141(3,077歳)「最終話『私たちの戦いはこれからだ!』」

 2年半ほど、忙しく動き回った。

 ロンダキルア辺境伯領のことは家令のディータに任せっきりにして、私は魔王国で一番執務能力の高いリヴァイアさん以下四天王&前魔王のルキくんを引き連れて、魔王国の問題解決のために全国を飛び回った。


 魔王国が抱える大きな問題は主に3つ。


 1つ、『魔力至上主義』社会問題。

 奴隷落ちした人たちや、その余波で没落した人たちの救済はもちろん、『魔力至上主義』という意識を変えていくのが本当に大変だった。

『だった』というか、問題はまだまだ継続中なんだけどね。まぁ、私が【魔王】の称号を継承し、全魔族が私の従魔になったことにより、以前よりも差別意識は低下傾向にある。

 元・魔力無しで落ちこぼれ扱いだったアデスさんや、他の『魔力はないけど一芸に秀でた魔族たち』を伴って、国中で演説して回る毎日だ。


 2つ、魔王国内の魔族以外の種族問題。

『魔力至上主義』によって迫害されてる獣族とドワーフ族、魔王と魔法神に扇動されてる魔族に嫌気をさしたエルフ族が魔王国の端っこで各自治区を形成してるんだけど、彼らとの融和がなかなか進んでいない。

 まぁ主にTVゲームによる文化交流は大層進んでいるのだけれど、いかんせん、魔族は他種族を迫害・殺害し過ぎた。私は彼らに全面的な自治・独立を保証し、多額の援助金を支払っているのだけれど、融和の道は遠そうだ。

 いやぁ、援助金を支払い過ぎると、魔族側から反発が起きるんだよね。私が人族なもんだから余計に。一度なんか、派手にバラまき過ぎて魔王国各地でデモ発生からのぉ死者まで出てしまい、慌てて【ロード】したよ。


 3つ、勇者アリスわたしによる魔王国への計略問題。

 宝石大放出の方は、大した期間でもなかったことと、私が新発明の数々で新市場を開拓しまくり、魔王国の経済規模が拡大したことでトントンくらいになった。一番拡大したのはTVゲームを始めとする娯楽市場だったけど。

 で、そのTVゲームによって国民をTVゲームの沼に引きずり込むという計略の方は、私が魔王兼従魔の主人特権で『ピコピコは一日3時間まで! ただし週2日の休日はやり放題!』としたため解決した。


 ――そして、今日。

 ついについに、フェッテン様――改め、フェッテン(晴れて呼び捨て!)と結婚した!

 肉体年齢は成人の15。結婚適齢期ど真ん中だ。


 アフレガルド王国の王太子妃となり、早々に大粗相をかました。

 100年ある王国の歴史の中でも、結婚式でガチキスされて気絶した花嫁は私だけではなかろうか。

 ……【イケメン耐性】スキルは鍛えられてたんじゃないかって? あいにく【羞恥耐性】の方は鍛えてないんだよ!

 式の映像はディータ謹製のアリス・ネットワークで全国中継されてるんだよ!?


 フェッテン様もさぁ、額とかほっぺへのキスでお茶を濁すとかさ、私の様子をみて臨機応変にさぁ! 私の気性は知り尽くしてるだろうに!

 って抗議したら、『どうしてもしたかったからだ!』って言われて、私ゃぶっ倒れたよ。






 ……………………で、初夜である。






 私は今、フェッテンのベッドにもぐり込んでいる……全裸で。

 すぐ隣には、愛しのフェッテン。


 めちゃくちゃ、めっちゃくちゃ緊張してる。

 顔なんて真っ赤になってるのが常時【探査】が伝えてくるし、フェッテンの、優しさといやらしさが共存している視線が胸とか布団の中とかに集中しているのがめっちゃ良く分かる。


 かく言う私も、布団の中――ギンギンにそそり立つフェッテンのフェッテンに視線と【探査】と【闘気】が全力集中しているので、人のことは言えない。


 おもむろにフェッテンが私をぎゅっと抱きしめ、キスからのぉ、


「スーーーーーーーーーッ!!」


「!? !? !?」


 ほらまた! その殺人キスはマジでやばいんだって!!


「げほげほっ、だからキスで吸うのはなしって言ってるでしょう!?」


「す、すまない。あまりにもその……アリスが可愛くて」


「~~~~~~~~ッ!!」


 そこから始まる、フェッテンの前戯というか愛撫攻撃!

 ドラゴンの突進を受けても傷ひとつつかないどころか痛痒すらも感じないほどの【体力】――物理防御力――を誇るこの私が、よもや指先と唇と舌に翻弄されるとは!


 フェッテンの、数千年分の欲求の爆発は物凄かった。

 フェッテンに、『えぇぇええっ!? そんなとこまで!?』ってくらいニッチなとこまで全身くまなく愛でられ尽くした。お、男の人が好きなのって、胸とお尻とあそこだけじゃないんだね……ひ、人によるのかな?

 フェッテンがいつも、私のどこをどんな気持ちで見ているのか気になる気になる木……。


 …――そして。


「……………………いいか、アリス?」


「……………………は、はいぃぃ」


 3,077 + 26歳にして、ついについに、初めてのハジメテを――






「閣下!」






「「うわぁぁあああ!?」」


 寝室に、【瞬間移動】でディータが現れた!!


「お休みのところ申し訳ございません!」


「「本当にだよ!!」」


 フェッテンとハモりつつ、無詠唱で自分に【リラクゼーション】。

 性欲と興奮でデロンデロンになっていた思考がクリアになる。


「ですが緊急事態なのです! 王国最西端の海に数隻の巨大戦列艦が現れまして! 陛下からも、すぐに閣下をお連れするようにと」


「はぁ~……コ○ンブス襲来ってわけ。そりゃ確かに緊急事態だわな」


「何とも間の悪い……」


 ベッドから出て服を着ようとしたところ、


「マスター!」


「「「うぉっ!?」」」


 今度はベルゼネさんが【瞬間移動】で現れた!!


「んまっ、これは失礼を――だけど緊急事態なのよ!」


「どうしたんです、血相変えて?」


【アイテムボックス】で簡素なドレスに着替え、部屋を【灯火トーチ】で照らしつつ尋ねる。

 フェッテンも、同じく【アイテムボックス】で早着替えしてる。器用なもんだね。


「王国各地の獣族自治区、エルフ族自治区、ドワーフ族自治区が同盟を組んで、魔王国に宣戦布告を仕掛けてきたのよ!」


「一大事じゃん!?」


「だから、緊急事態なのよ!」


「とりま【1日が10000年にテンサウザンドなる部屋・ルーム】に行って情報の整理を――」


「マスター!」


「また来たよ!」


 今度はリヴァイアさんだ。


「緊急事態です!」


「今度は何!?」


「王都上空に、謎の飛空艇? が数十隻! それも、国境からではなく現れました!」


「はっ!?」


「中からひとりの人間? らしき者が王宮の前に降り立ち、『このホシの主を出せ』などと供述しまして。1時間以内に出さなければ、『ちょうじゅうりょくはどうほう』で王都を粉微塵にすると言ってきております!」


「マッ!? 何だってんだよ!! ちょっと女神様に相談してくる!」


 言ってその場で瞑想。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「どういうことですか女神様ぁ~ッ!!」


「ごめんなさい、アリスちゃん……魔王が従魔化されたことで安心して、監視の目が緩んでました」


「いえ、まぁ……そのお気持ちはとてもよく分かります」


 かく言う魔王の私が、各自治区の蠢動を見抜けなかったくらいなんだもの。『魔力至上主義』解消ばかりに集中しすぎてたよ、反省。


「西の科学大国については、実は折り込み済でした。科学力や艦隊能力では負けるでしょうが、レベル100の国民とレベル500の軍隊ならば何の問題もありません。パパッと蹴散らして、王国優位の講和を結び、逆に科学力を取り込んでやれば良いでしょう。

 各自治区の問題は、アリスちゃんや宰相さんにお任せします。まぁ魔王従魔化直後あたりに戻って、融和政策を重点的にやれば何とかなるでしょう。

 で、上空から来たという謎の飛空艇集団ですが……」


「……ごくり」


「――アリスちゃんが予想しているであろう通り、宇宙人です」


「Oh……超重力波動砲って強いんです?」


「それが……分かりません」


「…………え?」


 今何て言った? 全知全能神ゼニス様が、全てを知り全ての権能を有するゼニス様が、何て言った!?


「わ、分からない……ですと!?」


「ご、ごめんなさい……実はですね、私はこの『星』の全知全能神ではあるのですが、この『宇宙』の神ではないのです……」


「な、ななな……っ!?」


「だってまさか星の外から攻めてくるなんて思わないでしょう!?」


 急に逆ギレしだす女神様。


「宇宙神に交信を取ろうと思っても返事してくれないし! どうしろって言うのよホント! ね、だからアリスちゃん、あなただけが頼りなんです!!」


「え、えぇぇぇぇえええええええ!?」


 女神様にがしっと肩を掴まれる。キスできるほどの至近距離。女神様、可愛いんだけど目が血走ってる……怖い。


「アリスちゃん相手だからぶっちゃけますけど、【ふっかつのじゅもん】実装・維持のために、私や時空神やその他神々は力のほとんどを失っています。だから、本当に、もうどうしようもないほど、アリスちゃんだけが頼りなんです!」


「……………………マ?」


「マジもマジのマジまんじです。どうか、この星を守ってください、勇者アリス!」


「はぁ~…………これ、この星が宇宙人に滅ぼされちゃったりしたら、【ふっかつのじゅもん】案件ですか?」


「無論です」


「無論、ですか……」


 魔王討伐を命じられ、転生してきてはや数千年。


「はぁ~……分かりました」


 無茶振りを受け入れるのも、いい加減慣れてきた。


「苦労をかけますね……」


「それは言わないお約束ですよぅ、おとっつぁん」


「うふふ、そうでしたね」


 女神様と一緒に笑い合うと、元気が戻ってきた。


 そうだよ、今まで何万回とやり直し、何千年と戦ってきたんだ。

 今さらあと数万回、数千年増えようが、誤差だよ誤差!


 ぃよっしゃあ、できらぁ!

 



 私たちの戦いはこれからだ!






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追記回数:551,653回  通算年数:3,077年  レベル:5,100


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