不遇の戦争未亡人と彼女を迎えに来た神父さんのお話です。めちゃくちゃ好きな話でびっくりしました、このびっくりというのは鍋島さんは作風の幅が広い……!というびっくりです。
リアリティのある素晴らしい文章も圧巻です。わかってはいるもののやはりお上手です……。
重厚な現代ドラマに圧倒されましたが、よく見れば舞台は列車の中に限定されているんですよね。舞台は車内から一切動かないのに、小説内部は恐ろしい広がり方を見せます。もうここが流石の手腕です、起こった出来事を回想の形式で適宜挟みながら、現在の軸での話と隠されている真実をじわじわ広げていきます。
この間に回想を定期的に挟むって手法、多分熟練してないと読み手の脳は混乱すると思うんですよ。でもそれをほとんど感じさせない、情報の管理が卓越しているなと感じました。
キャラクターもそれぞれ違った愛しさを覚える人格や生い立ちです。私はわかりやすい人間なので抜群に神父が好きなのですが、途中まではミステリ脳がいろいろと深読みしてしまいあらぬ方向性の先を想像しておりました。
しかしそこはさすが鍋島さんというべきか、私のような人の心がわからない捻くれた読み手には神父からの情をあっそっちか!という捻りに持っていってくれて、作者に振り回されたい私は大満足です。
神父を中心に現在に向かう過去からの祈り、とりわけ命を落としたアーネストの愛とエゴを表裏一体とした最後の望みが、この列車内の一幕をうみだしたのかなと思いました。信仰とは進むべき方向を定めてくれる光なのだな……と胸に染みました。
ものすごく読み応えがあり、本当に素晴らしく、本当に面白かったです。ランズ・エンドに光あれ………。