ポンペイと私の最後の日。
月空 すみれ(ヒスイアオカ)
第1話 消えたポンペイの町
私はいつも通りお店を開いた。
丁度、日時計を見ると午前7時。
昨日からあった小さな地震のせいで、少しだけ時間が遅れたようだ。
回りの店はまだ開店前か?
今日は、一番乗りらしい。
暫く待つと、段々店が開いた。
それに、お客もやって来る。
私は大声で
「いらっしゃい!果物はいかが?」
と商品を勧め、お得意様のガタエーノはそれに乗りリンゴを買ってくれた。
いつも通りのポンペイの町。
いつも通りの沢山のお店。
少し地震が多いだけで、最近は事件も起きていなかった。
「お~い!エマヌエーラ!」
ふと、聞き慣れた声が聞こえて、私は少し顔を前に出す。
そこには親友のドメニコが、美味しそうなパンを持って立っていた。
「ドメニコ!そのパン、どうしたの?」
「ああ、すぐそこのパン屋で貰ったんだ!ほいっ、一つやるよ。」
そう言って、ドメニコはパンをこっちに投げる。
間一髪で私がそれを掴むと、ドメニコは悪戯っ子のように
「ナイスキャッチ!」
と笑った。
つられて、近くにいた人も笑う。
私も、つられてハハハハハッと笑う。
当たり前の毎日。
平和で優しい毎日。
それなのに、なぜがふっと今日は不安が溢れてくる。
何にも、変じゃないはずなのに。
いつも通りの、日だというのに。
妙に感じる胸騒ぎは、暫く、途絶えることはなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おい!エマヌエーラ!そろそろ昼飯食おうぜ!」
ドメニコが、そう言ってきた。
確かに、もう12時前だ。
一旦店を閉めようとすると、突然、大きな揺れが襲った。
私は、必死に壁に縋り付く。
ドメニコも、真っ青になって壁に引っ付いていた。
やっと揺れが収まったか。
ほっ、と胸を撫で下ろすが、その瞬間。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
突然、今までとは比べものにならない、大きな強い揺れが襲った。
ゴゴ、ゴゴゴゴゴッと何かの音が響き、私は、恐怖で涙を流す。
コツッ、コツッ。
突然、軽い何かが頭に当たった。
恐る恐る地面を見ると、沢山の小さな石が雨のように落ちている。
思わず空を見上げると、そこは、さっきまで快晴だったとは思えないほどに、真っ黒で暗い空だった。
回りを見回すと、ヴェスヴィオ山から黒煙が上がっていた。
しかも、ドロドロした赤い物がそこから出ている。
噴火。
最悪の答えが見えてきて、私は放心状態になった。
「エマヌエーラ!大丈夫か?!」
ドメニコの言葉が聞こえるけど、全くもってよく分からなかった。
一体、どうしてこんな事が…。
何で、こんなにひどい次期に!
悲しみが芽生え、苦しみが襲う。
いつの間にか息も出来なくなり、回りには、沢山の石が溢れ果物は埋もれていた。
沢山の叫び声。
沢山の走る音。
沢山の人々が阿鼻叫喚となって走り、回りは、もうぐちゃぐちゃだ。
いつの間にかドメニコも居ない。
死ぬのかなぁなんて思ってしまって、暗い世界で座っていることしか出来なかった。
やがて、石が町を埋め尽くし、彼女の意識は途絶えたという。
ほんの数十分の出来事。
イタリアのポンペイ最後の日は、こうして、真っ暗な闇と共に終えた。
今回の話は、実際に起きたヴェスヴィオ山の噴火と、それによって消えたイタリアのポンペイの町の話をアレンジした物です。賑わい、活気に溢れていたポンペイの町は、その日、あっという間に終わりを告げました。その後、太陽がまた見えるまで、実に3日かかったと言われてます。現在、ポンペイの町は遺跡として、観光する事が出来ます。もしよければ、詳しく見てみても良いかもしれません。
ポンペイと私の最後の日。 月空 すみれ(ヒスイアオカ) @aokahisui
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