第4廻-GS犯罪シンジケート!エモータルファミリー!

Chapter13-ANNA/闇の少女

【歯車廻side】




「私の部下が世話になったようだな」


「また性懲りも無く邪魔をしにきたのね」


「邪魔? 違うな、私は貴様を殺しにきた。作り物の心しか持たない奴にいくら懲役を課しても罰にはならんだろう?」


「言うじゃない、人間の……癖にッ!」


『覇ァァァァァァ!』


 蛇凶は腕を蛇に変え、龍舞さんを攻撃するもドラゴナイトブレイヴがそれを斬り落とした。


「貴様の言うとおり私はただの人間だ。貴様ギアボーグのような次元を超越した脅威を前に人一人の力はあまりにも弱過ぎる。しかし弱いからこそ辿りつける強さもある」


SOULソウル LINKリンク!』


 青く輝く創成因子ホビアニウムの灯った右手が龍舞のギアシューターのソウルギアに触れた途端ギアシューターからガイダンスボイスが流れる。


「ソウルリンク……人間とギアソルジャーの絆の力……つくづく目障りなのよ! 人間も! 人間の味方をするギアソルジャーも!」


「そんなこと私の知ったことか。悪いが今夜の金ローは魔女宅なんだ、ルージュの伝言が流れるまでには帰らせてもらうぞ」


「ギアボロス!」


 ギアボロスはその身体を大蛇に変形させ、龍舞さんに襲いかかった。


 獲物の体を噛み砕かんと迫る大蛇は口を開け毒の滴る牙を龍舞さんに突き立て、そのまま壁目掛けて突進した。


 衝撃が壁は大きくめり込み、破壊された。

 龍舞さんもろとも。

 

「龍舞さん!」


 あぁ……もうダメだ。

 龍舞さんまでもが蛇凶に殺されてしまった。


「ブレイヴ! なんで龍舞さんのカバーに入らなかった!?」


『龍舞が望まなかったからじゃ。ソウルリンク中は言葉無くとも思いが伝わる。それに案ずることはない』


「え?」


『彼奴はあの程度じゃ倒れはせん、もし龍舞の思いを汲むつもりなら片時も龍舞あやつから目を離してはならん』


『ソウルリンクはコマンダーとギアソルジャーが互いに影響し合うことにより生まれる魂の力。その力によってパワーアップするのはギアソルジャーだけではないのじゃよ』


 龍舞さんは言っていた。

 ギアソルジャーの後ろで指示を出すだけの存在をコマンダーとは呼ばない……と。

 そこから導き出される結論は。


「まさか……コマンダーも同じように……ッ!?」


『そうだ、ソウルリンクはコマンダーにも人地を超えた力を与える奇跡の力じゃ。お主がG-FORCEジーフォースに入るかは別にして護身のために知っておくのもいいかもしれん』


『ウウウ……ググ……』


「ギアボロス!」


 突如ギアボロスはくごもった唸り声をあげて苦しみ出し、しばらくするとその首が切り落とされ地面に落ちた。


「やれやれ……隊服は新調せねばならんな」


「りょ、龍舞さん!」


『信じられん……生身の人間がギアソルジャーを攻撃を受け切っただと?』


 隊服の一部が千切れているものの、目立った怪我もなく涼しい顔をしている龍舞さんに俺もフェニックスギアも驚きを隠せない。


『ググ……』


 切り落とされた大蛇の首はギアボロスの姿となり、欠損した機体が再生していく。

「ギアボロス……やはりギアデウスが作り出したレギオニクスの進化体か。ギアボーグと同様の自己修復機能が備わっているのは厄介だが、見たところ創成因子ホビアニウム不足で再生がおぼつかないようだ。アカメに相当追い詰められたらしいな」


