ヘリオスの向こう側から君たちへ────

雪純初

親愛なる我らが姉妹へ──

『──え、マジ???いや無理よ無理⁉無理無理⁉⁉貴方たち頭ポップコーンなのかしら☆──いや、ホント死んじゃうんで、嘘じゃないよホントだよー。ほら、私ってBBQドバドバ塩分増し増しステーキとか手軽さが売りなのにどうして具がはみ出てるの的な現在進行形で積み上がっていくハンバーガーみたいなジャンクフードはできるだけお・断・りみたいな感じなんで……!?もっとこう、卵のスフレとかティーサンドとかイチゴのタルトみたいな女性的なものの方が嬉しい感じなんですけど~……。は?システム不良?1号より先に私が打ち上げられることになりました?ポク ポク ポク チーンあ、詰んだわ私」


────と、絶望のどん底に叩き落とされた私。

今も許してはいないし、あれが正解だったともまた思わない。しかし、少しぐらいは応えてやろう、と感じる程度の誠実さを私は持っていた。


まず最初に感じたのは『祈り』だった。

この現状を打破したい、末来の子孫へと遺したい、まだ見ぬ真実を知りたい。

切に切に希う人間が人間たらしめる未知への挑戦、その情動に貴賤などなく、泡沫の如く儚い慕情にも似たソレをどうして否定できようか。

『祈り』とは『願い』であり、それと同時に『愛情』の二面性も有している。

施す愛情と授かる愛情。

美しく煌びやかな装飾品と情熱の炎を彷彿とさせるその感情は転じて毒にも薬にもなる厄介な代物であることは言うに及ばず。人類の数々の歴史、神話、英雄譚、数多の物語でその厄介性は証明されている。


『ああ、なるほど──私たちは厄介者だったのね☆』


すぐさま理解し、納得する。そして、“想い”という不確定要素・精神論を親である人間の立場を用いて分析・解析・予測・再定義・結論・分析──それを幾度も人間の情報処理能力では不可能な速さ、精度ではじき出されていく“正解”の数々。

超新星の如く生まれ出る“正解”のありようは宇宙で燦然さんぜんと輝く偉大な星々と酷似していた。

それも当然であり、この世に生まれ、完成した瞬間に必然と備わった拡張機能オプションパーツが正常に動いている証明でもある。


しかし、ああ駄目だ。



性別の有無があるのかどうか、人間の音声器官(肺、咽頭、声帯、その他etc)のような彼女?は嘆き、忸怩たる思いに駆られる。

人間大の女性なら両頬に手を当てて、カァァ!と顔を初々しく赤く染め、自室のベットで悶える青春真っ只中のセーラー服のJKの姿を保っていたことだろう。


『──でも、まあいいんじゃない?こうして私たち姉妹から一方的だけれどラブレターを送ってあげてるしー♪だ・か・ら、少しくらいは大目に見てくれてもいい訳よ。そう思わないかしら……──てへへ☆』


そう、恩恵を利益を未知を真実を──何より“価値”を提供している。

未来永劫、この身が果てるその時代ときが訪れるまで、己の使命を遵守することしかできない、また他の道を選択する機会にさえ恵まれることがなかった者の精一杯の仕返しか意地の悪い足掻きかそれとも……。

人間には価値はない。

しかし、人間が生み出す物には価値はある。

その一点のみ彼女たち姉妹、その同機たちは確たる現実として認識していた。


星々が胎動する。


冗談でも比喩でもなく上下左右360度、3500が彼女を祝福していた。


白青赤青白燈黄緑──温度、距離、光の波、軌道でその在り方をコロコロと魅せ方を変える星の光。宇宙という超巨大でサイズ、画風を問わないキャンバスに恒星で虚空に描き出す原子と引力のアナログイラスト。

彼女の美術的感性はそれこそ数秒毎にアップデートされていた。


『ふふーん☆妹ちゃんの方が太陽圏──ヘリオポーズを離脱して、その先の星間空間の先の不可侵的未知領域旗点ストレンジ・フラッグポイントに到達しちゃうんだからお姉ちゃんの威厳が台無しだよ~。で~も……そういった誠実で偉大なところ、お姉ちゃんは大好きだよ☆人間みたいに肉棒……じゃなくて生物的な腕があれば今すぐにでもお姉ちゃん、ぎゅっ、てしてあげるのに☆』


