第315話 エピローグ

 王国と帝国との戦争終結から1年半ほどが過ぎた頃。


 セーバリア学園都市国が建国され、セーバリア学園も正式に開校した。


 講師の大半はセーバ校からの出向になるが、授業自体は問題なく行われている。



「……したがって、この闇魔法を呪文に組み込むことで、理論上全ての魔法を極々わずかな魔力で発動させることができるわけです。

 ただし、それを現実に実行するのは容易ではありません。

 なぜか分かりますか?」


「魔力操作が難しいからでしょうか?」



 一人の生徒が答える。



「ええ、それも勿論あります。

 アメリア学園長が生み出した闇魔法による魔法増幅法は、非常に繊細な魔力操作を必要とします。

 それは例えるなら、水の入った容器を傾けて、たった一滴の水を床の狙った場所に落とすような、そんな高度で繊細な魔力操作です。

 特にこれを、魔力量の多い者が行おうとすれば、その難易度は跳ね上がります。

 正直なところ、この魔法増幅法はアメリア学園長のように魔力量の少ない者でなければ使いこなせない技術でしょう」



 それを聞いて、魔力量の多い一部の生徒が落胆する。


 逆に、魔力量の少ない生徒たちは嬉しそうだ。



「先生、それはつまり、魔力量の少ない者の方が魔力量の多い者よりも優れているということでしょうか?」



 だが、薄い髪色の少し好戦的な感じの生徒がした質問は、その場で教師によって否定される。



「それは違います。

 確かに魔力量の少ない者の方が繊細な魔力操作は得意ですが、少ない魔力で大きな効果を得ようとすれば、その分魔力運用は複雑になりますし、自分の魔力量を越える魔法を扱うのは、元々多くの魔力を持っている者と比べて難しくなります。

 結局のところ、どちらも一長一短で優劣などないということです」



 授業を受ける者の特徴はばらばらで、全く共通点が見られない。


 質素な服の者、高級そうな衣装に身を包む者と、服装もばらばら。


 着ている服のデザインからみて、出身国もばらばら。


 そして、同じ教室で学ぶ生徒たちの髪の色から判断して、何より魔力量にかなりの差が見られる。


 これだけ魔力量に差がある人間が、同じ魔法に関する授業を受けている。


 そもそも、少し前までの常識で考えるなら、魔力量とは概ね社会的地位を表すもので、魔力に乏しい庶民と魔力に優れた貴族が同じ空間にいるだけでも異様といえる。


 そして、そんなあり得ない授業風景を後ろで見学している3人は、魔法王国の国王、商業連邦の最高議会議長、そして、倭国の帝。


 昨日までここセーバリアで開かれていた国際会議が終わり、今はセーバリア学園の授業参観中。


 ちなみに、昨日までここにいる3人と一緒に会議に参加していた帝国女帝マリアーヌは、学園の他の授業に出席しているためここにはいない。



「本当に、この光景を見ていると、世界の変化というものを思い知らされるな」



 そう言葉を漏らすのは、魔法王国国王。


 つい最近まで魔力至上主義を掲げ、生まれ持っての魔力量による身分制度に凝り固まっていた国は、その方針を大幅に変え、魔力量以外の能力も等しく評価する国造りに尽力している。


 だが、その顔色は悪い。


 日に日に密になる各国との関係や技術の発展に伴い、なかば必要に迫られての大改革ではある。


 それでも、その道のりが平易であるはずもなく、帝国とのあの戦争終結以降、碌に寝る暇もない日々が続いている。



「それもこれも、全てはお前さんのところの姪御殿アメリアの仕業じゃろう?

