時代遅れの鍛冶屋
鹽夜亮
第1話 時代遅れの鍛冶屋
「にいちゃんいらっしゃい!こんなとこに若者たぁ珍しいねぇ。何が欲しいんだい?」
「ん?刀は初めて?それに名前が読めない?…ハハハ、まぁそりゃそうだろうな。鍛冶屋の伝統でな、もう使われなくなった古代の言葉なんだよ。いいぜにいちゃん。暇だから一つずつ説明してやらぁ」
「まずこいつ。これは【希望】ってんだ。大昔の売れ筋商品よ。ただまぁ、売れ筋だけにパチモンやら鈍やらが市場に溢れ返りやがってなぁ…。元々使い辛い刀だってぇのにアホみたいに押し売りする連中のせいで何人死んだんだか」
「こいつは、【絶望】だ。恐ろしい刀の一つだぜ。見てみろよ、怖いぐらい鋭い両刃になってるだろ。切れ味は最高さ。おまけにこれはめちゃくちゃ軽くてな。つまり一歩間違えれば自分の首がピョンッてやつだ。まぁ大昔には使いこなした連中もいるみたいだが…」
「ああ、そいつは【信仰】だ。【希望】と並んで人気商品だぜ。家宝にしてるとこも多いくらいだ。だがまぁ…いかんせん一本ずつの癖が強くてな。他の刀との相性も考えねぇと、とんでもねぇことになる代物だ。家に隠し持っておくならオススメするぜ」
「そいつぁ俺のお気に入りだ。【芸術】ってやつだな。見てみろよ、変な形してるだろ?醜いってやつもいるし、美しいってやつもいる。これを愛刀にする奴は変人か天才だな。【希望】やら【絶望】やらに飽き飽きした連中が手を出すことも多いが、大抵はどっか辺鄙な田舎で鈍に斬り殺されてお陀仏さ」
「そいつか。そいつは【智慧】ってんだ。見たところどこにでもありそうな刀だが、所有者がしっかり手入れし続けりゃ時間はかかるが最高の武器になるぜ。まぁ、怠けりゃただの鉄屑のままだがな」
「疲れてきたな。あと2つで終わりにするぜ」
「そいつ、その見るからに気持ちの悪ぃやつが【本能】ってんだ。切れ味、使いやすさ、硬さ、どれをとっても一級品さ。しかも安いときてる。そのおかげで人斬りやら強盗やら、悪どい連中御用達だな。…本来はいい刀なはずなんだがなぁ」
「最後が【理性】だ。美しいだろ。刀として完璧に整ってる。だが、扱い辛さは一級品だぜ。携える奴は多いと聞くが、これでまともに戦ってる連中は見たことねぇな。なんせ、どの刀よりも折れやすいからな」
「さぁこれで終いだ。どうするにいちゃん?」
「あん?俺の刀が知りたいって?ハハ。俺は鍛冶屋だ。刀は持たねぇよ。代わりにあるのはこのハンマーと…ノートとペンだ」
…………………………
時代遅れの鍛冶屋 鹽夜亮 @yuu1201
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます