抱擁

深見萩緒

抱擁


 私を抱きしめて気が付いた。

 痩せた身体にも、存外肉が詰まっている。

 肉の間を縫うように、神経と血管が絡まっている。

 それらはときどき不具合を起こし、私につらい頭痛をもたらす。

 すべては私だということ。


 私の身体はタンパク質。

 私の思考は電気信号。

 私はひとつの有機体。

 壁を這う蜘蛛と、排水溝のバイオフイルムと、ハナムグリと私。

 すべては同一だということ。

 それでも、私は私だということ。


 押入れの私。

 机の下の私。

 窓際の私。

 すべては私だということ。

 哀しいほどに私だということ。


 始まりの雷撃に打たれ、分化を始めた瞬間から

 私たちはおのおの薄い脂質二重膜層に隔てられ

 どうしようもなくひとりぼっちでいる。

 だから私は私を抱きしめる。

 私のそばには私がおり、私のそばには私しかいない。

 私を抱きしめて気が付いた。

 私が私であることが、こんなにも寂しいのだということ。

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抱擁 深見萩緒 @miscanthus_nogi

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