 俺と同様にフェニックスギアも驚いていた。

 当たり前だ、人間よりもギアソルジャーの方が何倍も力がある。

 なのに龍舞さんはその力量差もものともしていない。


 これじゃどっちが化け物か分からない。

 一体なんなんだこの人は。


「あー歯車廻君」


 呆気に取られていた俺に、龍舞さんは何事も無かったように話しかける。


「さっきも言った通り私はただの人間だ。実は地球に送り込まれた戦闘民族なんて設定もないから安心したまえ」


「説得力ないんすけど……」


「ドラゴナイトブレイヴ、固有ユニット解放!」


『覇ァァァァァァ!』


 ドラゴナイトブレイヴは右肩の装甲に装着されたアルファベットのY字型のアタッチメントを握り、その握り手のの部分を叩くように押した。


 すると創成因子ホビアニウムを纏った青白い刀身が出現した。


『ワイドガリバー!』


「こ、これがドラゴナイトブレイヴの固有ユニット……」


 光の刃を備えた剣……なんて高密度の創成因子ホビアニウムなんだ。


 俺達と戦った時の数倍……いや数十倍はあるぞ。


『思い返してみれば、あの男は我々との手合わせの時さえ固有ユニットを解放せずに完勝して見せた』   


 やっぱりあの時は実力を隠していたんだ。


「じゃあこれが龍舞さんの全力……?」


『全力とも思えん……まったく底の計り知れぬ男だ』


 これがG-FORCEの隊長クラスの実力か。



「人間はギアソルジャーに使役されるべき存在! 支配し! 縛りつけ! 踏み躙る! それが人間とギアソルジャーの真の姿! 絆の力なんて私は絶対認めない!」


「いいから来い。クソアニメみたいなくだらん話の引き伸ばしはテンポを削ぐだけだ」


「ッ!」


 その場に立っているだけで足が竦むほどプレッシャーを放たれた。

 蛇凶は完全にキレている。

 そしてその矛先は全て龍舞さんに向いている。

 何故だ、何故そこまで龍舞さんに対して憎悪を抱いている?

 さっき出会った時の口ぶりからして初対面同士ではないのか?


カチッ。


FINISHフィニッシュ OVERオーバー!』


天多蛇景あまたのじゃっけい


 ギアボロスは再び大蛇の姿となり、自らの尻尾に噛みつき円を形成した。


 その姿は神話に語り継がれるウロボロスの姿に良く似ていた。


 円となったまま回転し、その鱗から次々と蛇が形成された。そして生み出した蛇が分裂し、また新しい蛇を形成していく。


 蛇が召喚され続ける終わりの無い無限の連鎖。


 気づいた時には視界を埋め尽くす程の数となっていた。


「アハハハハ! 死ねェ! 柊龍舞ァ!」


 夥しく大量に溢れかえる蛇の群れが、まるでスコールのように降り注いだ。


「必殺技発動」


FINISHフィニッシュ OVERオーバー!』


 俺のギアシューターに内蔵されている創成因子ホビアニウムレーダーは既に感知可能な最大値を大きく振り切っており正常に作動していなかった。


 この蛇の数だ。チョコとアカメさんを抱えながら逃げきることは絶対出来ない。


 ならば俺も出来る限りのことをしてやる!