 魔力が少ないからと粗雑な扱いをしておるから、反動であんな娘が育つことになる。

 大体、あの一族を目の届かないところに放置していた時点で、わしに言わせれば自業自得じゃよ」



 そう言い放つのは、商業連邦最高議長。


 その顔にも疲れが滲んでいる。


 新貨幣の発行に商業ギルドの独立、ダルーガ領の売却と、実は魔法王国国王以上に問題が山積みだった議長様。


 新貨幣の発行に必要なきんは帝国から調達できたし、帝国の鉄道敷設やセーバリア学園都市国の建国で、連邦は空前の好景気に見舞われている。


 商業ギルドこそ手放すことになったが、代わりに連邦商人の商圏は大幅に拡大し、連邦に本店を構える多くの商人が、帝国や学園都市に次々に進出している。


 議長様自身、儲かってはいるのだ、儲かっては……。


 ただ、そんな金勘定がどうでもよくなるくらいに忙しすぎて、つい他国の王に当たってしまっただけである。


 特に他意はない。



「まあまあ、議長殿も落ち着かれよ。

 アメリア殿のしたこと自体は間違いではないのだ。

 確かにとんでなく影響は大きいが、必要なことではあるのだ……」



 どこか遠くを見つめる目でそう言うのは倭国帝。


 倭国皇家の力の象徴でもあった御神刀と雷撃魔法。


 今この2つは、急激に倭国の民の間に広まりつつある。


 アメリアの尽力で発掘量が増えた殺生石リアル鉱石


 当初、これを鍛造して御神刀の本数を増やし、キョウの防衛を強化する計画であった。


 あくまでも、殺生石の存在は秘匿する方向で。


 それが、帝国と王国の戦争で、殺生石リアル鉱石の存在が一気に知れ渡ってしまうことになる。


 おまけに、アメリアが教えた鋳造技術以上に高度な鋳造技術が、既に帝国では開発されているという。


 工業技術を売りにする倭国としては、戦争云々を抜きにしても、この状況は看過できない。


 鉄道敷設の協力と引き換えに鋳造技術を学ぶべく、多くの技術者たちを帝国へ派遣することとなる。


 そして、殺生石の利用は、皇家のみが独占できるような秘匿技術ではなくなった。


 更にもう一つ。


 今のセーバリア学園では、石板を使わない魔法の習得方法が指導されている。


 まだ自由に魔法の呪文を発音できるような他国からの生徒はいないが、学園で専門の教師が指導することで、世界中にあるほぼ全ての魔法をこの学園では学べるらしい。


 その中には、アズマ山の神殿にのみ存在する“雷撃魔法”も含まれる。


 倭国帝のみが使える神の雷は、もう帝の地位を象徴する特別な魔法でもなんでもない。


 誰にでも使える、ただの電撃魔法だ。


 おまけに、この学園で教えている“科学知識”によって、“雷”の正体は“電気”というエネルギーで、これを利用することで物を動かしたり熱を生み出したりと、様々なことができると世界中に公表されてしまった。


 この情報にもっとも反応したのは倭国の技術者で、今、倭国内では電気を利用した新しい魔道具の開発に余念がない。


 新しい技術が広まるのは結構なことだが、雷撃魔法の神秘性とかは欠片も無くなってしまった。


 その先頭に立って、女帝殿と一緒に喜々として研究に取り組んでいるのが我が娘タキリなのだから……。


 王国や連邦ほどではないにしても、倭国の方も悩みは尽きないらしい。



「「「はぁ〜〜〜」」」



 3人から揃って深い溜め息が漏れる。


 この1年半ほどの世界の変化と鉄道、通信の発展で、各国の国主が話し合う機会は増え、今ではここにいる3人に女帝、アメリア学園長を含めて、気の置けない仲にはなっているのだ。


 その中でも、今いる男3人は特に仲が良く、“アメリア被害者の会”なる非公式クラブを作って、密かな交流を図っているらしい。



「で、学園長殿の姿を今日はまだ見ておらんのだが……?」


学園長アメリアならもういませんよ。

 なんでも、帝国にある珍しい遺跡の話を女帝殿から聞いたそうで……。

 昨日の会議が終わった後すぐ出かけたそうで、親子水入らずの晩餐を期待していた宰相兄上が騒いでいました」


「ぬぅ、学園長殿には先日発表された新しい魔道具について、色々と問いただしたかったのだが……。

 いや、昨日の今日なら、まだ途中の駅で捕まえることも……」


「無理であろうな……。

 昨日の夜からうちの娘タキリの姿も見かけぬ。

 報告では、タキリのバイクもなくなっているそうだ。

 移動がバイクなら、通信では捕まえられぬよ」



 新たな研究を通して交流を深める女性陣と、それに振り回される男性陣。


 総じて、世界は平和である。



(おわり)



 ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

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転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜 Ryoko @Ryo_ko

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