最終話 ただ自然に
「夜景がすっごく綺麗ね!」
感動の声を上げる千代子ちゃん。目的地はとあるビルの屋上だった。出来るなら、景色のいい場所で告白出来たらと考えていて、この夜景が綺麗な場所が思い浮かんだのだった。
「でしょ。せっかくだから、いい場所でって思ってリサーチしてたんだ」
夜景を堪能している彼女を見て、少し誇らしい気持ちになりながら、僕はそう言った。
「ありがとう、アキ君。幸せなクリスマスイブをプレゼントしてくれて」
微笑んで言う千代子ちゃんだけど、これで終わりじゃない。
「それでさ。実は、ここで言いたいことがあったんだ。聞いて、くれる?」
さあ、いよいよだ。少しずつ、身体が緊張してくる。彼女の気持ちは、僕がとんでもない勘違い野郎でなければ、YESだろうけど、それでも、喉がからからになりそうだ。さらに、お腹も少しずつギュルギュル言いはじめて来た。もってくれよ、僕の胃腸……!
「その前に、私の言いたいこと、聞いてくれるかしら」
「え?」
予想外の言葉だった。彼女だって、きっと、告白を待ってくれていたはずなのに。
「好きよ。アキ君。大好き。私の彼氏になってほしい!」
僕の言うはずだった告白の言葉は遮られて、なんと逆告白されてしまった。それと同時に、告白の緊張感がほどけて、お腹の調子が落ち着いているのに気がつく。
「う、うん。もちろん。僕も好きだよ、千代子ちゃん。でも、なんでいきなり……」
と言っていて、間近にある彼女の顔が赤くなっているのに気がつく。
「千代子ちゃん。熱出てるんじゃない?」
「出てるかも。でも、耐えられない程じゃないわ」
「どうして……って、そうか。君が先に告白してきたのは」
そう。それしか考えられない。
「私は緊張しても熱だけで済むけど、お腹壊しちゃったら、アキ君が困るでしょ?」
「ま、まあ。近くにトイレもないしね」
つまり、彼女は、僕が告白の言葉を言う途中で緊張してトイレに駆け込む羽目にならないように気を遣ってくれたのだ。
「今日はきちんと決めようと思ってたのに、また千代子ちゃんに助けられちゃった」
「でも、これまで、お互い支え合って来たんだもの。こういうのもよくない?」
告白の緊張が落ち着いてきたのか、少しずつ平常に戻りつつある様子の彼女が、笑いながら言う。
「これで、僕たちは恋人同士か」
努めて、ドキドキしないように深呼吸をしながら言う。ドキドキを楽しめないなんて、神様は不公平だと思うけど、でも、だからこそ彼女に出会えたと思うと、神様を恨むことはできないか。
「そうね。でも、デートの場所は色々気を遣わないといけないわね」
「近くにトイレがあって、体力をあまり使わなくて……と考えると、絞られるよね」
告白したカップルが通常ならデートに行ける場所でも、お互いの体質を考えると選びづらい場所がいっぱいある。それでも-
「君に会えて良かった、千代子ちゃん」
「私もよ、アキ君」
出会いに感謝して、僕たちはそんな言葉を贈りあったのだった。
✰✰✰✰あとがき✰✰✰✰
さて、本作はこれで終わりです。今回は、ストレスが身体に大きな影響を与える
という、現実的なハンディキャップを背負った2人のお話でした。程度はおいといて、このような体質は現実に持っている人は少なくないので、身近に感じた
人もいるかもしれません。
私自身、ちょっとしたストレスが身体に大きな影響を与えるタイプの人間なので、
ありがちな「不治の病」ものじゃなくて、生きていけることがあるけど、それでもつらい事が多い病の話を描いてみたかったのでした。
感想などあればコメント欄によろしくお願いします。
同病相憐れむ僕たち~お腹が弱い僕と身体が弱い彼女と~ 久野真一 @kuno1234
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