「フェニックスギア! 俺達も必殺技だ!」


『了解! ……なっ!?』


 フェニックスギアがギアライフルを構えようとした所、足元にソルジャーナイフが深く突き刺さった。


『助太刀は不用……お主達はただ黙って見物しておれ』


『バカ言え! この量だぞ! いくらお前達でも……』


無双龍機斬むそうりゅうきざん!」


『剣の刀身が変形し巨大化した!?』


「あ、あれがワイドガリバーの能力か」


 必殺技発動の宣言と同時に創成因子の出力が上がり剣の形状が変化した。


 ワイドガリバーは創成因子ホビアニウムの調節で自由に刀身の長さや形を自由に変化させることが出来る変幻自在の剣というわけだ。


『覇ァァァァァァ!』


「うっ、眩し……」


 ドラゴナイトブレイヴがワイドガリバーを振り抜いた時、激しい光が放たれ俺は目を瞑った。


 そして光が収まった数秒後、再び目を開けると……


「なっ!?」


 視界を埋め尽くしていた蛇は全て灰化し消滅し、蛇凶とギアボロスは……。


「グッ……グハ……」


『ギ……ギギ……』


 ワイドガリバーによってソウルギアごと串刺しになっていた。


「一瞬で……蛇凶を倒した……」


『有り得ない……なんてレベルだ……』


「フェニックスギア、お前何があったのか見てたのか?」


『最初の一振り以外分からなかった……最初の一振りで大量の蛇が死滅してその後はよくわからないうちにギアボロスと蛇凶が串刺しになっていたんだ……』


 いくら剣の形状が変わるっていってもあの大群を一瞬で薙ぎ払って蛇凶達にトドメを刺したのか。


『廻、俺たちが今までやってたソルジャーゲームなんてただのお遊びだったんだよ』


「……」


 認めるしかない。

 世界にはまだまだ桁違いに強いコマンダーがいることも。

 俺達はまだその領域に足を踏み入れたばかりのひよっこってことも。


「柊ィ……龍舞ァ……」


「確かにソウルギアごと貫いたはずだが……蛇って奴はなんでこうしぶといんだろうな」


「お前だけは絶対殺す……お前だけは……」


「無理だ。それに貴様はいたずらに人を殺し過ぎた。その魂をもってあがなえ」


 蛇凶の身体が指先から灰化している。

 どうやら倒した……らしい。

 これで俺も蛇凶から狙われなくて済む。

 そしてトドメを刺そうとしたその時、ドラゴナイトブレイヴが何かに気づいて叫んだ。


『!? 龍舞! あれを見ろ!』


「えっ?」


 ドラゴナイトブレイヴの指し示した方向には子供がいた。

 今の今までずっと気づかなかった。

 騒動から逃げ遅れて今まで隠れていたのか。

 子供はただじっとハイライトを失った黒く濁った眼でこちらを見ていた。


 この子……どうみても普通じゃない。


「……」


 背格好は子供だ、多分俺よりも年下だろう。

 ボロボロのみすぼらしい黒いローブを羽織り、肌は全身包帯が巻かれその正確な容姿が分からない。露出しているのは光の宿っていない瞳と口だけ。

 そして更に奇怪だったのはその口に咥えられた『哀』と彫られたおしゃぶりだった。


 おしゃぶりは蛇凶の嵌めていた指輪のデザインに酷似している。


 それにこの子から感じる妙な気配……上手く説明出来ないけど蛇凶アイツと同じものだ。


 蛇凶は一人ではなく組織で動いていると龍舞さんは言っていた。


 まさかあいつは蛇凶の…………仲間!?


 子供はローブの中から黒い素体のギアソルジャーを取り出した。

 ギアソルジャーはやがて黒い獣の姿に変化した。


「……」  


「この特殊な創成因子ホビアニウム反応と黒いレギオニクス……貴様もギアボーグで間違いないな?」


 子供は龍舞さんの質問には答えない。光の宿らぬ瞳はまっすぐに蛇凶を見つめていた。


闇狃あんな……なんでアナタがここに……」


 蛇凶は今あの子供のことを闇狃あんなと呼んだ。

 それがあの子供の名前か。

 同時に蛇凶の仲間である仮説がより濃厚になった。

 あんな小さな子でも……ギアボーグなのか?


「……」


 闇狃あんなはおしゃぶりを取るとリング部分を自身の小指に嵌めた。するとおしゃぶりは獣の意匠の施されたギアシューターに変化した。



 ガチャン。

GEARBEROSギアベロス SETセット ONオン!』


「アハァ……♪ 助けに来タヨ、お姉チャンッッ!」


『コマンダーもギアソルジャーもアストラルネットに登録が無い……どんな能力があるか予想つかんぞ』


「……やるしかあるまい」


 な、何だ今の声……。

 今……闇狃あんなの声に色々な大勢の人の声が混じったように聞こえたぞ。


『嘘だろ……一体なんなんだアイツは……』


「どうしたフェニックスギア?」


『おしゃぶりをしていた時は気づかなかったがあの闇狃あんなとかいう子供の腹の中に大量の人間の魂の反応を感じる……それも10や20どころの話じゃない……数え切れない程大量の魂が今も生きた状態のままひしめき合っている』


「ッ!?」


『動くな! ギアボーグ!』


『……』


 パン!


 敵のギアソルジャーは祈るように両手を合わせると、その指先をドラゴナイトブレイヴに向けるように動かした後、両手を開いた。


「バァッッ!」


『むっ!?』


「………………えっ?」


 一体……何が起きた。

 どういうことだよこれ。


「ドラゴナイトブレイヴが消えた!?』


 あのギアベロスとかいうギアソルジャーが両手を開いた瞬間、ドラゴナイトブレイヴが妙な黒いモヤみたいなものに包まれたと思ったらそのまま姿が消えた。跡形もなく一瞬で。


「…………かなり厄介な能力だなこれは」


「あっ、龍舞さん後ろ!」


 音もなく闇狃あんなは龍舞さんの背後に移動しており、先程のギアベロス同様合わせた両手を龍舞さんに向けていた。


 「原理はだいたい分かった、次元の範囲内だ!」


 龍舞さんは自身に向けられた子供の両手を右足で蹴り弾くと頭に目掛けて拳を振り抜いた。


 しかし闇狃あんなに拳が当たる前に身体が黒いモヤに包まれ消え、次の瞬間には龍舞さんの頭上に移動していた。


 既に両手の先は龍舞さんに向けられている。


「バァッッ!」


「ッ!?」


「りょ、龍舞さん!」


 合わせられた両手が開くとドラゴナイトブレイヴと同様に消滅した。


 なんてことだドラゴナイトブレイヴに続いて今度は龍舞さんまでやられてしまった。


「蛇凶オ姉ちゃん……モウ死んじゃうノ?」


「聞いてないわ……あなたはギアデウス復活の準備が整うまで眠っているはずなのに……ちょ……いや! いやいやいや!」


「死なないで蛇凶オ姉ちゃん……生キテ……闇狃あんなの中デずっと……」


「嫌よ! あんな地獄みたいな所に入るなんて!」


「スゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」


「ギャァァァァァァァァ!」


 悲鳴を上げ暴れる蛇凶のことを無視し闇狃あんなは蛇凶を丸ごと吸い込んでしまった。まるでそばをすするようにズルズルと音を立てて。


「これで……ミンナ一緒……さみしくない♪」


 何をしてるんだ?

 仲間を喰っているのか?

 一体……なんのために?

 さみしくない?

 一体何を言ってるんだ?


「ヒィ……ッ!」

 あまりに凄惨でショッキングな光景に思わず悲鳴を上げてしまった。


 悲鳴を上げたことで闇狃あんながこちらに振り向いた。

 闇狃の瞳は不気味な程真っ黒だった。

 間近で見るとさらにそれが分かる。

 底知れぬ穴を覗いているような寒気を感じるほどに。

 

「アハァ……♪」


 闇のように黒く染まった瞳に光が宿った。


「お前……美味ソウナ魂だなァ♪ コンナニ美味そうな魂ノ人間闇狃あんな初めてだ♪ アハァ♪ いひィ♪ ナンデ? なんで? 闇狃あんなイミ分カンナイ!」


「あぁ……あぁ……」


 逃げなきゃ……。


「デモォ蛇凶オ姉ちゃんのシルシ付いてる……食ベタラオ姉ちゃん哀シムカナァ……それはヤダナァ……アハァ……お腹空イタナァ……えへへへ♡」

「……」

 ここから逃げなきゃ……。

 出なきゃ喰われるぞ。

 なのに身体が金縛りにあったみたいに動かない。

 胸が熱い……また俺の心の恐怖心に体内にある蛇凶の創成因子ホビアニウムが反応しているのか。


『廻……全力でここから逃げろ』 


「な、何言ってんだ! それにお前はどうする!? チョコやアカメさんだって置き去りに出来るか……え? うわぁぁぁぁ!」


 俺が言い終わる前にフェニックスギアは俺を掴み上げてぶん投げた。


『うるさい! とっとと行けぇ!』


 「お前だけで勝てるわけないだろ!」

 龍舞さんですら倒せなかった奴相手だぞ。

 今の俺達に勝てる相手じゃない。

 でも……お前がそれでも戦うっていうなら……。


 コマンダーとして……友達として俺も戦う!


「固有ユニット解放! 太陽光吸収機関ソルブレイザー!」


『ッ!? チェリーーーーッシュ!!』


 これで少しまともに戦えるだろう。


『チェイサーーッッ!』


 ギアライフルを構え、銃弾を浴びせるもやはりギアボーグだ。ダメージは致命傷にはならずすぐに再生してしまう。


「何、オ前?」


『廻に手を出すな! チェイ……ッ!?』


 バギッ!


 ギアベロスの両腕から無数の針のようなものが生え、フェニックスギアが引き金を引くより先にギアライフルを串刺しにした。


「馬鹿な……ッ!?」


 正確無比な早撃ちを得意とするフェニックスギアが遅れを取った……。

 ギアベロスはフェニックスギアよりも圧倒的に速い!

