ⅩⅣ 予想外のお誘い(2)
「海賊かあ……ま、今でも山賊みてえなもんだからな。海と山だけの違いだ……暴れ回るのも嫌いじゃねえしな……」
「よいのではないか? どうせこの先、身の振り方も決まってないのであろう? このまま村々を襲って暮らしているよりはよっぽど建設的な生き方だと思うぞ? 粗暴なそなたの性格にも向いておる」
突然の誘いではあったが、悪い気はせずに本気でその転職を考え始めるリュカに、それまで黙っていたジョルディーヌもその背中を押すようにして口を挟む。
「けど、ここにアンヌを残していくのもなあ……ずっとサンマルジュ村で生まれ育って、海なんて一度も見たことねえしな……」
「ま、そんな世界にケンカ売るような海賊になったら、それこそ今回みたく命狙われるのが日常茶飯事になっちゃうだろうけどね。だから、返事は急がないよ。もし君も団員になってくれるんなら、年明け4月の新月の夜、エルドラニアの港町ガウディールにある宿屋〝宝島亭〟に来てくれないかな。その日、そこに賛同してくれた者達で集まり、海賊団の旗揚げをして新天地へ出向する手はずになってる。無理強いはしないけど、色良い返事を期待しているよ」
それでも即断できるような問題ではなく、悩むリュカの様子を見たマルクは、そう言って注意事項を一応伝えると、判断はリュカ自身に委ねてこの話を締めくくった。
「それまで、僕の方はもう少しエウロパ全土を回って魔導書と団員探しをするつもりさ……さてと。ここでの用事も済んだし、日の高い内に次の町へ行きたいから、僕はもうこれでお暇することにするよ」
ふと見れば、そう言うマルクの肩にはパンパンに膨らんだ彼の鞄がかけられ、すっかり旅支度を整えている。
「そうか? もう少しゆっくりしてゆけばよいのに。今回の礼もしたいしの。そうじゃ! やはり今夜は秘伝の〝黒ヤモリ酒〟で酒池肉林の宴を… 」
「い、いや、こっちもお世話になったからもうそれで……これから王都のパリーシィスにも寄りたいし、神聖イスカンドリア帝国領内も廻りたいから少し急がないと……」
突然、別れを告げて旅立とうとするマルクをジョルディーヌは引き止めようとするが、彼は苦笑いを浮かべて、その心遣いを丁重にお断りする。
「そ、それじゃ、そういうことでマダム・ジョルディーヌ。ジュオーディンの怪物くん、縁があったらまた〜で会おう!
そして、改めて別れの言葉を口にするやくるりと踵を返し、わずかに振り向いて手を振りながら、マルクはあっさりとその場を去って行く。
「うむ。おぬしも
「おう! まだ行くとは決めてねえが
そんな遠ざかる旅の魔術師の背に、ジョルディーヌとリュカもそれぞれ別れの言葉を大声で投げかけた。
「……世界にケンカ売るか……悪くねえな……ジョルディーヌ、エルドラニアはどっちだ? ガウディールの港ってのはどう行けばいい?」
マルクの姿が見えなくなるまで見送った後、ぽつりと呟いたリュカはやや興奮した様子で魔女に尋ねる。
ああはマルクに言ったものの、もうすでに彼の心は決まっているらしい……。
「……ん? ガウディールか? この大陸の西の
そんなリュカの質問に薄っすらと微笑みを浮かべると、手にした樫の棒で周囲の森を指し示しながら、ジョルディーヌは対価の労働を彼に要求する。
「ああ。そういや、あいつらにも世話になったな。しっかし、あの雑な人形、もう少しまともに作れなかったのかよ?」
「仕方ないであろう、とにかく時間がなかったのじゃから。それに、大雑把な性格のおぬしの
「なっ!? どこがぴったりなんだよ!? ぜんぜん似てねえじゃねえか!」
「似ておるぞ。雑な顔の作りもそっくりじゃ」
「がっ! 誰が雑な作りだ! コラ! ――」
そして、親しげに雑談を交わしながら、魔女と人狼は
(Le Loup-garou Tres Triste ~悲しき人狼~ El Pirata Del Grimorio/CERO Episodios :Lucas 了)
そして、本編へ……
・『El Pirata Del Grimorio 〜魔導書の海賊〜』
Le Loup-garou Tres Triste ~悲しみの人狼~ 平中なごん @HiranakaNagon
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