第33話 熊人族の依頼



「……おはよう。リア」



 何時もと変わらない平和な朝がやってきた。

 目を覚ますと、俺の視界に入ってきたのはエルフの美少女であった。


「おはようございます。主さま」


 スライムたちが増殖したおかげで見張りの仕事が減っているからだろう。

 俺の勧めもあってリアは同じベッドで眠ることが多くなっていた。



「それでは主さま。さっそくで悪いのですが……」



 そこでリアは恥ずかしそうにモジモジと指を絡ませる。

 寸前のところで理性を保っているが、もう我慢できないといった様子である。



「ああ。大丈夫だよ」


「……それでは失礼します」



 許可を与えると、リアは遠慮がちに俺の唇を求めてくる。



「んちゅっ……ちゅっ……」



 だがしかし。

 恥じらいがあるのは最初の方だけで一度キスが始まるとリアは獣に変わる。


 俺には想像ができないんだけど人族の体液は、リアたちにとっては凄く病みつきになってしまう味らしい。


 体力の限界もあって今は2分という時間制限を設けているが、放っておくと1日中でも唇を求められてしまいそうである。



「リア……そろそろ……」


「あっ……」



 キスを中断すると、リアは名残惜しそうに俺の唇を見つめる。


 おいおい。

 そんな顔をしないでくれよ。


 リアが気絶して動けなくなったら困るのは俺である。



「キュー! キュー!」


「よしよし。ライムも構って欲しいんだな」



 青髪の幼女の姿をしたライムには、リアが作った即席の衣服を着せてある。

 本当は街に行って服を選んでやることが出来れば良かったんだけどな。


 即席というだけあって、ライムの格好は露出が多く目のやり場に困るものがあった。



「リア。それじゃあライムと一緒に散歩に行ってくるわ」


「行ってらっしゃいませ。主さま」



 リアに許可を求めると、俺は何時ものようにライムを連れて森の中で散歩を始める。


 以上。

 ここまでの行為が、異世界に召喚されてからの俺の日課である。


 ブラック企業に勤めて心身を壊しかけていた頃のことを思うと、自分のことながら充実した日々を送っていると思う。



 ~~~~~~~~~~



「ヨウジさま! ヨウジさまはいるだろうか!」



 昼になると、アジトの中に聞き覚えの声が響く。

 入口の方にまで足を延ばすと、そこいたのは熊人族のアダイであった。



「どうした? また髪の毛が欲しくなったのか?」


「違う! たしかにヨウジさまの髪の毛は幾らでも欲しいが……そうじゃないんだ!」 



 色々あって熊人族のアダイとは、取引相手として良好な関係を築いている。



「実を言うと……今日はヨウジさまに相談したいことがあって来たんだ」


「相談?」


「ヨウジさまの聖遺物を与えてから、妹の病気が治ったっていう話は以前にしただろう?」



 今でこそ対等な取引相手としての関係を続けているが、元はというとアダイに聖遺物を渡したのは妹を助けるためであった。



「病気が治ってからというもの妹の様子がおかしいんだ。どうにもソワソワしているというか……上の空というか……以前に比べて落ち着きがないんだよ」


「それは気になりますね」



 俺たちの会話に割り込んできたのはリアであった。



「聖遺物の中には、摂取することで中毒症状を起こすものが存在すると聞いたことがあります。もしかしたら妹さんは危険な状態にあるかもしれません」


「その中毒症状っていうのを放っておくとどうなるんだ?」


「定期的に聖遺物を摂取できなければストレスで体を掻き毟って……最終的には死に至ります」


「…………!?」



 それを早く言ってくれ!

 知らなかった。聖遺物って万能アイテムだと思っていたんだけど……そんな危険なものだったのかよ!?


 ……。

 …………。


 いやいや。

 落ち着いて考えてみろ。


 もし俺の聖遺物にそんな危険な症状があるならリアの体調も悪くなるはずだよな?


 となると単純にアダイの思い過ごしという可能性もあるんじゃないかな。



「し、死……!? なんてことった! どうして俺の妹が……うわあああああああああああああああああああ!」



 リアの言葉を聞いたアダイは、凄まじい勢いで取り乱しているようであった。


 流石はシスコン!

 妹の病気を治すために犯罪に手を染めちまうだけのことはある。



「落ち付いて。まずは様子を確認するのが先じゃないか? 慌てるのはそれからでも遅くないぞ」


「そ、そうであったな。流石はヨウジさまだ。頼りになる」



 このシスコンは本当に妹のことになると見境がなくなるから困る。


 それはそれとして……。

 俺の体にそんな危険な成分が含まれているのならば、このまま見過ごすわけにはいかないよな。


 そう考えた俺は、アダイに案内してもらい熊人族の村に向かうことにした。


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