 太陽光吸収機関ソルブレイザーを解放しても尚この実力差か……。


「怯むな! ソルジャーナイフで応戦だ!」


『グッ……チョッパァァァァァァ!』


 ギアベロスは腕を交差させ、フェニックスギアの剣撃を完全に押し止めた。

 ソルジャーナイフは交差した腕の力で完全に挟み込まれ引き抜く事が出来ない。


「太刀筋まで完全に読まれてる……」


「オ前……邪魔」


『グァァァァァァァ!』


 ギアベロスの身体から無数の針が伸びフェニックスギアを串刺しにした。


 銃も剣もまるで通用しない……。


「ぐっ……ッ! 必殺技発動!」


FINISHフィニッシュ OVERオーバー!』


 諦めるか! 負けるもんか!

 例え勝ち目が無くたって俺達は!


「フェニックスギア! 全ての創成因子ホビアニウムを左手に集中させろ!」


『ウォォォォォォォォォ!』


 ギアベロスの針を左手で破壊し、そのまま真正面から飛び混んでいく。


 瞬間的な破壊力ならフェニックスブレイカーより上。

 全ての創成因子ホビアニウムを左手に集めて放つ今の俺達の最強必殺技。

 

 これが最後のチャンスだ。


「フェニックスボンバー!」


『チェストォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!』


 

「アハァ……♪ 面白ーーーーイ!」


 ギアベロスではなく闇狃あんな自身が飛び出してきた。


 自ら受けて立つ気か……ッッ!?


 雌雄決す。

 凄惨とした病院内での激しい力と力の衝突の末。

 立ち上がっていたのは。





















「アハァ……♪」



 闇狃あんなだった。

 既にフェニックスギアは闇狃あんなの両手で地面に押さえつけられていた。


『ハァ……ハァ……』


「ドウシタ? もう終ワリナのか? モウ遊ばないノカ?」


 力の衝突のせいかローブと包帯に隠れていた闇狃あんなの素顔が明らかになる。

 両頬に獣の爪痕のような4本線の刺青のある長い黒髪の少女……それがギアボーグ闇狃あんなの正体だった。


『グッッッッッッ!?』


「もっと闇狃あんなト遊べ……モット闇狃あんなをミロ……もっと闇狃あんなニ構え……」


 ブチッ……。


『ガァァァァァァ!』


 そしてなんの躊躇いもなくフェニックスギアの左腕を千切った。


「フェニックスギア!」


「キャハハハハハハハ! もう一カイ!」


 ブチッ……。


『ガァァァァァァァァァ!』


 次は右腕が千切られた。

 しかし少女の姿からは冷酷な残忍性は微塵も感じない。

 むしろ生まれて初めて手に取ったおもちゃを力の加減無く遊び倒す赤子のような印象すら受けた。


『アハァ……もっとモット!』


 ブチッ……ブチッ。


 そしてついに両足がもぎ取られ、とうとうフェニックスギアは完全に身動きを封じられた。


 太陽光吸収機関ソルブレイザーの自己修復機能が作動しない。 

 まさかもう再生に回すほど創成因子ホビアニウムも無いのか?


『廻は……俺が守る……』


 フェニックスギアのその言葉を聞いた時、何かが頭でプツンと音を立ててキレた。


「……めろ……やめろってんだよこのクソったれが!」


 気づいた時には俺は既に走り出し、勢いに任せて闇狃あんなの顔を殴りつけていた。


「エッ?」


 しかし所詮子供一人の力。致命傷にもならなかったが闇狃あんなは信じられないものを見るような表情をして俺を見た。


「……ナンデ?」


 

 ふざけるな、なんだその顔は。

 何がなんで?だ。

 全部お前がやったからじゃないか。


『ナンデ……泣いてるの? 哀シイノ? ごめんなさい……ゴメンナサイ……お前ガ泣イチャウト思ワナカッタ……泣かないで……デモォさっきヨリ美味しそう……ナンデ? なんでナンデなんで? ナンデそんな眼デ闇狃あんなを見ルノ?』


