第2話 同病相憐れむ
僕、
ただ、1つだけ、一見些細な、でも、人生を生きる上で大きなハンデを僕は背負ってしまっていた。それが、ストレスがかかるとすぐにお腹を壊す、というより下痢をするという体質だ。ストレスというと、一見悪いものに見えるかもしれないけど、胸躍る物語を読んでドキドキしたり、運動によって身体に負荷がかかるのも広い意味で見ればストレスといえる。
この体質のせいで、小学校に入って以降、何度も何度も、下痢で授業途中にトイレに行く羽目になった。小学校のガキというのは容赦がないもので、僕が何度もトイレに行って、しかも、時間がかかるのがわかった途端、
「下痢ピー石原」
「うんこ石原」
などと心無いあだ名をつけていじめられたものだ。担任に訴えて、そんないじめが止んだかと思えば、今度は全く思ってもみなかった事を勘ぐられたりすることもあた。
「石原って、いっつも授業途中でトイレ行くだろ。あれ、なんでなんだ?」
「ずる休みだって。トイレだって言えば、授業抜けられるだろ」
などと影口を叩かれた事も一度や二度ではない。この体質を説明しようとした事もあったけど、同年代のガキにはわかってもらえた事はない。幸い、僕の両親は僕の体質をわかってくれていたから、人生に絶望したり、不登校になることこそなかったものの、小学校というのは本当に辛い場所だった。
そして、小学校と家を往復して、家では静かに読書やゲームをする日々が過ぎて、小学校5年になった頃。クラス替えで、とても綺麗な娘と一緒のクラスになった。彼女の名前は
そんな、縁が無いと思っていた彼女との接点は些細なことだった。
「なあ。松永って、小テストの時だけ、いっつも熱出してない?」
「松永さん、身体弱いらしいけど」
「でも、テストの時だけとかおかしいだろ。ずる休みだって」
「身体弱いとお得だよなー」
「ズル娘だよ、ズル娘」
松永さんが居ないところで好き勝手な事を言うクラスメイトたち。僕が見る限り、彼女は授業はいつも一生懸命にノートを取っていたし、ズル休みをする娘には見えないのだけど。
そんな陰口を聞いた翌日の放課後。たまたま、僕と松永さんが掃除当番の日が回ってきて、一緒に掃除をすることになった。僕は彼女に何を言えばいいかわからず、黙々と掃除をしていた。
「ねえ、石原君」
黙っていた松永さんがふと口を開く。
「ど、どうしたの?」
「私のあだ名。知ってる?」
「……」
「ズル娘だって。ほんとは、そんなことないのに」
苦しそうな顔でそんなことをいう彼女は、掛け値なしの本音を言っているように見えた。だから、自然と、
「ひょっとして、生まれつきだったりする?」
そんな言葉が出ていた。僕も、お腹程じゃないけど、ストレスがかかったときに熱が出ることが多かったから、そうじゃないかと思ったのだった。
「そうだけど。なんで、わかったの?」
「僕も生まれつきだから。知ってる?僕のあだ名」
「……」
「下痢ピー石原、だってさ。最近は、表立っては言われないけど」
「石原君はそういう体質だってこと?」
「うん。何故だか、緊張するとお腹壊しちゃうんだ」
「そっか。私は、緊張すると、すぐに熱出ちゃうんだ」
「それで、テストの日休んだり?」
「たぶん。自分で自分のことはよくわからないから」
「だよね。僕も、テストの日、よくお腹壊すんだ」
「そっか。石原君は大変なんだね」
「松永さんの方が大変だよ」
松永さんの境遇を聞いていて、「僕とよく似ているな」と正直思った。
「お父さん、お母さん以外に初めて話したかも」
少しほっとしたような顔をしている松永さん。でも、それは僕も同じ。
「僕も、だよ。クラスのやつに言っても、信じてくれないし」
「私たち、似た者同士だね」
「そうだね。良かったら、友達にならない?」
「うん。私も友達になりたい」
そうして、僕たちの友達関係が始まったのだった。振り返って、悪い言い方をすれば傷の舐め合いという奴なんだろうけど、初めて同年代で自分たちの生きづらさを共有できた僕たちが仲良くなるのには、さほど時間はかからなかった。
体質で辛い目にあえば、お互いに慰めあって、それ以外の事も色々話し合うようになって。最初はお互いに同情だった気持ちは、いつしか親愛の情に変わっていった。
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