第8話:罠・オスカル視点

「ああ、ようやく見つけたよ、愛するオリビアよ。

 今直ぐ僕の愛を受け入れてくれ、もう我慢できないんだ!」


 愚かな王太子が、演劇の舞台に上がってきて、下半身を露出させる。

 学園祭の模擬店料理に混ぜて食べさせた、媚薬が効果を発揮してくれている。

 これだけの醜態を、満場の観衆の前でさらしたら、廃嫡は間違いない。

 姉上との婚約解消を頑として認めない、愚かな国王と王妃でも、教会から背信者として懲罰されたこいつを、王太子のままにはできない。

 この期に及んでまだ庇うようなら、教都の大教皇に訴えて出て、男色の罪で討伐軍を出してもらうと脅してやる。


「殿下、王太子殿下、私は男です、レナス公爵家のオスカルです。

 男に襲いかかったら、教会の教えに反します、神罰が下りますよ!」


「何を言うんだ、オリビア、僕だよ、王太子のフェルドだよ。

 あれほど硬く約束したじゃないか、今度会った時に僕の愛を受け入れてくれると。

 ああ、もうたまらない、我慢できない、僕を受け入れてくれ。

 必ず王妃にするから、そのためにジャスミンを王都から追い出したんだよ」


 くっくっくっく、ここまで馬鹿な事を言ってくれると助かります。

 男を王妃にするなんて言って、しかも姉上を王都から追い出したと言ってくれた。

 これで国王と王妃が権力でもみ消し黙らせたことが、白日のもとにさらされる。


「修道士殿、神官長殿、神殿長殿、助けてください、背教徒に襲われます。

 私では王太子に逆らえません、どうか教会の力で助けてください」


 さあ、これで王太子は教会に捕まり、厳しい取り調べを受けることになる。

 今までは見て見ぬフリをしていた教会も、衆人環視の前で無視はできない。

 これでやっと姉上は完全に自由になれるだろう。

 誇り高く気高い理想を持ちながら、弱者への優しさも失わない人。

 虐められていた俺なんかを助けるために、陰湿な虐めに立ち向かってくれた人。

 アルバイトで苦しい生活をしていたのに、そのアルバイトを減らしてでも、俺の側にいて慰めてくれた人。


 なんで、この世界に一緒に転生できたのに、姉弟なんだ!

 今度こそ勇気を出して、好きですと告白したかったのに、血の繋がった姉弟じゃ、自由にしてあげる事しかできないじゃないか。

 このままでは、禁断の罪を犯しそうで、僕が出ていくか姉上に出て行ってもらうしかなかった。

 姉上に籠の鳥は似合わない。

 それが公爵家や王家の豪華で大きい籠であろうと、姉上に枷や制限は邪魔なだけ。

 もし次の転生があるのなら、今度こそ血のつながらない、愛し合う事のできる男と女にしてくれ、神様!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

婚約破棄ありがとうございます王太子殿下、でも、隣にいるのは女装した私の弟ですよ。 克全 @dokatu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