第48話


「……すみません。結果的に助けていただいてしまって」

「いや、俺もまあ……助かったよ。学校でも絡まれることあったからな」

「面倒なら、さっきみたいに脅しちゃえばいいじゃないですか」

「……それは、親父や祖父に悪いからな。俺が二人に指導してもらったこの力は、あくまで誰かを守るためのものなんだからな」

「そこにセンパイは含まれていないんですか?」

「……まあな。命の危険があれば別だが、ただ少し絡まれるくらいなら別にな」

 

 俺が答えると、美月はぎゅっと腕をつかんできた。


「でも、私は……センパイがああやって馬鹿にされるのは嫌です。センパイのこと、何も知らないのに」

「知られるようなことをしていない俺にも責任があるとは思うがな」

「だったら、干渉しなければいいんですよ。なのに、わざわざあんなふうに絡むのは変ですよ」

「まあ……そういう奴もいるってことだ。ほら、さっさとドリンクとって部屋に戻ろうぜ」


 それにしても……あいつらに何て説明するかな。

 美月のことを知っている奴が一人いたよな。……学校で、今日のことを質問されたとき、面倒なことになるよな……。

 ぼーっとドリンクを入れていると、美月が顔を覗きこんできた。


「センパイ。どうしたんですか?」

「……あとであいつらにどう説明すればいいんだか考えているんだよ。レンタル彼女、とでも言っておけば納得するかもなってな」

「……か、彼女と言ってもいいんじゃないですか?」

「付き合ってはねぇだろうが」

「で、でも……そういってもいいですよ? 私はまったく構いませんから」

「……それを言ったら、学校で話題になるかもしれないからな。却下だ」

「もう、センパイの恥ずかしがり屋ですね」


 美月のほうが恥ずかしそうにしているがな。


「……とにかく、誤魔化し方に関してはこっちに自由にさせてくれよ」

「はーい、分かりました」


 美月はぶすーっと頬を膨らましてから、ポケットに入れていたマスクと眼鏡を取り出して、装備した。

 それから、部屋へと戻る。すでに彼らは廊下にいなかった。部屋に戻っているのだろう。


「それじゃあ、どうぞ自由に練習してくれ」


 俺はカラオケの機械を美月のほうに渡した。それから、オレンジジュースを口にしながら、ぼーっと眺めていた。

 美月は楽しそうな様子で機械をいじっている。まだ一曲も歌っていないのに、滅茶苦茶楽しそうだ。その笑顔が見れただけでも、来たかいがあったな。


「まずはデュエット曲から行きましょうか」

「……おい」


 すぐに美月は曲を入れて、俺の方にマイクを一つ差し出してきた。


「センパイ、お願いします。一緒に歌ってください」

「……ああ、わかったよ。下手くそだからって笑うなよ」

「笑うわけないじゃないですか」


 音楽が流れ始めにこっと、微笑んで口元にマイクを近づけてきたので、俺は仕方なくそれを受け取った。


 俺はあまり、歌うのは得意じゃない。だから……出来れば歌いたくはなかったんだがな。

 俺の音痴な歌を聞いて、美月は目元をわずかに緩めている。……ああ、くそ。美月と一緒に歌っていると、嫌でもへたくそなのがわかるな。

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