第7話:孤児院

 最初に情けをかけた私の失敗です。

 だけど、教会の修道士に、本当に真剣に孤児院を営んでいる人がいるなんて、この世界この時代にそんな奇特な人がいるなんて、思いもしなかったのです。

 自ら身を粉にして働き、ギリギリの状態で孤児達を引き取り育て、どうしても食糧が不足した時には、全身傷だらけになって魔境で狩りをする。

 そんな修道士を助けるために、年上の孤児達も一生懸命に畑仕事や家事をしているのを見て、見捨てる事などできません。


「お姉ちゃん、今日のごはんなあに?」


 キッカという名の孤児が嬉しそうに話しかけてきます。


「今日はステュムパーリデスの塩焼きとモツのシチューよ」


 ほぼ毎日塩焼きとシチューしかありません。

 変わるのは材料になっている魔獣だけです。


「やったぁあああああ、今日も美味しいのだぁああああ。

 みんな、今日もお肉が食べられるよ!」

「「「「「やったぁあああああ!」」」」」


 孤児達が一斉に大声を出して喜んでいます。

 修道士殿がどれほど頑張っても、一日二食を確保するのが難しくて。

 時には雑草を茹でただけの、料理ともいえないモノを食べている時もあったそうですから、毎日三食欠かさずに食べられるだけで、彼らには幸せな事なのでしょう。

 また涙が流れそうになってしまいます。

 公爵家に転生できたことが、どれほど幸運だったのか、思い知りました。


「サクラちゃん大好き」


 今日もお肉が食べられることに安心したのか、キッカがサクラのフワフワ毛並みに抱きついていきます。


「「「「グルルルル」」」」


 サクラも嫌がらずに子供達の好きにさせてくれています。

 いえ、サクラだけではなく、タマもタゴサクもゴンベイも、子供達を受け入れ優しく接してくれています。


「サクラ、フワフワでママの臭いがする」


 キッカがうっとりとサクラの香り感じながら、毛並みを全身で確かめるように、しっかりと抱きしめています。


「「「「「ぼくも!」」」」」

「「「「「わたしも!」」」」」


 孤児達が全員サクラ達に抱きついていきました。

 もう、だめ、我慢できずに涙が流れてしまいました。

 本当は、適当なお金と食材だけを渡して、安住の地に行くつもりだったのです。

 いえ、嘘や誤魔化しは止めましょう、食べたくない不味い食材だけを孤児院に寄付して、自分は安穏とした生活をしようとしていました、ごめんなさい。


「おおおい、新しい友達を連れてきたぞ!」


 修道士が帰ってきました。

 私が来たことで、資金的にも食料的にも余裕ができたので、最悪の環境で育てられている、他の教会の孤児達を集めに回っていたのです。

 この修道士は自分で狩りまでする漢ですから、孤児を寄付金を強請るための材料として手放したがらない修道士には、腕力に訴えても言う事をきかせる武闘派です。

 やれ、やれ、あれだけの人数が増えたら食事の量が足らなくなってしまいますね。

 直ぐに大量に作れる、子供達の大好きな唐揚げを追加しますか。

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