死ぬのをやめる方法

 外でが無理なら内で。


 出勤して職場のビルの窓の、ハンドリングで開けるアルミニウムでできた扉のそのハンドルを右45°上げて逆観音開きのような、つまり開けた人間が観音の立ち位置にあるようなその孔を開けて下を見た。


 アスファルトが高度に応じた遠近法で下にある。額がくっつくような気がするのだけどそれは錯覚でそのままの感覚でくっつけたら、死ぬ。


 最初にやっぱりアルミニウムでできた窓枠の下の建材に足をかけたのが左足だったのか右足だったのか思い出せないのだけど。


 かけたその膝を伸ばしたことは覚えているのだけど。


 死ぬ瞬間がこういうものなのかどうなのかは全くわからない。


 死んだことがないから。


「おはようございます」


 だからその声がして、かけた足をはずしたのが左足だったのか右足だったのかは見えていたのだとしたらその声に訊かないといけない。


「おはようございま、す」


 死ぬことよりも今の挨拶が奇妙なアクセントと表情になっていたのではないかということが死ぬほど気になった。


 職場のテナントビルのオーナーがまるごと清掃を外注しているビルメンテの女性スタッフが命の恩人なのか。


 命の仇びとなのか。


 知らない。


 知れるわけもない。


 境目もなかったのでそのまま生きているのだろうか。


 その後凄まじい勢いで書き続けてきている。


 どうにもならない万字のタイピングをして。


 死なないでいろ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

生きざるを得ない naka-motoo @naka-motoo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る