第34話 妹ミレア



 アダイたちの村は、俺たちのアジトから徒歩で1時間ほどの距離に存在していた。



「ここが熊人族の村か」



 それほどアジトと離れているわけでもない森の中にこんなに立派な村があるとは予想外であった。



「住人は俺を含めて100人くらいの小さな村だがな。狩猟と農業を中心として細々とやっているよ」



 何にせよ俺にとっては、異世界に召喚されてから初めて訪れる村である。

 文明のレベルとしては元の世界で言うところの中世ヨーロッパくらいだろうか?


 赤レンガで作られた家が立ち並んだ情緒の溢れる雰囲気であった。


 

「それにしても賑やかな村だなぁ」



 村の中は活気に満ちていた。

 素人目に見ても畑の作物は豊かに育っていることが分かり、住人たちの表情には笑顔が溢れていた。



「これも全てヨウジさまのおかげだよ」


「……俺のおかげ?」


「ああ。ヨウジさまから頂いた髪の毛を畑の肥料として活用してみたところ……これが大当たりでね。



 村の特産品であるリンゴやトマトなんかの味の良くなっているので、今では王都の名のある料理店から注文が殺到しているんだよ!」



「……………」



 俺の髪の毛SUGEEE!

 何気なく取引をしていたのだが……まさか髪の毛で村おこしをしているとは思わなかった。


 ~~~~~~~~~~



「着いたぞ。あれが俺が住んでいる家だ」



 アダイの指さす方向にあったのは、村の中でも飛びぬけて立派な家であった。



「なんか他の家に比べるとやけに豪華な気がするけど?」


「ああ。こう見えて俺はこの村の村長をやっているからな」


「マジで……!?」



 というかこの男は、村長の癖に強盗紛いの行為をしていたのか。

 何よりそこにビックリだよ。



「遅いぞ兄貴! 今まで何処に行っていたんだよ!?」


 

 家に入った俺たちを出迎えたのは、頭からぴょこんと熊耳を生やした美少女であった。


 リアと比べると背は低い。

 150センチを少し上回るくらいだが、垢抜けていて大人びた雰囲気を持っている。


 全体的には……熊耳ギャルという表現がしっくりくる美少女であった。


 顔立ちは整っているが、少し化粧が濃いのが好みの分かれるところだろう。



「紹介が遅れたな。こいつが俺の妹のミレアだ。どうだい? なかなかの美人だろう?」



 俺の方に視線を向けながらもアダイは照れくさそうに頭を掻いていた。



「ああ。素直にビックリしたよ」



 兄妹なのにここまで似ないことってあるんだな。

 こんな美人の妹がいたらアダイがシスコンになってしまうのも共感できる。



「なぁ。兄貴。アタシ、言わなかったか? 知らない男の人を勝手に家に上げるなって」



 どうやらミレアちゃんはあまり俺のことを歓迎していないみたいである。

 男に対する嫌悪感を剥き出しにしているようであった。 



「で、そこにいる奴らは何処の誰なんだ?」


「ミレア。この方がお前の命の恩人のヨウジさまだ」


「~~~~っ!」



 アダイの言葉を受けたミレアちゃんは急激に頬を赤くしていく。



「ごめんなさい! アタシったらなんて格好を……! すいません! 1分だけそこで待っていて下さい」



 取り乱したミレアちゃんはドタドタと階段を駆け上がり2階に戻っていく。


 それからピッタリ1分後。

 俺たちの前に現れたのは、やたらと気合の入ったワンピースに着替えたミレアちゃんの姿であった。



「おいおい。たしかそれ……いつか恋人が出来た時に着るってタンスの奥に仕舞っていたやつじゃないか?」


「……や、やだなぁ。兄貴。寝惚けたこと言わないの! こっちがアタシの普段着でしょう?」



 いやいや。

 そんなパーティーに行く時に着るような服を普段着にするやつはいないだろう。



「ささ。ヨージさん。粗末な所ですが、自分の家だと思ってゆっくりくつろいで下さいね。アタシはこれから夕食の準備をして参りますので」



 それだけ言い残すと、ミレアちゃんは俺から逃げるようにして家の奥に消えていく。



「たしかに様子がおかしい。なんとなくだけど……情緒が不安定な気がするな」


「だろ? そうだろ? クッ! やはり聖遺物を与えたことが原因か……」


「…………」



 何故だろう?

 俺たちの会話を聞いていたリアは、なんだか呆れた目線を送っているような気がした。


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最強の種族が人間だった件 ~ エルフ嫁と始める異世界スローライフ ~ 柑橘ゆすら @kankituyusura

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