物怖じしないな、見かけによらずリア充か?

「そんなわけないでしょ、この格好で。フツーにヒップホップとかだから」

「ああ、そうですか……」

「じゃ、ついでだから、次君ね」

 ギャル改めリオが眼鏡の彼に振った。

「……アライタカシ。十七歳の高校二年生です。よろしく」

 タカシと名乗った眼鏡君は面倒くさそうに答える。それにしても十七か、本来異世界に来るのは彼ぐらいの年齢が定番と言えば定番だから、もしこの中に主人公格がいるとすればそれは彼なのかもしれない。キャラもなんか、やれやれ系っぽいし。

「……それだけ?えっと、タカシ」

「ええ。別にこれといって得意なものも、苦手なものもありませんから。強いて言うならば、人と群れることが苦手でしょうか」

 おー、中二病も発病してそうだから益々それっぽいぞ。

「あ、あはは……じゃあ、次、そっちのお兄さんいってみよっか」

 困った表情を浮かべながら、矛先をガタイのいい彼に振ったリオちゃん。

「オレか?オレはタイガ、イトウタイガだ。二十一歳で、自動車整備工場で働いている。だから特技は車の整備なんだけど……ここじゃあ無意味だよな」

「まだわかんねーだろ。機械の出てくる異世界ものだって、別に珍しいものじゃないし」

 タイガにそう反論したのは俺……うーむうーむ、ここでの俺はどうしてこうも積極的に話しかけるんだ?

「まあそうかもしれねーけど、こっち来てまで油まみれになりたくねーよな。それで無双できるってんなら話は別だけど」

「ちょっと年上だけどタイガって呼んで良いよね?」

 そう尋ねてくるリオに、タイガはにかっと笑いかけた。

「当然!みんなもそう呼んでくれ。というわけで、次あんたの番な」

 何が「というわけで」だよとか心の中で突っ込みつつも、俺も自己紹介を始めた。

「……名前はワダアキヒロ、フリーター。残念ながら特技はなし。苦手なものはいっぱいあり過ぎて言い切れない」

「歳は?」

 タイガの質問に意味深気に俺は首を振る。

「聞くな。世の中には聞かない方が幸せなことがある」

「……わかったよ、センパイ」

「決めつけんな!コウハイ!」

「あはは、アキヒロさん。笑える」

「笑わないで!?そして俺にだけさん付けはやめてなんか傷つくから!?」

「はいはいわかったわかった。じゃあ、アキって呼んでいい?」

 リオは一しきり笑った後そう確認してきた。

「お……おう」

 え、何?いきなりのニックネーム!?そんな呼び方、親にしか言われた事ないのに!?でも嬉しい!

「おっけ。なら君はアキ。異世界に年齢は関係なしってことで。それでは満を持してもう一人の女の子、はりきってどうぞ~」

「……サカガミナナコ。アラサーの独身。趣味はネットやゲームや読書。特技は空想夢想妄想、苦手なものは現実。よろしく」

「「「「……」」」」

 ほんのちょっとだけ、場が凍てついた。正直言って、まさかそんな言葉が出てくるとは思いもしなかった。全然アラサーには見えないし、とてもじゃないが現実に苦労しているようには見えないのに……

「……なにか?」

「「「「い、いえ!?何も!?」」」」

 冷たい目を向けられ、残りの全員が全力で手と頭をぶんぶんと振った。

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念願の異世界に転移されたと思ったら勝手にまき餌にされたんだが 本織八栄 @motooriyasaka

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