第7話
参ノ宮で
看板が一応あった。読みは……ルクレール(Leclerc)だろうか。
しかし立地で言うとかなり入り組んだ先に入口があり、正直商売する気は無いんじゃないかと思ったレベルだ。隠れ家カフェ……とは言うがアレは外装や内装などの雰囲気の事を言うのであって本当に隠すのではない。
入店しても店員の姿は何処にもなかった。さらに掛かっていた鍵を牡丹が正規の手段で解除したので、恐らく彼女の所有している物なんだろう……と判断。
と言うより、実際入るや否やずこずことカウンターの中に入り、コーヒーを淹れ始めたものだからそうじゃない方が考えづらい。
この辺りはあまり重要ではないので後で会話に困った時にでも聞くとしよう。
「砂糖? 塩? 悪いがガムシロップは無いよ。」
「砂糖とミルクで……塩って?」
「スイカに塩を少しかけるようなモノで、甘くはならないが苦みがマイルドになる。余計な甘みが入らないオススメの飲み方さ……後で一口あげよう。昔は老化の予防になるなんて噂もあったが……まあ、
「なるほど。」
コーヒーはステンレス製のカップに淹れられて渡された。確かステンレスは熱伝導率が低いからマグカップ等の用途に使われることが多いらしいが、確かに目の前に置かれたカップを触ってもそこまで熱は感じなかった。
正直に言うとコーヒーは苦手だ。
併せて出された砂糖とミルクはスティックシュガーとコーヒーフレッシュのようなものではなく、専用の容器とミルクポットから注ぎ入れる。
長らく喫茶店ではその二つで味の調整をしていたため、味の調整の感覚が掴めないが……まあ、よほど間違えない限り一杯程度ならどうにかなるだろう。
「さて、何処から話した物か……スフィラの事だから何も話してないような気がするが、予備知識はどの程度ある? 何を知ってるか、だけで良いから言ってほしい。」
「何を知ってると聞かれても……本当に何も聞かされてないですよ。死んだ魂は働く事があって、僕はその中でも死神に当たる仕事をやらされるらしい。 ……ぐらいしか。」
「私と同じか。それならやりやすい。……いやなに、死神を管理する存在にも色々居て、スフィラはその中でも結構不器用なタイプなんだよ。あれでいて見た目通り可愛い所は結構多いんだがね。彼女も私たちと同じく新人なのさ。私たちと違ってヒトではなく正真正銘の神だから新神とでも言うべきか。」
「ああ、シンカミでシンジンね……。」
スプーンでかき混ぜると色が黒色からミルクココア色に変わる。いつもより多くミルクが入ったためか、若干色が薄い。
まあこの色であれば苦みはかなりマシになっているであろうと判断し、いただきますと一言言ってから一口飲む。
……こういう時のスプーンって何処に置くのが正解なんだろうか、とりあえず紙ナプキンを折りたたんでスプーンの背を上に向けて置く。
「ああ、おかわりは幾らでも用意できるからそこは気にしないでくれよ。それで話しておいた方が良いであろうものは幾つかある。死神の背負ってもの、有為君が刈り取る相手、……他にも分からない事があれば聞いて欲しいとは思うんだが、まあ最初は何が分からないか分からない物だ。都度聞いてくれ。」
「ありがとうございます。……背負ったものって?」
選択肢に対しどっちでもいい、どれでもいい等の『選択を相手に任せる』タイプの回答は相手を一番困らせる事を知っているため後者を選んだ。
刈り取る命を、ニアイコール魂を。奪う相手を知るのを後回しにしたのは知りたくないという思い故だろうか。
「背負ったものか……一言で言うのは凄く簡単なんだ。というか一文字で表せる。ズバリ『
「業……ですか。」
「そう、業。罪を生み出した存在に科せられるモノ。これは私なりに解釈した結果だが、呪いと言った方が人間には分かりやすいかもしれない。」
「罪を生み出した存在? 罪人とは言わないんですか?」
「言わない。なぜなら別の存在だからだ。厳密には”対になる存在”となっているがね。対となるというからには密接な関係にあるのだが、実際罪人の存在は私たちにとって重要な物となる。なんせ刈り取る対象だからね。」
「なるほど……業人がそのまま刈り取る対象になると。僕の場合のお相手さんは誰なんですか?」
「知らない。と、言うよりまだ分からないだな。しかし業と言うからには必ず因縁がある。今からそれを探る訳だ。勿論私がね。」
死を束ねた花 米良真琴 @grimnate13
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