秘密はイニシャルN
いすみ 静江
秘密はイニシャルN
私は、
陽が射したり
茶の
いけない。
「ナカガワさん!」
胸がうさぎみたいに
澄人くんが
気が付いて欲しいから、わざと教科書を机へ
「
私の方か。
三年C組は、ナカガワさんが二人も居て
つい先日まで、中川は私だけだと思っていたクラスに那珂川くんが現れた。
そうだ、あのときも
「両親の都合で
そう言って水の
授業中に小説を読んでいるのに、成績は学年トップのながら族で、私には理解できない程
私がどんなにがんばっても九番にしかなれないのに。
そんな考えを
「先生、答えを送信しました」
解答が、This stone( looks )( like )a jewelry .と大きい電子黒板に表示され、丸が付く。
「よし。次は、那珂川澄人さん。男女の別なくさん付けでフルネームだから、二人ともよく聞いて」
再び胸が飛び出るかと思った。
呼吸も
でも、小説は引き出しに
私も読書が好きだから、
「よし。那珂川も合格だな」
チャイムが鳴ったと同時に、私がクラス委員だから礼の合図をした。
「ねえ、那珂川くん。今日の放課後に用事がある? 明日から、ゴールデンウイークでしょう」
ああ!
油断も
C組のマダム、
「
ざわついている教室で、
「実家……?」
ご両親と東京に暮らしている
私も会話に入りたい。
けれども、勇気が少々足りないみたいで、
「それじゃあ、帰りは自転車だから。
席を立つなり小説片手に教室の引き戸から去って行った。
今からでは、私の足では間に合わない。
折角、
一人、黒い正門を
「一人は
さっさと帰りたくて、
真っ直ぐ前を見ないで
何かにぶつかって、あろうことか
「
「那珂川くん!」
自転車を
起こそうと手を差し
でも、今まで男の子と手を
ためらいの時は五分も十分もあるように感じられた。
「ごめん、
「
スカートを
結構な転び方をしたものだ。
「
困らせないで。
「覚えてくれていたの?」
「名前は直ぐにさ。
「私は、東京の中川なのかな? 面白い話ね」
それから、帰り道の方向が同じと聞いた。
「明日から、旅行か何かなの?」
「
三人家族だと聞いていたけれども。
「ご両親は?」
「東京で用事があるから、
「ごめん、余計な話をしてしまって」
「いいよ。本当のことだし。それに、中川さんって思っていることが顔に出るから安心できるよ」
けれども、
少し
「新幹線に乗って行く。東京発の
商店街のアーケードが終わると、
私は
「明日――!」
両手に
「明日ね……」
「何? これから
大きな
近くのペットサロンから母が出て来た。
そのキャリーバッグから、みーこが一つ鳴いた。
(碧ママにゃ、がんばってにゃ!)
分かった。
勇気を出すしかないね。
「那珂川くん。明日、お見送りに行ってもいい?」
「何で中川さんが?」
自転車のブレーキが
「何時にどのホームへ行くの?」
すると、生徒手帳を開いてこちらへ
「これって、指定席のメモよね」
「最寄の
それから、半ば強引に
帰宅すると、恩返しとしてみーこにスペシャルご飯をやった。
「うふふ、うふふふ……。いいこね、みーこは」
「碧ちゃん、ご
お母さんが背後から声を
男の子と話すのって後ろめたいものかも知れない。
冷静でいよう。
「相も変わらずですよ。今日も九番でした」
「高校も
にゃーお。
にゃおにゃお。
「はいはい、おかわりもどうぞ」
みーこだってスペシャルご飯が
「那珂川くんは、何か喜ばないかな?」
お弁当はどうだろう。
駅弁を楽しみにしているかも知れない。
読書家だから
「そうだわ!」
閃いたのはよかった。
だけど、もう入れない時間だからどうしよう?
「そうそう、みーこ! みーこがいいわね! 間に合わせないと――」
思い立ったことがあり、その晩は朝の四時までお
――翌朝。
葛柴駅北口に着く。
六時半丁度で、いつもの三十分前行動だ。
「待ったの? 中川さん」
「え! 本当に今来たわ」
「
こんな人初めてだ。
多くは
私が三十分前に着いているので、待ち時間がとても長くなる。
それが当たり前だと思っていた。
「那珂川くん、いつも早目の行動なの?」
「当たり前にね」
いい人だ。
「では、東京駅へ行きましょうか」
「ええ」
今、思った。
これから十日ばかりは、別れなくてはならないんだ。
コトンコトン……。
電車は地下鉄から
山手線に
「東京ー。東京ー」
「じゃあ、中川さん」
着くなり、
「那珂川くん、手荷物を持つわ。ホームに
「エスカレーターもあるしいいよ。女子と
ショックだった。
男の子って女の子と居るのが
青ざめていたせいか、
「いいよ、ちょっとなら」
ホームにて顔色を悪くしていると、
「どうした。電車に
「うううん」
そっと青いチェックのハンカチを貸してくれた。
それからは、何か話そうとか思っても言葉が
たった一月の転校生、私に風を
静かな時間が過ぎてしまった。
何か忘れているような気がする。
「あ!」
「何、何、そろそろ電車に乗るから、お茶買わないといけないし」
「ご……。ごめん、那珂川くん。私は
「いやいや、そんなことはないよ」
何故か、私は
電車がホームに
ドアが開いて乗客を
「ありがとう、中川さん」
一声あった。
「これ! 荷物になるけれども、よかったら持って行ってください」
「何だろう。気を
小さな白い
「じゃあ、連休を楽しんで」
時間に
私は、開かない窓から千切れてもいい位に手を
「また、会えるよね? また、学校で! 東京で待っているから……!」
今度は、
発車の時間が
別れを予感させるベルが鳴る。
礼を言ったのだろうか。
「――那珂川くん。連休明けには、
自分の指で目元を
もう、新幹線は居ない。
◇◇◇
ゴールデンウイークが明けた日、三十分前行動で登校した。
職員室へ行き、クラスの
教室に入ると、窓を開いて
みーこのスペシャルご飯が効果があったのかと目を疑う。
私はクラス委員なので、出席を取る。
「那珂川澄人さん」
「――はい。お待たせ」
朝日のシルエットがゆっくりと
「わ、私……。泣きたい気持ちだって分かる?」
「あれから発車して五分もしない内に、白い
那珂川くん、ちょっと背が
「うん」
「
私の
それから、告白の文面を思い起こした。
手紙も黒歴史になりそうで
「こちらこそ、受け取ってくれて
お
お祈りは
「白いお守りと赤いお守りで、
「
モデルは、みーこなんですが、
「
「その……。
スカートにのの字を書いてしまう。
「
しわぶきを一つして、
「手紙にあった、
鼻血も出るかも。
「澄人くん……」
「碧さん……」
静まり返るしかない。
でも、大切な朝の時間、話の皮切りをした。
「真面目に
「そうだね」
ゴールデンウイークはもしかして無理に帰って来たのかな?
「秋田へは、何のご用だったの? もうお別れかと思って必死だったのよ」
「ああ、秋田へは祖父のお
遠い目をして私の耳元で語る。
「そのお
「ありがとう、ありがとう……」
――私の想いを届けてくれて、神様、ありがとうございます。
Fin.
秘密はイニシャルN いすみ 静江 @uhi_cna
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます