第十二話 街コンで知り合いに会うのはタブーって何度言えばわかるんですか。

 人生、山があれば谷もある。

 つまるところ、山と谷はセットなのである。


桜島愛美さくらじまあみで~す。よろしくお願いします~」


 ふわふわと軽いセミロング。桜のヘアピン。隙の無い、自己分析の完璧な化粧。そして、彼女曰く「皆と同じもの、身に付けたくないんだよね~、ださいっていうか」とのことで、マイナーなブランドものでありながら、品のあるバッグやアクセサリー類…………。

 見間違えるはずも無い、俺の元彼女――桜島愛美さくらじまあみちゃんだ。


「初めまして、天音絵美です。よろしくお願いします」


 どうしてよりによって、元カノと街コンでばったり再開なんてしてしまうのか……。

 それどころか、天音先輩の相方というオマケ付き……。


『朗報です、下古川くん。私の相方さん、とっても綺麗な方ですよ。全力でフォローしますから、気合いを入れといてくださいね』


 全然、全く、これぽっちも朗報じゃなかったよ……。むしろ、お通夜テンションになりかけてるので、訃報と言えなくもない……。


「あっ、下古川く……さんと桜島さん、ここの所とか相性ピッタリじゃないですか? 趣味の映画鑑賞の所、被っていますし」


「あたしの観てるジャンルと違いますって~、あんまし被らないんですよ~」


 知ってる知ってる、愛美ちゃんは俺が苦手なスプラッタ系とかの、ホラー寄りのジャンルが好きなんだもんな。お願いだ天音先輩、元カノ相手にフォローするのやめてえ……、胃に穴が開きそうなんだよう……!


「ま、まあ。男性と女性じゃ、ジャンル別れがちですよね」


 動向を伺う限り愛美ちゃんは、俺とは初対面という体を通すつもりらしい。露呈させたところで、このテーブルでの空気が悪くなるだけだし、妥当だろう。

 ……なんか、凄いデジャブだな。それこそ、天音先輩と街コンでばったり会った時 みたいな……。

 それにしたって、この短期間でどうしてこうも、街コンで知り合いと鉢合わせてしまうのか。恋愛の神様は相当、俺の事がお嫌いみたいだ。


「…………」


 というか、俺の相方さんよ。序盤で良い感じの相手を見つけたからって、露骨に興味無さげな感じで黙りこくらないで……。

 同じ卓に元カノと会社の先輩が揃うとか、誰だよこの地獄考えたの。


「すみません、少しお手洗いに行ってきます」


 さて、天音先輩のフォローをどうやって止めようか。

 愛美ちゃんの声音の節々には、我慢ならない感じが滲み出ていた。

 もともと気の短い彼女のことだ、早めに手を打たないと陰でどんな文句を言われるか分かったものでは無い……それに、別れ方も俺から一方的なものだったから、相当嫌われているだろうしなあ。

 天音先輩は、俺のためにと相当に張り切っていた。下手に好意を躱す姿勢を取れば、恥ずかしがっているだけだと見なされ、更に状況が悪くなる可能性が高くなるだろう。

 ……よし。恥を晒す覚悟で伝える他にないな。

 意を決し、戸惑いを捨て去るように手を洗い流す。ハンカチで濡れた手を拭きながら廊下へと出ると、


「おっそ」


 仏頂面を隠す素振りの無い愛美ちゃんが、まるで親の仇かのように俺を睨みつけていた……どうやら、想像よりもずっとお冠だったらしい。


「すっげー気分が悪いんだけど、波瀬みたいなゴミとお似合いだとか囃されるの。あの女なんなの? まじで鬱陶しい」


「ははは……」


「へらへら笑うなよ。きっも」

 

 誰か助けてくれ……いやまあ、自分で蒔いた種だし自業自得なんだけれども……。


「お、俺がそれとなくどうにかするから……」


「少し時間潰しといてあげるから、あたしが戻るまでにどうにかしておくこと。もう、波瀬に一ミリだって構いたくない。あたしの貴重な時間をこれ以上、奪わないでよね。気持ち悪い」


 そう吐き捨て、俺と入れ替わるようにして愛美ちゃんは化粧室へと消えた。


「席を外してくれるなら、言いやすいし助かったかな…………戻ろう」


 天音先輩に事情を話すと、心底申し訳なさそうに頭を下げられた。罪悪感で胸が張り裂けそうになった。

 せめて俺の相方が良い感じの男の人だったら……って、何を考えてるんだ。八つ当たりなんてみっともない。

 二次会では、天音先輩の力になれるよう頑張ろう。俺は、そう胸に誓った。

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マッチング成立から始まる、会社の先輩と窓際社員な俺の街コン協力戦線。 涼詩路サトル @satoruvamp

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