 どういうことか分からないが明らかに闇狃あんなは動揺している。

 言ってることもめちゃくちゃだ。


「そいつは俺の大事な友達なんだ」


「トモ……ダチ?」


「それをお前は笑いながら傷つけた。もう絶対許さない!」


「ともだち……ナレルノ? 人間とギアソルジャーが?」 


「お前達ギアボーグには絶対分からないさ……」


「ともだち……っ」


「俺はフェニックスギアと一緒に夢を叶えると決めた。世界一のコマンダーになるってデッカイ夢を。例え夢半ばで死んだとしても後悔なんてしない……どんな絶望を味わおうが俺達の心の太陽は沈むことは無い! 俺を喰いたきゃ喰ってみろ!」


『馬鹿言うな……廻……逃げろ……』


 グゥゥゥゥゥゥ……。


「…………お腹……………空イタ…………」


 耳をすませなくても大きな腹の音。

 闇狃あんなのものだ。

 やはり俺は喰われるらしい。

 ごめんな、チョコ……龍舞さん……母さん……そして…………フェニックスギアにいさん


「お前ノ…………名前…………なンダ?」


「…………歯車はぐるまわるだ」


「…………歯車…………廻…………」


 何故これから食べる奴の名前なんか聞く。

 コイツも蛇凶と同じギアボーグならこれも何か意味のある行為なのか。


「…………やーーめた♪」


「は?」


まわる食ベルノやーーめた♪」


 意味がわからん。

 さっきからなんなんだコイツは。

 突然名前聞いてきたり、食べる気満々だった癖に今になって食べないなんて言ってきたり。

 突拍子のない言動に振り回されてばっかりだ。

 そして次の瞬間闇狃あんなはさらにとんでもないことを言ってきた。


「だからまわる……闇狃トともだちにナレ」


「友達にだと?」


「ソウ……♪ 廻は闇狃あんなの……友達♪ 闇狃あんなは廻ノ……友達♪」


「ふざけんな! 誰がお前なんかと!」


 龍舞さんを消し飛ばし、あわや俺やフェニックスギアを殺そうとしたお前と……。


 そもそもコイツは人を喰う化け物だ。

 そんな奴と友達になんかなれるものか。

 

「これは友達ノ……あかしダ♪ ハァァァァがァァぶっっ♪」


 闇狃は俺の身体をがっしりとホールドすると、ギザギザとした歯を首元に這わせ。


「アァァァァァァァァァ!」


『廻……ッッ!』


 力強く噛みついてきた。

 歯は皮膚を食い破り、骨を穿つほどの力で尚を凄まじい激痛を身体に伝導する。


「アハァ……♪ ともだち……トモダチ……ともだち……トモダチ……闇狃あんなにも……トモダチ……まわる……♪」


 なんで……なんなんだ。

 身体が変だ。

 すごく熱くて……すごく冷たい。

 熱湯と氷水を一度に浴びせられたような感覚だった。

 やがて永遠にも感じられた一瞬が過ぎると身体で感じていた高温と低温が混じり合っていき、痛みも激痛と感じていた先程より微弱なものとなった。


「ハァ……ハァ……お前……何を……」


闇狃あんなノ一つをまわるニあげチャッタ♪ だって闇狃あんなまわるは友達ダカラ……♪」


 身体の違和感が更に強くなる。まるで自分の身体が自分のものではなくなったような違和感だった。

 満たされない感覚……心の乾きが止まらない。

 喜び、嫌悪、怒り、恐怖、悲壮……なんでもいい。


 誰でもいい……俺に……感情を……よこせ……。


『廻……お前その体……まさか身体がギアボーグに……ッッ!?』


「オ母ちゃんガ呼ンデル……闇狃あんなもうオウチ帰ラナキャ♪」


 闇狃あんなはそういうと両手を合わせそのまま地面に向かって両手を広げた。


 すると地面が黒いモヤが立ち込め闇狃あんながそれに包み込まれて消えていく。


「ま、マタ遊ぼうネ……まわる……」


 闇狃あんなは最後にやや照れ臭くはにかんだ笑顔でさよならと付け加えて完全に消えた。


「満たされ……ねぇ……なぁ……」

 俺はどうしたら良かったんだろう。

 ただ夢を叶えたかっただけなのに。


「教えてくれよ……兄さん……」


 廻り沈んでいく意識の中で俺は……兄さんのことを思い出していた。


『廻……廻……』


「……」


『死なせるものか……お前はまだ死んじゃ行けない……』

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闘魂機兵*ギアソルジャーズ 鳳菊之介 @soleilbrilliant

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