第49話
カラオケでしばらく過ごし、二十二時前に部屋を出た。
「はぁ、久しぶりにたくさん歌いましたね」
「俺もたくさん歌わされたな」
「もう、そんな顔しないでくださいよぉ。上手でしたよ?」
「そりゃあどうも」
俺たちはカラオケ店を出て、家へと向かって歩き出した。
……暇だな、ストーカー男は。
俺たちの後をついてくるストーカー男を一瞥してから、俺は美月の手を取った。
「え? せ、センパイ?」
「……一つ確認したいんだが、おまえストーカーされていないか?」
俺はすっとぼけるようにそう問いかけた。ボディーガードの心得として、依頼主との約束を守る必要があった。
彼女の父親に頼まれていた、というのは決して言わない。俺がそういうと、美月は驚いたようにこちらを見てきた。
「な、なんで……わかったんですか?」
「ここ最近こっちを見てくる男がいるんだよ。今も、な」
「今も――」
「おまえが振り向くと、たぶん気づかれる……だから、後ろは見ないでほしい。少し離れたところからこちらを伺っている奴がいるんだよ」
「……そう、なんですね」
美月は押し殺したような声をあげる。彼女が不安そうにしていたので、その手をぎゅっと握りしめた。
「大丈夫だ、安心しろ。俺がいれば問題ねぇのは分かるだろ?」
「……はい。ありがとうございます。確かに、そうですね。……ここ最近、ストーカーされているみたいです」
「やっぱりそうか。それもどうやらおまえのことが大好きなストーカーみたいでな。俺がおまえにくっつくと凄い嫉妬したような顔をするんだよ」
「……そうなんですね。……ちょっと待ってください」
「ん?」
どうした? なぜか急に美月の声が鋭くなった。俺が彼女をちらと見ると、彼女は怒ったような顔でこちらを覗いてきた。
「つまり……今日一日、やたらと私との距離が近かったのは、そのストーカーを確認するため、ですか?」
「まあ、そんなところだな」
「ふーん……ふーん!」
ぶすっと美月は完全にむくれてしまった。
「怒るな。ストーカーを挑発できたのは悪いことじゃないだろ?」
「……なんでですか」
「ストーカーってのはそれだけだと中々罪状を重くはできないからな。適度に挑発して、別の罪でしょっぴいたほうがいいんだよ」
「……例えば?」
「理想的な部分でいえば、窃盗罪、傷害罪とかだな」
「……それってつまり、センパイが盾になって怪我をするとかですか?」
「いや、俺怪我したくないし……あとは強制わいせつ罪とかだな。とにかくだ、おまえに協力してもらう必要があるんだ」
「……協力すれば、ストーカーはどうにかできるんですか?」
「ああ、十分可能だ」
「……」
美月はそれからしばらく考えてから、こちらを見てきた。
「……わかり、ました。いざとなればセンパイが守ってくれるんですよね?」
「そこは安心しろ」
「安心します。それでセンパイ、私何をすればいいんですか?」
首を軽くひねった彼女に、俺は一歩近づいた。
「……とにかく今は、こうして俺とおまえでイチャつく」
「い、いちゃつく!?」
「ああ。そうだ。それでストーカーを刺激して、仕掛けてもらうつもりだ」
「……もしかしてセンパイ、私とそういうことがしたくてわざとそう言っているんですか?」
「ちげぇよ。流れはこうだ。ストーカーを刺激して、まず俺の部屋まで乗りこませる。それで、住居侵入罪が適用される」
「……な、なるほど」
「その後、ストーカーに無理やり何かされる。これで、暴行罪だ。もしかしたら、傷害罪や脅迫罪などもそこで発生するかもしれないな」
「……ちょっと、危険かもしれないってことですか?」
不安そうに美月の顔が強張る。それはそうだろう。ストーカーと対面し、色々とやらなければならないのだ。
「そうだな。とにかくおまえは、その後すぐに部屋の外に逃げるようにするんだ。逃げられるように、俺がうまくやってやる」
「……はい」
「部屋の外に出れば、すぐそこの監視カメラでちょうど部屋の入り口が映るようになる。そこからは何でも証拠はそのカメラに映る」
俺がちらとアパートの入り口を指さした。
学校では地味な陰キャとバカにされている俺は実はボディーガード 〜地味に生きたいのに、以前助けた有名人の幼馴染が離してくれない〜 木嶋隆太 @nakajinn
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