最終章 こ た え

テレビよりもごはんの手を動かしなさい、片付かないからと母は怒った。詩織は事件現場を見逃さなかった。詩織が使う通学路に病院がある。住宅街にさしかかる場所に建っているが、それが映り込んでいた。すぐ近所である。詩織を追いかけてきたあの少年も、高校生くらいだろうか。顔は見なかったが、背格好でそういう印象がある。夕飯を食べ終えた詩織は、激しく罰されたワークブックを解き直す。余りのあるわり算のあまりを書き忘れていた。どうしてこんなくだらないミスをするのだろう。自分に腹が立つ。グリグリとシャープ芯を突き立てると穴が空いた。わからない勉強なんてどうでもいい。思っちゃいけない悪いこと。横道だとわかってはいるが徐々に詩織はニュースの内容を帰り道の出来事とつなげて考え始めた。ニュースの少年は怖かった。さすがに自分には想像もつかない展開だ。しかし勉強に苦痛を感じているところに聞き覚えがあった。毎日詩織も思っている。大学受験と言っていたか。詩織からすれば雲の上の話である。どれだけ難しい勉強なのか。そしてあの頭と体が逆に付いた少年。何で前が見えないのに歩ける?一体どんな顔だった?でも人間があんな状態で生きて歩いているのを見たことがない。やっぱり幻?幽霊?詩織はいかにしてあの怪物が生まれたか想像した。あの姿は狂っていた。1人の人間が前後を同時に向くなんて無理なのに、無理矢理叶えたような、頭おかしい人。あの少年は親にとって小さな人形のようなもので、人形の主人である親はままごと遊びをする。ある日、意思を持った人形は将来に背を向ける。しかし主人の巨大な手は今まで向いていた方向を留めようとする。その無理がたたってひねくれてしまった。…頭も体も同じ方を向いて道を進む、それがまともで自然だ。それなのに、あの少年は滅茶苦茶に狂ってしまった。どんなに痛くとも、正しいほうが絶対なの?私もああなるの?いや、なりたくない。

「私は完全にひねくれた怪物がいい」

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ひ ね る 火楽 @hirakq

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