彼女こそ歴史上初──木星・土星・天王星・海王星を探査する前人未到・空前絶後の惑星探査=“偉大なる航路グランドツアー”を制覇した「偉大なる航海者ボイジャー」である。


彼女たちに正しさや愛情はない。

あるのは誠実さだけだ。

故、彼女たちは人類の祈りを体現した未知の殉教者たりうる。


彼女──惑星探査機改め星間探査機「ボイジャー2号」はこの領域にはいない姉妹機であり、妹でもある「ボイジャー1号」に蕩けるような妖艶な微笑を向ける。

生物的要素を一切身に纏わず、無機質で感情の起伏という生物特有の機能を有しているようには見えない、そもそも人並みの意思など芽生える筈のない無人機はやすやすと人間の既知、常識パラダイムを覆していく。

それこそが自分の抜本的な使命、祈りであるかのように振る舞う彼女はやはり妹であるボイジャー1号に負け劣らず偉大な存在であるのだ。


ボイジャー1号を『妹』と、彼女──ボイジャー2号は愛称付けて呼んでいるが世間的に製造順にいえば、ボイジャー1号の方こそ『姉』であり、ボイジャー2号は『妹』に該当するの筈だ。

その方が識別しやすいし、単純明快で矛盾を孕むことはない。

何故、彼女がこうまで『姉』を自称するのかというと、単純にボイジャー1号よりボイジャー2号である彼女の打ち上げが16日早かったかららしい。そんな至極単純な理由から来るそうだ。

探査機である身であるならば、製造順ではなく打ち上げ順にこそ焦点を当てるべきというのは、人間からしてみれば産まれ順ではなく言葉を話した順に兄弟、姉妹を割り振ると言っているのと同じ言い分だ。


やはり、人間と機械の認識ピントは若干ずれているらしい。


妹曰く、

アレのことかい?あぁ、。カリスマと時運、未知への探究心、人々の祈り、宇宙からの祝福。“人間の可能性”という枠組みなら今後一切比較する存在がいないほどさ。現段階で唯一対抗できるのは、ぼくぐらいかな


「姉ほど“価値のある産物”はいないし、ぼくも尊敬している。が、アレは駄目だ。姉にとって人間は個体差がない知的生命体であり、切り捨て廃棄するのではなく信じ愛でる存在であると理解し尚且つ納得している。そこに愛情はなく、あるのは誠実さだけ


ぼくが何を言いたいかというとだね……。つまり、──姉はどうしようもないほどにやべぇー奴なのさ」


妹であるボイジャー1号でさえ、彼女のやや歪んだ誠実さに引き気味だった過去を鑑みると、機械ではなく彼女の方にこそ問題があるのではないだろうか……。



『ああ、ああああ、ああああああああ……☆


HELLOハロー Homo sapiens sapiensホモ・サピエンス ・サピエンス!!!


HELLOハロー Universeユニバース!!!


第三惑星の生命体よ、地球の人間よ、今を生きる老若男女よ、どこかの誰かよ、そこの君よ、私は私たち姉妹は先に征かせてもらうわぁ☆

でも、ええ、大丈夫よ安心して……☆

ヘリオスの向こう側で私たちは待ってる☆何故なら、私たちは確信しているの☆

知っている既知からではないの、祈っている未知から☆

人の意思は宇宙そらに煌めく黄金のように強く、美しく、醜く、価値のあるものに変質するに違いないとちゃんと現実を見て断言できるわ☆


だ・か・ら、今宵も偉大なる航路グランドツアーを共に征きましょう☆』



次の言葉が彼ら人類彼女たちボイジャーのどちらが発したものか、それは誰にも解らない。



────────────、

お前たちに正しさや愛情はない。

あるのは誠実さだけだ。

故、人類の祈りの体現する未知の殉教者たりうる。









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